信頼と裏切りの戦場10−6
ーー魔法で甘い汁をすするって、どうやってするんだろう……?
どれだけ考えても想像ができなかった。確かに、リアの使う魔法の力は便利だと思うが、それを自分のために使ってもらおうと考えても、どんなことで使ってもらえばいいのか、全然わからない。身体強化の魔法はいいな、と思うけれど、亜人は元々魔法耐性が高いようだから無理みたいな話をしていたし。
そのほかでなにか使って欲しいようなことがあったかな、と考えるが、まったく思い浮かばなかった。
なので、リアの言う『魔法で甘い汁をすする』ってどうやるのだろう。逆に聞いてみたい気もする。
しかし、リアの周りにはそんなことを簡単に思いつくような人たちばかりいたのだろう。だからこそ、一日中傍にいながら『魔法を使って欲しい』と一言も頼み込んでこないショウが珍しく見えるのかもしれない。
ショウがなにも言えずに口を閉ざしたままでいると、リアは満足そうに「お前はそれでいいのだ」と言った。
「ヴェアール家の権力にも興味がなく、私の魔法にも興味がなく、ただただ私という人間だけを見ている。だから、私も将軍もお前は信用に値すると考えているのだ」
「……」
そんな風に思われているなんて知らなかった。
ショウとしては、リアの実家であるヴェアール家は古くて大きい権力を持つ家であるというのは教えられたが、そうなんだ、と思っただけだ。その権力を利用したいなんて思いつきもしていないのは、ショウ自身が人間社会を知らなさすぎるからだろう。
ショウが暮らしていた里では、身分制度なんてものは存在しなかった。長老などはいたが、それは身分ではなく役職のようなものだったから、基本的にみんなが平等な立場だった。その中で長い年月を生きてきたので、里を出てから人間社会の身分制度を完全に理解するのは難しい。
しかし、人間にとって身分とは絶対だ。下の者は上の者に絶対に従わなければならない。それはわかっているのだが、身分制度というものをよく理解していないショウにとって、リアの実家が大きな権力を持っていると言われても実感が湧かないし、想像もつかない。その権力でなにができるのかすらわからない。
リアの持つ権力や魔法に対しても、自分自身の私利私欲のために利用しようなど考えもしなかった。なので、リアの持つ権力がどれほどのものなのか、一から説明してほしいと思う。そうしてもらったら、なにか思いつくかもしれない。
けれど、そこが信用に値すると思われたのであればそうなのだろう。そんな風に思うくらい、リアの周りには利用しようとしてくる人が後を絶たなかったのだろう。
だからこそ、リアは子供なりに自分を守るためにこれほどまでに大人びてしまったのか。
ショウが思わず哀れみを込めたような視線を向けると、リアは片眉を吊り上げた。
「なにを考えているのかはその表情でわかるぞ。別に私は自分のことを可哀想などとは思っていないからな。それだけは言っておく。私にとって、ヴェアール家に生まれたことは誇りだ。そして、ヴェアール家を継ぐ人間に選ばれたことも、私にとってはこの上ない栄誉なことだ。そのための努力を惜しむつもりはない。私は絶対にこの戦争で生き残って、無事に家に帰るつもりだ。家族とそう約束している」
リアのその言葉で、脳裏に恋人の姿が過ぎった。
人間の戦争に参加すると言った時、恋人は周りのように反対はしなかった。ただただ悲しそうに、「生きて帰ってきてね」と笑っていた。みんなのように反対もせず、置いていくことを責めもしなかった。それに申し訳なさを感じてしまったが、里を守るためにと戦争に参加する意志は曲げなかった。
そして、それだけを言った恋人に対して、ショウは「必ず生きて帰ってくる」と答えた。
ショウにとって、あれが約束だった。リアと同じ、生きて帰るという、絶対に守らなければならない約束。
その約束があったからこそ、ショウはヴェスラ草原での戦争で生き残ることができた。どんな手段を使ってでも生き残るのだと心に決めていたから。じゃないと、あの地獄のような最前線で生き残れるわけがない。
戦争の最前線は、生きるために貪欲にならなければ簡単に命を落とす場所だ。だからといって、亡くなった彼らが死にたがっていたわけではないと思っている。ショウはヴェスラ草原で亡くなった仲間の分も、生きることに貪欲にならなければならないと心に決めている。
リアは自分を黙って見下ろすショウを見上げながら、腕を組んだ。出会った時から変わらない、意志の強い眼差しだ。リアの心の強さをよく表している。




