信頼と裏切りの戦場10−5
ややあって、それがショウの本心であるとわかったリアが、小さく息を吐いた。苛立っている様子はなく、ショウのその返答が当然だとわかっているようだ。
「そうか。ほかの者であれば私のスペースに入ることは許可しないのだが、お前だけは特別に許す。お前だけはここに自由に出入りして構わない。それだけは伝えておく」
その言葉に、さすがのショウもギョッとした。慌てた様子で首を横に振る。
「いやいやいや! リアがいない時には絶対に入らないから! さすがに未婚の女の子の部屋に勝手に入るようなことはしない! リアと一緒の時でさえ、その部屋に入る時は気後れするのに! 一人で女の子の部屋に入れるわけないだろ!」
ショウが暮らしていた里では、男性が未婚の女性の部屋に入ることは恋人関係であってもほとんどない。同性の母親であれば可能だったが、父親ですら未婚の娘の部屋に立ち入ることは良しとされていなかった。人間社会もそこは同じかと思っていたのだが、違うのだろうか?
頭の中でぐるぐるといろんなことを、一瞬で考えた。リアがまだ十三歳の子供だから大丈夫なのか、とか色々と考えたが、やっぱり結局ダメだろうの結論になった。
「そうか? お前には恋人がいるようだし、亜人がたった一人に選んだ相手に一途なのは有名なことだからな。だからお前と私との間で間違いがあるはずもないから、大丈夫だと判断してのことだったんだが……」
その言葉にさらにギョッとする。十三歳の女の子がそんなことを口にするとは思いもしなかった。リアは見た目よりもかなり中身は大人なのかもしれない、と思っていると、「私がいない時にショウが出入りして変な噂を立てられるのも困るだろうから、仕方がないかもしれないな」と言って、一人で納得した表情をしている。
なんでこんなに信頼されているのか不思議でならない。亜人に対して偏見がないのは将軍との関係性を見ていて理解できるが、それでも長い付き合いがあってこその信頼関係だと思う。出会ってから一ヶ月も経ってないようなショウを、ここまで信頼する意味がわからなくて困る。
ショウは自分を指差して口を開いた。
「オレだって一応素性がわからないってことになってるんだぞ。だから、ほかの隊長たちにあんなに毛嫌いされてるんだ。それはわかってるだろ? リアからこんなに信用される意味がわからない」
「ーーいや、お前は大丈夫だ」
ショウの言葉にかぶせるようにはっきりと言い切ったリアに、ショウは言葉を続けようとしていた口を閉ざす。頭が余計に混乱してきた。特になにかをした記憶は一切ない。なのに、リアはショウを信頼できる相手だと言い切る。それが不思議でならなかった。自分のどこをどう見てそう判断しているのか。
リアは困り果てているショウをまっすぐに見上げ、その瞳に射抜かれると視線を外せなくなってしまった。しばらく見つめ合った後、リアは杖でショウの胸をとんと軽く叩く。
「お前は気づいているか? 私と出会ってから一言も魔法を使って欲しいなんて言ってないことを」
「……え?」
出会ってからのことを軽く思い出してみると、確かにリアの言う通りではある。ショウはリアに魔法を使ってもらおうなど、一瞬たりとも考えたこともなかった。魔法は基本的に万能であるらしいが、魔法はなくても普通に生活していけることを知っているからかもしれない。
「リアの魔法でなにをするの?」
逆に問い返してしまった。貴族の社会では問いを問いで返すことはマナー違反なのだが、ショウはそんなことは知らないし、リアは気にしていない様子である。
リアはショウの返答に一瞬だけ驚いた顔をした後、今度こそ少し呆れたような様子で息を吐きながら腕を組んで、なにかを思い出したのか嫌そうな顔をした。
「私の周囲にはな、私の力を自分の私利私欲のために使わせようとする者が多かった。言葉巧みに私を誘導して、魔法を使うように仕向けてくる。私の善意によるもの、という前提を作り上げてな。私はそれにうんざりしていたのだ。だが、お前は出会った時から今まで一度も私の力を利用しようだなんて思いつきもしていない。だから、私はお前は信用するに値すると考えている。それは将軍も同じだと言っていた」
思い返してみれば、将軍はリアに魔法を使って欲しいと頼む時は、しっかりと事情を説明した上でお願いしていた気がする。あの将軍ですら、リアに魔法を使って欲しい時は気を遣っているのだ。今まで、リアがその力を利用しようとする者たちにどれだけうんざりしていたのか、将軍は知っているのだろう。
「お前は私が魔法使いだとわかっても、目の色ひとつ変えなかった。今まで私が出会ってきた者たちは、私がヴェアール家の魔法使いだと知ると、目の色を変えて機嫌を取ろうとしてきたりしていたがな。お前はいい意味で魔法に興味がないようだ。私の魔法で甘い汁をすすろうなど、微塵も考え付かない性格のようだ」




