信頼と裏切りの戦場10−3
そう言ったリアが、「とりあえず、私自身には守護の魔法をかけておこうと思うのだが?」と言い、将軍が「是非に」と答えるのを聞いて、ショウは首を傾げる。
「……リアは魔法耐性が高いから魔法をかけることができないんじゃないの?」
数日くらい前にそんな話を聞いた気がする。思わず口を開いてしまったため、将軍とリアの視線が一斉にショウへ向けられた。あ、黙ってた方がよかったかも、と思っていると、リアが「抜け穴があるのだ」と言った。
「抜け穴?」
魔法にそんなものが? 将軍とリアは当然そのことを知っているらしく、それだけで話は通じ合っているようだ。この場で知らないのはショウだけであるらしい。
「身体強化のように身体に直接魔法をかけなければならないものに関しては、魔法耐性がある者は効果が得にくい。だが、守護魔法のように身体に直接作用しない魔法であれば、魔法耐性がある者にも魔法をかけることが可能なのだ」
「どういうこと?」
説明されても意味がわからず、ますます首を傾げてしまう。つまり、どういうことなんだろう?
ショウがまったく理解していないことがわかったらしいリアだが、そのことについて苛立つ様子は見せなかった。今まで魔法と縁遠い生活を送ってきたショウにとって、魔法のあれこれを知らなくて当然だと理解しているようだ。
ショウ自身、魔法の存在は小さい頃から知っていたが、実際に見たのはヴェスラ草原での戦争の時が初めてだった。しかし、それも遠目で見ただけだ。このフレストに来てから、リアと出会って傍にいるようになってから、かなり間近で魔法を見る機会が多くなった。しかし、それで魔法のすべてを理解できるようになったわけではない。
ショウにとって、魔法はかなり奥深いものであると認識している。魔法の深い部分を理解していなければ使うことができない力だと思った。表面だけを理解したつもりで使えば、魔法は行使した人間に牙を剥く力だろうと。
リア自身は、知らないことを知ろうとするショウに対して煩わしく思うような感情はないようだ。ショウが知りたいという姿勢を見せれば、リアはちゃんと教えてくれる。魔法を理解しようとする者に対して、リアはしっかりと学ぶ機会を与えてくれるタイプの人間だった。
そんなリアは、杖でショウの胸をとんとんと叩いた。
「守護魔法は身体に直接かける魔法ではなく、身体の周囲に膜をかけるような魔法なのだ。つまり、魔法自体が身体に触れるものではない。なので、守護の魔法に関してはかける相手に魔法耐性があろうがなかろうが関係ないのだ。魔法耐性は本人の身体に触れた魔法にだけ効果を発揮する。魔法耐性は身体に触れない魔法に関してはまったく効果を発揮しない体質のことを言う」
「つまり、守護の魔法は身体に触れないようにかけるから魔法耐性は関係ないってこと?」
「そういうことだ」
言いながら、リアは杖を持っていない右手を自分の胸元に置いた。その手を中心として小さな魔法陣が浮かび上がり、足元から風が吹いているかのように赤い髪が左右にふわりと広がる。足元にも魔法陣が浮かび上がり、リアの右手に現れていた魔法陣は頭上へ移動し、上下からリアを挟み込むように魔法陣が動いた。
ちょうど腰のあたりで二つの魔法陣がぶつかり合い、小さく金属がぶつかり合うような澄んだ音が響いて魔法陣が消え去る。きらきらと魔法陣の残滓が周囲を散るが、それもすぐに消えた。
ーーこれでリアに守護の魔法がかかったってこと……?
初めて見る光景だったので、今の魔法がなんの魔法なのかはっきりとはわからないが、話の流れ的に名前が出てきていた守護の魔法だと思われる。
しかし、リアの姿は魔法をかける前とかけた後でなにかが変わった様子はなかった。いつも通りの赤髪のリアだ。
「とりあえず、ここにいる者たちには守護の魔法をかけておこう。守護の魔法自体は魔力の消費は少ないからな。ここにいる四人にかける分に関してはさほど影響はないはずだ」
リアはそう言い、将軍が「わかりました」と言って席を立つ。副官と二人でリアの前に立つ。まだ十三歳の子供であるリアの前に将軍が立つと、将軍の背の高さは際立つような気がした。その隣に立つ副官も将軍と並んでいるとわからないが、よくよく見てみれば人間としては身長が高い方かもしれない。
目の前に立つ男二人を見たリアは、二人に杖を向けた。魔鉱石が付いている方の先端で、二人の足元を続け様にそれぞれ一回ずつこん、こん、と叩いた。
瞬間、二人の足元にまったく同じ魔法陣が現れ、それが一気に二人の身体を駆け上った。そして、一瞬で消え去る。リアの時とは違うが、これで守護魔法が二人にかけられたらしい。やはり、かける前と後では二人に変わった様子は感じられない。
「ショウにもかけてこう」
リアはショウを振り返り、その足元を将軍たちの時と同じようにこつんと叩く。魔法陣が現れ、ショウの身体を一瞬で駆け上り、そのまま消えた。




