信頼と裏切りの戦場10−2
その間にリアは将軍へ向き直り、「特に不審な気配はないようだな」と言った。先ほどのはリアの魔法だったのだろう。
その言葉に、将軍はホッとしたような息を吐いた。
「軍内部に間者が紛れ込んでいれば、軍を束ねる者として責任を問われるところですが、リア様がそうおっしゃるのであれば現在、軍内部に不審者はいないのでしょう」
確かに、軍内部に敵国の人間が忍び込んだとしたら、それは軍を管理する将軍の責任となる。そのため、リアになにかしらの魔法を使ってもらったのだろう。
それから何回か言葉を交わす二人を呆然とした様子で見つめていると、こちらに視線を向けた将軍と目が合った。その将軍がリアへと視線を向けて、こそっとなにかを告げる。
それを聞いたリアはこちらへ赤い瞳を向けた。
「今のが探査の魔法だ」
「……たんさ?」
聞き覚えのない言葉を聞き返す。リアはかつんかつんと杖の先端で地面を叩いた。先ほどは金属がぶつかり合うような澄んだ音が響いたのに、今は普通に木が地面にぶつかるような鈍い音が響く。
「自分を中心にして範囲に魔力を巡らせ、不審な気配がないかどうかを探査するという魔法だ。お前は魔力に敏感だから、なにかが身体の中を走っていくのを感じただろう? あれは私の魔法であり魔力だ。杖で地面を叩いた一回目で駐軍している全域に魔力を巡らせ気配を探り、地面を叩いた二回目で巡らせた魔力を回収して、私の魔力が不審な気配を捉えたかどうかを判断する。身体の前と後ろから魔力が走り抜けたのがよくわかったはずだ」
確かに、身体を一気になにかが走った。一瞬の衝撃に、前へ後ろへ一歩ずつたたらを踏んでしまったくらいだ。なるほど。あれがリアの魔力が身体の中を走り抜けた感覚だったのか。
「探査の魔法に関しては、魔力耐性がある者でも気配を捉えることが可能だ。だから、魔力耐性が高いショウの気配も容易に捉えることができる。それに、魔力に敏感な者はショウのように私の魔力が身体を走り抜けたことに気づくだろうが、基本的に普通の人間ではわからない。将軍もほとんど感じていないはずだ」
今度はリアが将軍に視線を向ける。ショウもつられて将軍を見た。確かに、ショウがリアの魔力を感じた時、将軍は平然としていたような気がする。慣れているのかと思ったら、感じていないだけだったらしい。
リアの言葉に、将軍が苦笑する。
「俺は見た目は人間離れしていますが、中身は人間そのままですよ。ですから、魔力はほとんど感じません。まぁ、亜人の血が少しでも流れているおかげで魔力耐性が少しありますが……」
地面を叩いた一瞬で、リアの魔力は駐軍している全域に展開したのだろうが、かなり広範囲だったはずだ。その範囲にあっという間に魔力を広げて探査し終えるのだから、リアの魔法に対する才能が確かなものである証明になる。
それに、それだけの広範囲に魔力を巡らせておきながら、まったく疲れている様子を見せない。リアの持つ魔力の高さが窺える。
「常に魔力を広範囲に巡らせるのは難しいから、二時間に一度ほど探査を行ってみよう。夜は全域は難しいが、本営内は常に展開して不審な気配を探っておく。隊長以上の階級者は、可能であれば夜は本営内に滞在するように通達を出してくれ。ただし、私が探査の魔法を展開していることはくれぐれも秘密だ。そのことがどこからか漏れれば、敵国の間者も動かなくなってしまう可能性が出てくる」
「承知いたしました。間者の目的はリア様のお命である可能性も大いにあります。なので、行動する際は細心の注意を払っていただけたら」
「わかった」
こくりと頷いたリアは、ショウを振り返って「頼んだぞ」と言ってきた。なので、ショウは「わかった」と返事をするしかなかった。この戦争に勝つために必要な存在であるリアを、絶対に失うわけにはいかないと思っているのは将軍や副官だけではない。ショウだってそう思っている。
それに、頼りにされているのがなによりも嬉しかった。人間社会では何者でもないショウを頼りにしてくれている人がいる喜びに勝るものはない。必要とされることで、ここにいていいのだと思うことができた。
だからこそ、自分の両肩に乗っかってきた重圧をひしひしと感じた。
リアが死ぬようなことがあればこの国は戦争に負けて、ショウの里だって敵国の人間に蹂躙される可能性だってある。それだけは絶対に避けなくてはならない。そんなことになったら、みんなの反対を押し切って里を出てきた意味がない。
「とりあえず、リア様は今回の件が解決するまでは本営から出ないようにお願いいたします」
その言葉に、リアはわずかに顔を顰めた。だが、兵士が殺された理由と殺した相手が見つかっていない今では、比較的安全な本営から出ることは自殺行為でしかないことはわかっているようだ。
「了解した」




