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Wind Illusion Story ー世界は混沌に選ばれし勇者の再来を待ち望むー  作者: 雪杜 凛


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信頼と裏切りの戦場10-1

  10.


「兵士が殺された……?」

 予想外の言葉に、リアは眉を寄せる。兵士同士の喧嘩は日常茶飯事だが、命を奪われるような状況にまでは発展しないことがほとんどだ。そこらへんは弁えている者たちばかりなので、軍内部で殺人が起きるはずがない。

 冗談かと思ったリアだが、結界魔法を使わせたことといい将軍の雰囲気からして、嘘を言っているわけではないのはすぐにわかった。だから、一人の兵士が亡くなったのは間違いないのだろう。

「喧嘩の度が過ぎたのか?」

 真っ先に考えたのはそのことだった。喧嘩が起きるのはよくあるため、それが発展して殺人にまで至ったのではないかと。だとしたら、それは将軍が処分を下すだけで済む話で、リアを呼び出すほどのことではないはず。

 なので、余計に首を傾げてしまう。しかし、敵国と睨み合っている今の状況では、兵士一人でも大切な戦力だ。それを失ったのはサウス=リアクターの損失になるだろう。

「殺害した相手への処罰は済んでいるのか?」

 将軍はリアがそう言うのは想定の範囲内だったらしく、「いえ……」とゆっくり首を横に振った。

「殺害した犯人はわかりません」

「……わからない?」

「遺体が発見されたのは、歩兵部隊が待機している場所から少し離れた茂みの中です。その場所付近は歩兵部隊隊長が立ち入りを禁止しているため、隊員が立ち入ることがない場所でした。今日の朝、一人の隊員が見当たらないことに気づいた兵士から報告を受けた隊長からの命令で付近を探していたところ、その茂みの中から首を切られて殺されている隊員が見つかったそうです」

「首を……? 魔物の可能性は?」

「軍医にも確認してもらいましたが、首の傷は刃物によるもので間違いないと報告を受けています」

「今回同行している軍医が言うのであれば、間違いはないだろうな」

 リアは軍医が誰なのかを知っているらしい。ショウは会ったことがないのだが、リアが信用している人のようなので腕前は確かなのだろうと思った。

 ショウの様子からして、リアはショウが軍医に会ったことがないとわかったのだろう。軽くどんな人物なのか教えてくれた。

 今回、同行している軍医は王宮にいる医師の中でも筆頭医師と呼ばれる十人いる医師の中でも特に優秀な人らしい。その人が刃物で間違いないと言うのだから、リアが真っ先に考えた魔物の可能性は低いだろうとのことだった。

 リアも同じようで、遺体を検視した軍医が間違っていると疑いを見せる様子はなかった。

「では、敵兵が忍び込んでいる可能性は?」

 それはショウも考えていた。魔物ではないとしたら、考えられる可能性はそれしかなかない。

「その可能性も考えています。とりあえず、兵士たちには一人で行動しないこと。夜は不寝番を一人か二人は置くことを通達しました」

「相手の目的がわからない以上、それしか手立てはないだろう。私も駐軍している全域を常に探査の魔法で監視し続けるのは難しいが、こまめに探査の魔法を行って不審な気配がないかどうかを確認しておくことはできる」

 リアの提案に、将軍が頭を下げる。軍のトップに立つような男が十三歳の女の子に頭を下げている光景は、ほかの隊長が見たら驚くだろう。ショウはそろそろ見慣れてきてしまったので、最初の時よりかは驚きは少ない。

「リア様のお手を煩わせてしまい、申し訳ありません。よろしくお願いいたします」

「構わん。そのために私が参加しているわけだからな。常に探査の魔法を展開し続けられないのが申し訳ないがな」

「いえ、そのようなことはございません。サウス=リアクター軍が駐軍している範囲は広大です。その範囲を常に魔法で探査し続けるなど、リア様の負担が大きいのは重々承知しております。リア様だけに負担を押し付けるようなことは致しません」

「そう言ってもらえるとありがたい。試しに現在、不審な気配がないか探査してみよう」

 そう言ったリアが椅子から立ち上がり、魔鉱石がはめられている杖の先端で地面をコツンと叩いた。その瞬間、赤い魔鉱石が淡い光を放ち、そこを中心になにかが一気に周囲を駆けていった気がした。

 気がしただけで、なにかが見えたわけではない。

「……?」

 自分の身体の中をなにかが通り抜けたような感覚に、ショウは驚いて一歩下がる。呆然として自分の身体を見下ろすものの、特になにか変化が起きたような様子はなかった。

 ーーなんだ、今の……?

 なんとも言えない不思議な感覚に戸惑っていると、リアはもう一度杖の先端で地面を叩いた。しばらくしてから背後からなにかが素早く通り抜ける感覚がして、今度は前の方に一歩動く。

「……?」

 本当になにが起こっているのかさっぱりわからない。

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