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Wind Illusion Story ー世界は混沌に選ばれし勇者の再来を待ち望むー  作者: 雪杜 凛


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信頼と裏切りの戦場9−2

「母は封蝋の家紋を見た瞬間に言葉を失い、震える手で封を開けたのを覚えています。そしてその手紙を読んでから泣き崩れ、体調を崩してしばらく床に臥せってしまいました。私と兄は母が隠したその手紙を見つけ出し、こっそりと読んだんです」

「それで、自分の父親が貴族の人間だったとわかったのか?」

 リアの言葉に、ローゼムは「手紙には差出人は書かれておらず、わかるのは封蝋に押されている家紋だけでした。それを手がかりに二人でサウス=リアクターの貴族の家紋を調べ上げました」と言う。

「その手紙には、なんと書かれていたのだ? 母親がショックで寝込むような内容だったのだろう?」

「手紙の内容は、『息子が死んだのはお前のせいだ。お前と一緒にならなければ、息子にはもっと幸せになれる人生を用意してあげられた。お前が息子を殺したのだ。私は息子を殺したお前を絶対に許さない』みたいなことが書かれていたんです」

 ずっと無表情で話を聞いていたパティが、うわぁ、というような顔をしたのが視界の端に映る。パティもどちらかと言えば頭の硬い貴族連中が苦手なので、話を聞いていて不快感を覚えたのだろう。

 リアは「手紙を送ってきた貴族の家紋を調べたのだろう? 家名はわかったか?」と冷静に問いかける。

 顎に手を置いて考え込んだローゼムは、ややあって「もう十年ほど前のことなのですが、家名は確かフィッツラルドだったかと思います」と言う。

 それを聞いて、リアが「あそこか……」と言いながら眉を寄せる。どうやら知っている家名だったようだ。リアのことだから、サウス=リアクターに存在しているすべての貴族の家名は頭に入っているだろう。

「フィッツラルドか……。あそこは昔ながらの頭の硬い一族で有名だな。昔からヴェアール家を毛嫌いしていて、王都の社交界で会えば遠回しに嫌味を言ってくるような家だった。私も父も彼らにはうんざりしていたのだが、最近、前当主が病が元で亡くなり、次男が跡を継いだと聞いている。その次男も父親の血が強いのか昔ながらの考え方をしていると聞いている。私は会ったことがないが、父が『次男は父親そっくりだ』と言っていた。元々の後継者だった長男は急死したと報告されて、次男が新しい後継者になったと聞いていたが、もしやその長男とはお前の父親のことだったのか?」

「父が亡くなっている以上、はっきりとしたことはわかりませんが、私もそう思っています。この国に来てフィッツラルドという名前の貴族を調べて、父は亡くなったことになっている長男だったのではないかと。王都で母と出会って恋に落ちたものの、自分の父親からは結婚を反対され、どうしても母と一緒になりたかった父は考えた末に家を捨て駆け落ちしたのではないかと私は考えました。フィッツラルドの力はそれなりに強いようなので、それから逃れるためにその力が及ばないような他国へ逃げ、ノース=カイマートで暮らし始めたのではないかと、私と兄はそう結論づけました」

「そう言われたら、全部が繋がっていくな。フィッツラルドはヴェアールと比べれば歴史も浅く権力も小さい家だが、それでも国の中枢を担う中央貴族の一つに名を連ねている。それが彼らの揺るぎな誇りとなっているはずだ。だから、自分たちよりも歴史が古く強い権力を持つヴェアール家が目障りなんだろうな。だが、そんなフィッツラルド家でも国内にいれば発見されて連れ戻される可能性は高いだろう。お前の父親と母親の判断は正しかったと思うぞ」

「そして、母はその手紙にショックを受けてから寝込んでしまい、そのまま病を得て父を追うように亡くなってしまいました。その時、私たちは成人直前の十五歳でした。これからは兄弟二人で生きていかないといけないと思っていたところ、兄から『俺が働いて家を支えるから、お前は昔からの夢だった薬師を目指せ』と言って、本当に数日でいくつかの仕事を見つけて寝る間も惜しんで働き始めました。薬師になるためには膨大な費用と時間がかかります。それを全部、自分が工面するからと」

 あのレンゼムなら言いそうなことだな、とショウは思った。それはリアも同じだったようだ。納得しているかのように小さく頷いている。

「でも、一生懸命働きながら、兄の心の中には父を失ったばかりでショックを受けている母を追い詰めた祖父であるフィッツラルド卿に対しての怒りが燻っていたようです。そのうち戦争が始まり、私に対して召集命令が来た時、兄は『父と母を見捨てた国に仇を討ってくる。絶対にフィッツラルドは許さない』と言って私の代わりに行ってしまったんです」

 その時には、レンゼムのおかげでしばらくの生活には困らないほどのお金が家にはあり、それを使ってローゼムは生活していたと言う。

 薬師の勉強をしながら兄の帰りを待ち続けたものの、村長から『レンゼムは戦死した』と聞かされ、それを信じたくないあまりに母親の親戚を頼ってこの街に来たらしい。

「この街を移住先に選んだのは、隣がフィッツラルドの領地だからなのか?」

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