信頼と裏切りの戦場8−2
「リア様、フレストでしか獲れない魚をご存知ですか?」
フレストは大陸の中心にある《聖域》を囲むように存在している湖の名前だ。《聖域》は立ち入りを禁止されている場所であるが、その周りの湖の立ち入りは自由にできる。だが、サウス=リアクターとノース=カイマートの国境も存在しているため、漁をする場合はその国境線を気にしなければならない。
そして、湖である以上、魚は存在しているだろうし、フレストの周辺で暮らしている者たちであればそこでの漁で生計を立てていてもおかしくはない。
「レンゼムの村ではフレストで漁をしていたのか?」
「はい。私の村では男の半分はフレストで漁を行い、半分や森で狩りを行います。私は弓の才能があったために狩りのグループに所属していたのですが、弓の才能に乏しかった者たちはフレストで漁を行う漁師になる者がほとんどです。畑作業は男たちが手分けして行っていたんです。女性は村の運営を担っていて、村長も女性だったんですよ。性別による役割分担がかなりはっきり分かれている村でした」
レンゼムの言葉に、リアは少しだけ驚いたような表情を見せた。広大なヴェアール領にもいくつかの集落が存在していたのだが、これほどまでに性別で役割分担がはっきり分かれてはいなかったのだろう。
「……ほう、それは珍しいな。王族も貴族も、基本的に男が継ぐことが多いのだがな。ヴェアール領に住む者たちも、基本的には男性が跡を継ぐぞ。女性は家を守る方に回ることが多かった。だが、今は戦争でかなり男性が徴兵されているからな。今まで男性がしていたような仕事を女性も行うようになってきたと報告を受けている」
「よそでは男が跡継ぎの場合が多いんですか? 失礼ながら、リア様は女性ですがヴェアール家を継がれるのですよね? ヴェアール家の後継者は男女関係ないのですか?」
レンゼムの不思議そうな声音に、周りで聞いていた隊員たちが顔面蒼白になった。あわあわと慌て出し、その姿を元凶であるレンゼムは首を傾げて見ている。自分の発言がリアの不敬を買うかもしれないと思い至っていないようだ。
しかし、後ろで話を聞いていたショウは、そういえばそうだな、と思った。ショウの里でも、基本的に家を継ぐのは男性の場合が多く、女性は結婚して相手の家に入るのが普通だった。子供が女しか生まれなかった家には男性が婿入りすることもあったが、ショウが知っている限り、そんなことがあったのは遠い昔に一回だけだった。
亜人は長く生きる分、子供を多く産むようなイメージを持たれがちなのだが、亜人は生殖能力がかなり低く子供が生まれにくい傾向がある。そのため、亜人の数はなかなか増えずにいる。ショウの里でも、亜人の数はなだらかに増えたりするものの、里の外に出て行く者も一定数いたため、人口はほとんど変わらなかった。逆に少しずつ減っていくため、長老たちが頭を抱えていたのを思い出す。
ショウが里を出る時、まだ成人していない子供は片手で数えるほどしかいなかった。ショウ自身も、両親が結婚してから二百年経って生まれた待望の子供だったと聞いている。それから子供には恵まれなかったらしく、ショウに兄弟は存在していない。
ほかの家でも、子供は一人だけや二人だけのところが多く、多くても三人しかいないという感じだった。なので、軍に所属してから周りの兵士たちは兄弟が多いという話を聞いてかなり驚いたのを覚えている。十二人兄弟と聞いた時は、驚きすぎて言葉も出なかった。人間は二人の夫婦からそんなに子供が生まれるのかとある意味ショックを受けた。
ショウがそんなことを考えている間、リアはレンゼムの言葉に気分を害した様子も見せず、口を開いていた。
「ヴェアール家は貴族の中では珍しい多くの魔法使いを輩出する家柄だからな。昔から本家に生まれた子供の中で、一番魔力量が多い者が跡を継ぐと決まっている。私には兄と弟がいるが、その中で魔力量が一番多いのは私だからな。例外的に本家に子供が生まれなかった場合、いくつかある分家の中から一番魔力量が多い者が養子に入ることになっている。弟が生まれた時に母が亡くなり、父は後妻を娶るつもりもなかったので、私たち三人兄弟の中から後継者を決めることにしたらしい。その時点で私の魔力量はほかの兄弟の中で群を抜いていたから、成長すれば私が一番の魔力量になるだろうと父は判断したようだ。ヴェアール家は昔からその方法で後継者を決めていたので、兄も弟も納得しているため今のところ跡目争いが起きる気配はないな。二人とも私が跡を継いだ後、補佐に回るつもりだと言っている。それに、私がヴェアール家の後継者として国王にも承認をもらっているしな」
「……国王陛下からの承認ですか?」
話を聞いていたショウと同じ疑問を覚えた兵士の一人が声を出した。リアはそちらの方に視線を向ける。




