信頼と裏切りの戦場8−1
8.
「あ、リア様!」
そう言って、訪れたリアを満面の笑みで迎えたのは、数日前に兵士に志願したレンゼムだった。
リアから入隊を認められ、将軍との話し合いの末に配属先が決まったのが昨日の話。レンゼムを含む数人の若者は正式に弓兵部隊への配属となり、将軍より配属先が書かれた書類を渡されたレンゼムたちは快諾し、昨日のうちに弓兵部隊に場所を移していた。
次の日、そんなレンゼムたちの様子を見に来たリアだが、もともと明るい性格をしているらしいレンゼムは、あっという間に弓兵部隊の者たちと打ち解けたようだ。何人かと丸くなって楽しそうに話をしている様子だった。
レンゼムはリアには背中を向けており、その向かい側にいた兵士が近づいてくる赤い髪の少女の存在に気づき、慌てた様子で低頭した。それを見ていた周りの兵士たちもリアに気づいて頭を下げ、その光景を見たレンゼムが不思議そうな表情で振り返ってきて、リアの姿を目に止めた後、満面の笑みを浮かべてその名を呼んで大きく手を振った。
「馴染むのが早いな……」
リアの呟きに、ショウは思わず頷いてしまう。レンゼムは、かなり人間関係を築くのが上手いタイプらしい。突撃部隊に馴染むまで周りにかなり気を使わせてしまったショウとはだいぶ違うようで、自分との違いにショウは驚きを隠せずにいた。
「ようこそいらっしゃいました、リア様」
周りの兵士たちは頭を下げる姿勢を崩してはいないのに、レンゼムはそれを気にすることなく自分の隣を空けて、リアにそこに座ることを促す。魔法使いを反射的に畏怖するほかの兵士とは違い、レンゼムはまったくリアに対して負の感情を持っていないらしい。それがリアにとっては新鮮だったらしく、表情が少しだけ年相応の女の子のように見えた。
ショウもレンゼムのようにリアに対して畏怖の感情は持ち合わせてはいない。魔法とほとんど関係ない場所で生きていたこともあり、リアが魔法使いの名門貴族の生まれであると知っても、特に敬おうとかそういう気持ちは湧いてはこない。
将軍からは「そういうところが気に入られているんだろうな」と言われた。「リア様はその見た目だけで相手から一歩引かれてしまうからな。仲良くしようと一歩近づいても、相手は三歩以上後ろに下がって距離を縮めさせてはくれない」と。
だから、初対面の時に魔法使いだとわかっていながら子供扱いしようとしてきたショウを気に入ったらしい。その後も、ヴェアール家の人間だと知りながらも態度を変えなかったので、さらに気に入られたようだ。
『リア様も大人びてはいらっしゃるが、年相応の子供らしい部分もある。友達を作ろうとしても簡単には作れないからな。寂しい思いはされているはずだ。それをこちらにはまったく感じさせないが。だから、周りを違う反応を見せる相手には心を許しがちになる。だから、そこを気をつけて見ておいてくれ』
昨日の夜、みんなが寝静まってから将軍に呼び出されたショウはそう言われた。リアは自分のスペースで寝ており、その近くで不寝番をしていたショウは「交代する」と言った副官から将軍から呼び出されていると告げられたのだ。
今のところ、リアがこの軍の中で会話をするのはショウと将軍と副官とレンゼムくらいだ。リアがレンゼムの入隊を許可したために将軍はそのことについてはなにも言わなかったが、不審なところがあるのか部下に色々と調べていると言っていた。
なので、少しリアの周囲に注意を配っていておいてくれ、との話で、ショウも気を抜かずに警戒しておくようにと念を押されて、その日は話が終わった。
次の日、リアがレンゼムの元に行くと言うので、ショウの脳裏には昨日将軍と話した言葉が脳裏を過った。リアの行動を制限させるつもりはないので、「わかりました」と返事するしかなかったが。
ショウはレンゼムの隣に座ったリアの背後に控えて、ほかの兵士たちに視線を送る。少しでも不審な動きをした場合には問答無用で斬るつもりでいた。それに気づいた弓兵部隊の者たちはさっとショウから視線を逸らしたが、レンゼムはまったく気にしていない様子だ。
なにが楽しいのか常にニコニコと笑っており、戦争に参加しているはずなのに重苦しい空気は一切感じられない。ショウから見れば不思議な雰囲気を感じる男なのだが、リアは自分を恐れないレンゼムを気に入ったらしく、それから何度もレンゼムの元へ足を運ぶようになった。
何度も足を運んでいると、最初はリアに対して恐縮していた弓兵部隊員だが、回数を重ねるにつれて慣れてきたのか空気が柔らかくなっていくのがよくわかった。
軍内部を自由に歩くことを許されているリアは、基本的に本営と突撃部隊と弓兵部隊を行き来するようになった。ショウの部下である突撃部隊員も、リアに慣れつつあるのか緊張しながらも言葉を交わすようになってきており、やはり人間は慣れる生き物なんだなとショウは思った。




