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Wind Illusion Story ー世界は混沌に選ばれし勇者の再来を待ち望むー  作者: 雪杜 凛


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再会2−3

「ーーーーっ!」

 即座に反応したリアはその煌めきを杖で受け止める。

 甲高い大きな音がした。

 リアの杖は万年樹木と呼ばれる木を削って造られたもので、並の人間では傷一つつけることはできない。それに加え魔力を流し込んでいるため、強度はかなりのものだ。なので、今回の一撃を受けても跳ね返すだけで傷はつかなかった。

 重い一撃に杖を落としそうになるほど手が痺れた。リアは魔法使いであって剣士ではないため、接近戦には弱い。これ以上接近戦が続けば、こちらの分が悪い。すぐに離れなければ、と襲いかかってきた相手を確認すると、リアよりも頭一個分背が高い。体格からして男だ。

「誰だ!」

 誰何すると、相手の動きが止まった。その隙に、リアが相手の剣をはじき、距離を取る。離れればこちらのものだ。あちらが近づいてくる前に、拘束魔法を使えばいい。

 焚き火の灯りが届かない場所に立っている相手を見据えても、顔はよく見えない。手に持っている武器は長剣のようだ。盗賊が重くて折れやすいことで有名な扱いにくい剣を使うことは珍しい。

 しかし、その長剣はどこかで見たことがあるような気がするが思い出せない。

「もう一度訊ねる。誰だ?」

 問答無用で襲ってくるということは、それだけ金に困っているか腹を空かせているか。誰も通らなくなった山道で盗賊と鉢合わせするとは運が悪い。もしかしたら、ここの近くに拠点があるのか。

 だが、リアの予想とは裏腹に相手は構えを解いた。そして、問いかけてくる。


「その声は……」


 掠れている。それに加え、少しアクセントが違う。だが、発せられている言葉は間違いなくフーゲン大陸共通語。

 相手の声を聞いて、リアは眉を寄せた。どこかで聞き覚えがあるような声に聞こえた。見覚えのある長剣に、聞き覚えるのある声。

 記憶の中で一人の該当人物の顔が出てきたが、すぐに違う、と頭を振る。彼がここにいるわけがない。二度と会うことはないはずなのだから。

「お前は……誰だ?」

 でも、まさか……。

 三度の誰何する言葉に、相手は一歩だけ前に出てきた。その動きに反応し、リアがいつでも魔法が使えるように杖を構える。後ろでパティも構えたのが気配でわかった。襲いかかってきたら、容赦なく拘束魔法を発動しようと魔力を練り始める。

 だが、一歩だけ前に出てきて焚き火の明かりで照らされた相手の顔を見た瞬間、リアは驚愕した。


「――――ショウ!」


「あぁ、やっぱりリアだ……」

 あちこちが泥にまみれ、ボロボロになった衣服をまとった青年は、どこか安堵したように笑った。そしてそのまま力尽きたかのように座りこむ。

 リアは杖を向けるのをやめ、駆け寄った。

「お前……なぜ、このようなところにいるのだ? 故郷に戻ったのではないのか?」

 問いかけに、ショウと呼ばれた青年は深く息を吐いた。

「少し事情があって……出てきた」

「そうか」

 事情があるのなら詳しく訊ねないほうがいいだろう。

 リアはとりあえず座り込むショウを立たせ、焚き火の近くに座らせた。

 その時、ショウの腹が鳴ったので、乾パンを炙るようにパティに頼む。

 ショウの黒銀の髪が焚き火の明かりに照らされる。光の当たり具合で色が変わる髪と瞳は、記憶の中となにも変わらない。

「二年ぶりか?」

 リアが訊ねると、ショウは「そうだな」と力なく笑った。少しやつれているようにも見える。満足に食事は摂っていないようだ。

「リアはずいぶんと大人っぽくなったな」

「人間は二年もあれば変わる」

「ははっ。特に女は化けるって言うからな」

 パティは炙って大きくなった乾パンをリアに差し出しながら、「この人、誰?」と訊ねる。

 すっかり二人で話し込んでいたリアは、やっとパティにショウを紹介していないことに気づき、乾パンを受け取りながら口を開く。

「あぁ、パティは知らないのだな。こいつは、ショウ=アステール。過去に私と背中を預けて戦った、戦友みたいな奴だ」

「戦友みたいな奴じゃなくて、戦友だよ」

「まぁ、確かにそうかもしれないな。あの時はお前に世話になった」

「オレの方が世話になったと思うけどな」

 リアから差し出された乾パンを受け取ったショウは礼を言いながらちぎって食べ始める。

「それで、リアと一緒にいる子は誰なんだ?」

 ショウには義妹がいるという話をしたことはあるが、会ったのはこれが初めてだ。誰かわからなくて当然だろう。それに、パティとリアでは見た目が違いすぎる。血縁関係ではないことは一目瞭然で、だからこそどういう関係なのかがわからないのだろう。

「ショウ。この子は、パティ=クラージュ。私の義妹だ」

 ショウの視線がパティへ向く。

 名前に聞き覚えがあったようで、納得したように頷いた。

「あぁ、リアが家の前で倒れているところを拾ったって言ってた子か……」

「そうだ」

 乾パンをすべて食べ切ってから、ショウはパティに向かって手を伸ばす。

「初めまして。ショウ=アステールだ」

 差し出された手を見て、パティは姉へと視線を向ける。それを見ていたリアが「大丈夫だ。ショウは悪いやつじゃない」と言ったのでその言葉を信用しておずおずとその手を握る。大人の男の人らしい大きな手だな、とパティは思った。父とは違い、剣を握る人の手だ。先ほどまでショウが持っていた長剣が視界に入ってくる。そんな人に対してリアが世話になったと言うのだから、ショウはかなりの手練れだろうとパティは思った。

「……パティ=クラージュ」

 人見知り気味でまだ警戒心が解けないパティは名前だけを告げ、ショウの手を離した。一見すると愛想がないように見えるが、ショウは大して気にししなかったようだ。「よろしく」と言って、視線をリアへと戻す。

「なぁ、さっきのもう一個食べていい?」

「乾パンか? まぁ、余分に持ち歩いているしいいだろう。パティ頼む。私はその間に、ショウの傷を治しておこう」

 相当お腹が空いている様子のショウは、一個では足りなかったようだ。それもそうだろうな、と思いながら、リアはパティが乾パンを炙り出したのを視界の端に映しながら、ショウの身体中にある細かな傷を魔法で癒していく。服はところどころが破けており、身体には細かい傷が無数に走っている。どういう経緯でここまで来たのかはわからないが、ただ単に旅をしているだけにしてはこの姿はあまりにもおかしい。

「……はい」

 パティが炙って膨らんだ乾パンをショウへ差し出し、彼はお礼を言いながら受け取った。

 二つ目もあっという間に平らげ、ショウの表情に少し余裕が戻ってくる。ぴりぴりとした雰囲気がなくなったため、リアはほっと息をつく。気配に敏感なパティは特にその気配を感じ取り、リアの友人だと聞いても警戒心が拭えなかったようだ。パティからも緊張した空気が消える。

「助かったよ」

「礼などいい。困っている友人がいれば助けるのは当然のことだ。それにしても、その格好はどうしたのだ?」

「ちょっと色々あってね。必死に生きているうちにこうなってしまったんだ」

 泥だらけでボロボロ。ところどころ破れている。刃物で破られたような跡も見受けられるから、盗賊にでも襲われた可能性が高い。

 ショウのことだから盗賊如きに遅れを取るとは思わないが、盗賊は数で襲ってくる。ショウほどの手練れであっても少しは苦戦したことだろう。

「そうか……」

 リアが目を伏せる。昔にショウから聞いた話では、彼の里に住む者たちは滅多に里から出ることはないと言っていた。なのに、彼が里を出てここにいるのにはなにか理由があるのだろうか。その理由を訊ねてもいいのかと逡巡する。

 その空気を感じ取ったのか、今度はショウの方からリアへ訊ねてきた。

「そう言うリアこそどうしたんだ? ヴェアール家の後を継ぐ準備をするんじゃなかったのか?」

 あぁ、と思い出す。確か、最後に別れの時はそう言った気がする。あの時は、二度と会うことはないと思っていた。通常であれば、リアとショウの道が交わることは絶対にない。それくらい、二人が生きている環境や立場は違っていた。

「ちょっと事情があって寄り道だ。今は家を出て、ある目的地に向かって旅をしているところだ」

 へぇ、とショウが言って、会話がなくなる。 それを訊ねていいのかどうかの空気が流れる。

 お互いに、なぜ相手がここにいるのかを疑問に思っているのは空気でわかる。ショウは里から基本的に出ない生活をしているし、リアもリアでヴェアール家の屋敷がある領地からはあまり外に出ることはない。

 なのに、ここで出会った。それを互いに疑問に思って当然なのだ。しかし、それを訊ねていいのかがわからない。

 沈黙の中、焚き火が爆ぜる音だけが響く。

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