再会2−2
しばらく進むと、目指していた拓けた場所に着いた。
ここは、旅人の行き来が盛んだった時に休憩所として作られた場所だ。いくつものテントが張れるように、広めに作られている。広場の中心には草木が生えにくくなる範囲系の魔法が施された魔鉱石が埋め込まれており、この状態を見る限り、その魔鉱石の効力はまだ続いているようだ。
とりあえず、また誰かが通るかもしれない時のために、あとで魔鉱石に魔力を補充しておこうと思いながら、少女は背中に背負っていた荷物を下ろす。
「今日はここで野宿だな」
少女が言い、後ろからついてきていた義妹も背負っていた荷物を下ろし、中からテントを取り出す。それを受け取った少女は、慣れた手つきでテントを張り始める。最初はどう張ればいいのかわからなくて義妹に教えてもらっていたのだが、今では一人でできるようになった。
「パティは枝を拾って来てくれ」
パティと呼ばれた金髪碧眼の少女は、「わかった」と頷いて森の中に入っていく。森の中には魔物がいる危険性があるのだが、パティはヴェアール家にてしっかりと訓練を受けているので魔物ごときに遅れを取ることはない。それに、いざという時用の防護魔法も施してある。通常の魔物であれば、傷一つつけることはできないだろう。
テントが張り終わった頃に、パティが小脇いっぱいに枝を抱えて戻って来た。森の中なので、枝を探すのにはさほど苦労しなかったはずだ。
枝を適当に寄せ集め、「燃えろ」と小さく唱える。
少しだけ放出した魔力は枝の上で構築され、『奇跡』となった。ボッと炎が現れ、枝を燃やし始める。
その間に、パティが荷物を入れているリュックの中をガサゴソとあさり、「お姉ちゃん、はい」と何かを差し出してくる。
お姉ちゃんと呼ばれた少女――リアは、パティが差し出した乾パンを受け取った。それを同じく差し出された鉄串に刺し、火で炙り始める。リアの住むサウス=リアクターで売られている乾パンは、火で炙ることによって大きくなって柔らかくなり食べやすくなる。
炙っている間、その火をジッと見つめる。
家を出て、すでに3ヶ月が経過していた。確実に目的地に近づいてはいる。だが、この大陸はとてつもなく広いために、たどり着くまでにはまだまだ時間がかかるだろう。
「……」
頭の中で目的地までの経路を考えている姉の横顔を、パティはちらりと見た。
パティはこの姉が大好きだった。だから、姉の行くところについて行こうと思った。みんなが止めたけど、パティは譲らなかった。絶対について行くと言い張り、反対する姉と周りの人間を負かした。けれど、それを後悔したことなど一度もない。
姉が修羅の道を選んだことに対しては、何も思わないと言ったらウソになるが、それでもこの姉が選んだ道なのだから邪魔はしないつもりでいる。
父の存在が姉の中でどれくらい大きかったかを知っているからこそ、姉の選択に異議は唱えなかった。姉が偉大な父の背中を追い、共に並んで家を守っていくために努力していたことも知っている。だから、殺した相手を憎んで当然なのだ。
尊敬する親を殺した相手を憎まずにはいられない気持ちも理解できる。パティ自身は実の親の顔を知らないが、実子と分け隔てなく可愛がってくれた父は大好きだった。
その父が殺されて、大好きな姉が仇を討ちに行くと言っているのに、家でその帰りをじっと待っていることなんてできなかった。
戦争で深く傷ついて「もう二度と誰も殺さない」と言った姉が、不殺の誓いを破ろうとしているのを知って、一人で修羅の道なんて歩かせないと決意した。歩くなら、自分も一緒に。その思いでついてきた。
パティはリアから詳しい話を聞いていない。ただ、父が得体の知れない何者かに殺された、ということだけを聞いている。どういう目的で殺されたのかとか、そんなことは聞かされていない。リア自身もわからないと言っていた。だから、それを知るのもこの旅の目的の一つだ。なぜ、父は命を奪われなければならなかったのか。
「……大丈夫だ、パティ」
パティがちらりと見ていることに気づいたのだろう。炎を見つめたまま、リアが口を開いた。
「私たちの旅は、まだ始まったばかりだ」
家を出てから3ヶ月。その道のりは決して楽なものではなかった。途中では盗賊にも襲われたし、魔物にも襲われた。そのたびにそれらを退けてここまで来た。家を出て3ヶ月が経っても、『始まりの島』まではまだまだ遠い。何事もなく進めたとしても、どれだけの時間がかかるわからない。もしかしたら、長い旅になるかもしれない。
それでも、パティはリアについていくのだけれど。どうしても、姉と離れたくなかった。
「もうそろそろ大丈夫だろう。食べてもいいぞ」
言われ、パティは炙っていた乾パンに手を伸ばした。ほくほくで程よい焦げ目が付いている。それをパクリと食べて、パティは顔を綻ばせた。興味本位で乾パンの状態のまま食べてみたのだが、硬いし苦いし、はっきりいって食べられた品物じゃなかった。それなのに、火で炙ると親指サイズだったのが手のひらサイズまで大きくなり、出来立てパンと変わらない柔らかさになるのだから不思議だ。当時、それで旅人の間でかなり話題になり、どこの店でも売り切れになって入手するのが大変だったらしい。
今では大量生産の方法が確立され安定供給が可能になり、街から街へ渡り歩く旅人の必需品となった。
その様子を見て、リアも乾パンに手を伸ばす。一口サイズにちぎり、パクリと食べる。焼きたてのパンのような風味だ。家で一流の職人が作っていたパンには劣るが、旅の中でそれなりに美味しいパンが食べられるのはありがたいことだ。
頭の中で開発者に対して改めてお礼の言葉を述べながら食べ終わった頃、パティは森の中に視線を向けた。
「……どうした?」
何度か見た警戒するような気配を感じ取り、眉を寄せて訊ねると、パティは森の奥へと視線を向けたまま、「誰かいる」と言った。
その言葉で、リアは隣に置いていた杖を掴んだ。
「何人だ?」
誰か、ということは人間だろう。パティは魔物だった場合は「なにかいる」と言うはずだから。
「一人。男」
盗賊のたぐい類だろうか。しかし、一人で行動する盗賊はあまり聞いたことがない。盗賊は少なくとも三人以上で行動するものだ。二人が戦い、一人が荷物を奪う。単独で動く盗賊であるならば、腕にかなりの覚えがあり、確実に襲った相手を殺すつもりでいる可能性が高い。
パティと二人で茂みを見つめていると、がさり、と茂みが動いた瞬間――――
リアに向かって、銀のきら煌めきが降りかかった!




