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Wind Illusion Story ー世界は混沌に選ばれし勇者の再来を待ち望むー  作者: 雪杜 凛


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再会2-1

 2.


 赤い髪を揺らして、少女は道なき道を進んでいた。手に持ったナイフで、邪魔な枝を切り落とし、道を作って前へ進む。

 少女の手には少し大きいかと思われるそのナイフの切れ味は抜群で、振り下ろすと太い枝さえも切り落とすことができた。

「大丈夫か?」

 少女が後ろから付いて来ているもう一人へ訊ねると、「大丈夫」という返事があったので、再び前を向いて枝を切り落としていく。

 周囲には背の低い木から背の高い木までが手入れをされることなく乱立しており、二人の行く手を阻んでいた。

「燃やすことができたら簡単なんだがな……」

 赤い髪の少女が独り言のように呟くと、「それじゃ、火事になっちゃうよ」と答えが返ってきた。

「それくらいわかっている」

 わかりきっていることだったので、ため息をつきながら言い返した少女は目の前の蔦を一刀両断した。その後に、ナイフを見る。

「さすがは、国一番の鍛冶職人が作ったナイフだ。切れ味は衰えないな」

 再びナイフを握り直して、枝を切り落としていく。

「この先に開けたところがあるはずだ。そこで今日は野宿しよう」

「わかった」

 しばらくは、二人が土を踏みしめる音と、少女がナイフで邪魔な枝を切り落とす音が響いた。

 少女があまり見かけない真っ黒な枝を前に、切り落とそうとした手を一瞬止める。

「黒……」

 夜の闇に溶けてしまいそうなくらいの黒い枝は見たことがない。魔物が現れ始めてから人々が使わなくなった山道を歩き始めて3日が経つが、このような植物は見たことがなかった。

 いつ魔物が現れるかわからない山道だ。常に警戒していて損することはない。世界が混沌期を迎えてからしばらく経つ。今では魔物の数も種類も増えた。山の中に存在を知られていない魔物が存在していてもおかしくはない。

「警戒していろ」

 後ろからついてきている義妹に一言だけ告げ、少女はナイフで黒い枝を切った。魔物でなければそれに越したことはないが、もしも魔物であれば始末しなければならない。

 どろり、とした液体がナイフに付着した。

 さっき切った枝の切断を確認すると、どろっとした液体が流れ出ている。それで、すぐにこの枝が普通の植物ではないことを悟る。

 瞬時に頭の中でこの特徴に該当する魔物を考え、すぐに思い当たって後ろへ下がった。後ろにいたもう一人にぶつかる。

「どうしたの?」

 この様子が見えていないらしく、不思議そうな声音で訊ねてきた。今はそれに答えている暇はない。

 急いで距離を取った瞬間、どろりとした樹液が爆発したかのように少女に向かって飛んだ。

「硫酸樹木だ!」

 そう叫ぶと、状況を理解した義妹が後ろへ下がった。

 触れたものを溶かす樹液を持つ植物の魔物は、その場から動けない分、普通の植物に擬態して油断を誘って人を襲う。動物の魔物よりも数が少ないため、完全に気づくのが遅れてしまった。

 樹液を魔法で防ぎながら距離を取り、手に持った杖を硫酸樹木と呼ばれている魔物へ向ける。

「燃えろ!」

 全身から放出された目に見えぬ魔力は呪文によって構築され、目に見える『奇跡』となる。

 少女に向けて放たれた樹液が瞬時に燃え上がる。一つだけ、少女から逸れて飛んだ樹液が近くの木の幹にぶつかり、じゅっと音を立てた。

 少女がもう一度、「燃えろ」と唱えると、真っ黒な木は炎に包まれた。辺りに焦げ臭いにおいが立ちこめる。硫酸樹木が焼ける間、周囲の木々に火の粉が飛び散らないように細心の注意を払う。焼け切ったのを確認してから、念の為に上から魔法で水をかけておく。

 焦げ臭いにおいは残ったが、危ない状況からは脱することができたようだ。周囲に同じ硫酸樹木と呼ばれる黒い木の魔物がいないかを目視で確認してから、目的地へと進む。

「しかし、たった数年人が通らないだけで、こんなにも道がなくなるとは思っていなかったな」

「そうだね」

 この森を避けるように大きな街道が存在しているのだが、その街道は遠回りになってしまうため、急いでいる者たちは森の中を突き進む山道を使うことが多かった。

 少女たちも早く先へ急ぎたい気持ちで山道を選んだのだが、思ったよりも木々が生い茂っており、思うように先へ進めない。これでは、街道を進んで迂回した方が早かったのではないか、という考えが脳裏を過ぎるほどだ。

 ーー昔に通った時とは全然違うな……

 以前通った時は、もっと整備されていて歩きやすかった。人によっては急いでなくても街道ではなく山道を選ぶ者がいるほどだったと記憶しているのだが、今では通る者も整備する者もいなくなったせいなのか荒れ果てており、行手をたくさんの草木などが遮っている。

 それも仕方ないかと思う。街道は領主の私兵や街の自警団が警備してくれているが、この山道では魔物に襲われても誰も助けてはくれない。だから、人々は遠回りになるとわかっていて安全な街道を選ぶ。この山道は忘れ去られたのだ。

 使う者がいなければ、整備する必要もないということで放置されたのだろう。

 今のところは硫酸樹木としか遭遇していないが、どこに魔物がいるかはわからない。探索の魔法を展開してもいいのだが、常に展開していると魔力を消費してしまう。なので、ここは気配に聡い義妹に頼るしかない。

 だが、さすがの義妹も植物系の魔物の気配は感じにくかったようだが、動物系の魔物の時にはその真価を発揮してくれることだろう。

 ちらりと振り返ると、義妹と目が合った。

「どうしたの?」

 問いかけてくる声を聞きながら、視線を前に戻す。

「いや、そろそろ目的地に着くはずだ」

「わかった」

 返事があり、少女は道を進むことに集中した。

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