信頼と裏切りの戦場6−9
「しかし、やはりショウはさすが純血種ってところですね。身体能力の高さは普通の兵士では足元にも及びませんよ。この前、部下と訓練を行っているのを視察しましたが、十人も同時に相手をしてまったく遅れを取っておりませんでした。純血種の身体能力の高さをまざまざと見せつけられましたね」
え、と思わず、ショウは声を漏らす。確かにこの前、部下十人相手に実践訓練を行ったが、その時を将軍に見られているとは思わなかった。視察に来る、などという話も来ていなかったため、まったくその存在に気づかなかった。
リアは将軍の言葉に、うんうんと納得しているかのように頷いた。
「だからこそ、ヴェスラ草原での最前線でも生き残ることができたと私は考えている。私は参加していないので聞いた話だが、ヴェスラ草原の最前線はかなり過酷だったらしいな。突撃部隊の隊員のほとんどが戦死したと聞いているし、前突撃部隊隊長も戦死しているしな。その最前線で生き残ったのだから、ショウの強さは誰もが認めるとこだろう。今の隊員たちからも不満は出ていないと聞くしな。だが、剣士としての腕前はお前も引けを取らんと私は考えているぞ。我がヴェアール家の指南役が鍛えたのだからな」
リアの賞賛に、将軍は苦笑する。
けれど、話を聞いていてそうなのか、と思った。どうやら、将軍に剣を教えたのはリアの家に仕える指南役らしい。前にリアから、ヴェアール領にはいろんな分野の専門家がいるという話を聞いたが、剣の指南役もいるらしい。
「将来、軍を退役した際には、ヴェアール家の剣指南役に推薦してもいいと私は考えているぞ」
「リア様にそう言っていただけるのは、この身に余る光栄ですね。軍を退役しヴェアール領に戻った際には、よろしくお願いします」
将軍の家族や親類は今でもヴェアール領で暮らしているという話だし、将軍に剣を教えたのはヴェアール家に仕える剣指南役。ということは、リアと将軍は昔からの知り合いなのだろう。だからこそ、これほどまでに二人は親しげに話すようだ。
将軍がリアを信頼しているのも、リアが将軍を信頼しているのも、昔からその人柄を知っているからなのだろうと思われた。
「ショウ=アステール。リア様のこと、くれぐれもよろしく頼むぞ」
「はい」
「リア様。呼び出しておきながら申し訳ございません。この後、ほかの幹部との話し合いがあるため、一度、席を外していただけませんか? リア様の意見をちょうだいしたい時には、申し訳ございませんがもう一度ここにお越しください」
「いいだろう。最初から私がいたのでは、ほかの幹部が萎縮してしまう可能性もあるしな」
リアは将軍の言葉に理解を示し、席を立つ。すたすたと歩き始めたのを見て、ショウは傍に置いていた長剣を掴んでリアを追った。
将軍からもう一度呼ばれる可能性があることを考えると、本営から出ないほうがいいだろう。リアも同じことを考えていたらしく、本営から出るつもりはないと言ってきた。
しかし、本営の中にはほかの隊長たちの姿もあり、視線がちくちくと刺さるのも事実。どうしようかと悩んだショウに、リアはあっけらかんと「私の部屋に来い」と言った。
私の部屋、というのは、本営に作られたリア専用スペースのことだ。「え、オレが行っていいの?」と思わず自分を指さしながら訊ねる。十三歳の子供だけれど、リアは未婚の女の子だ。そんな女の子の部屋に未婚の大人の男が立ち入ってもいいのだろうか。少なくとも、ショウの里では是とされていなかった。もしかして、人間社会では違うのだろうか。
そんな疑問が顔に出ていたようだ。少し慌てた様子のショウにちらりと視線を向けたリアは、「お前なら構わん」と一言だけ答えて歩き出してしまった。リアの答えを見る限り、人間社会でもあまりいいことではないらしい。しかし、リアはショウならいいと言う。将軍よりも圧倒的に付き合いが長くないのに、なぜこんなに信用されているのかがわからない。
しかし、歩き出したリアについていくしかないショウが後ろを追いかけていくと、「リア様!」と誰かがリアを呼ぶ声が響いた。
「ん?」
足を止めたリアが声がした方に顔を向けると、こちらに向かって走ってくる兵士の姿があった。胸に階級章がないため、本営に出入りを許可されている階級を持たない一般兵だと思われる。多分、伝令役だろう。その兵士はリアの前で足を止めてビシッと敬礼をした。
「お忙しいところ、失礼致します!」
リアは敬礼する兵士に向き直る。
「忙しくはないから大丈夫だ。なにかあったのか?」
伝令役の兵士がリアに声をかけてくるのは珍しいことだ。いつもは将軍のところへ行くのに、なぜ今回はリアの元にやってきたのだろうか。
「はい! 実は将軍様に指示を仰ごうと伺った際、今は手が離せないのでリア様に指示を仰ぐように言われまして」
「あいつ……」
リアが呆れたような声を出した。それに兵士がびくりと肩を震わせたのを見て、「お前に呆れたわけじゃないから安心しろ」と言うと、兵士が少しほっとしたような表情になった。
「仕方ない。状況を説明してくれ」




