信頼と裏切りの戦場6-7
「俺は最初は渋ったんだ。いくら志願してきたとはいえ、お前に亜人の可能性があるならば、もしかしたらノース=カイマートからの刺客かもしれないと考えたからだ。だが、あいつは違うと言い張り、もしもの時は自分が責任を取るからと譲らなかったから、俺はもしもの時はお前が斬れと条件を出して入隊を許可した」
突撃部隊に入隊したものの、周囲に馴染めなかったショウに対してよく声をかけてくれていた前隊長は、そんな命令を受けていたのか。そのような気配をショウは微塵も感じてはいなかった。
「そんな奴が、ヴェスラ草原での最後の衝突の前夜、もし自分が死んだら隊長の座をお前に譲ってほしいと言ったんだよ。ショウ=アステールは亜人だが、信頼できる男だと言って。俺が保証すると言っていた。それにお前は前線でしっかりと働いてくれたからな。それを評価して、周りは反対したが俺はそれを押し切ってお前を隊長に任命した。その後のお前の働きぶりはすごかったな。お前の行った訓練のおかげで、兵士たちの士気は上がったし、顔つきも変わった。リア様も来てくださったことだし、今回の戦争も確実に勝てるだろうと俺は本気で考えている」
「私はお前を一目見て亜人だと気づいたぞ。領地にいる亜人たちと似たような特徴を持っていたからな。亜人を見たことがある者だったら、すぐにわかると思うぞ」
リアのその言葉は、ショウにとっては衝撃的なものだった。
「……え、亜人ってそんなに特徴があるの?」
亜人は寿命以外は限りなく人間に近い存在だとショウは思っていた。だからこそ、見ただけで亜人だとわかる特徴があるなんて初耳だった。
突撃部隊に入隊してから、ほかの隊員たちも気づいている様子は感じられなかったが、もしかしたらそのうちの何人かは気付きながらも黙っていた可能性が本気で出てきた。
一瞬で心臓が大きく高鳴る。人間の亜人嫌いを小さい頃から言い聞かされてきた身としては、一目で亜人だとわかる特徴があるのならば、人目が怖くて仕方なくなってしまうかもしれない。
そんなショウの心境を知ってか知らずか、リアは腕を組んで背もたれに背中を預けて口を開く。
「一番大きな特徴としてはーーまずはその身長だな」
「……身長?」
思ってもいなかった言葉を呆然と呟いてしまう。身長は予想外だった。
「亜人は、総じて身長が高い傾向がある。男女関係なくな。それが一番わかりやすい特徴だ。お前も周りより自分の身長が高いことは自覚しているだろ?」
リアにそう言われ、記憶を思い返す。
確かに、入隊したばかりの頃、隊列に並んでいると後ろにいた者が「前が見えない」と言い出して、前隊長が苦笑しながらショウを隊列の一番後ろに回したことがあった。
ショウはそのことをあまり気にしていなかったが、みんなで並ぶと確かに頭一個分は飛び出してしまう。みんなと話す時は、確実に見上げられていた。それがいつものことだったので、まったく気にしていなかった。
「亜人の身長が高さは、ある程度有名だからな。少なくともヴェアール領に住んでいる者なら、誰もが知っていることだぞ」
リアの言葉に、はっと目の前の男性を見てしまった。後から失礼をしたかもしれないと思ってしまったが、相手とばっちり視線が合ってしまったため、どうすることもできなかった。ショウからの視線を受けた相手は、苦笑いを浮かべる。
「ショウ=アステール。お前の予想通りだ。ただし、俺はお前のような純血種の亜人ではなく、祖先に亜人が居ただけの混血種になる。曽祖父が亜人だったと聞いている。孫にあたる父親は人間の血が強いのだが、俺は曽祖父の血が強く出てしまったらしい」
人間と亜人の混血。そんな話は初めて聞いた。確かに、人間の世界に混じった亜人がいるのならば、人間との間に子供を作ってもおかしくはないだろう。
でも、腑に落ちた。将軍の身長はショウよりも高い。周りから見上げられるショウが見上げるほどの背丈だ。人間でこんなに身長が高い人が存在しているのかと不思議に思っていたのだが、亜人の血が流れているのであればこんなに背丈が高いことに納得がいった。
「といっても、背丈に関しては亜人の血が濃く出たが、それ以外は人間と変わらん。俺は人間と同じスピードで歳を取っているからな。寿命も人間と変わらんだろう。風の噂では、曽祖父はまだどこかで生きているという話だ。曽祖母がなくなった時に、世界中を回る放浪の旅に出てしまったと祖父が言っていた」
「亜人はたった一人を決めてしまったら、ほかを愛せない傾向があるらしいからな。長年連れ添った妻が亡くなってショックを受けたんだろう。亜人と人間が結ばれると、どうしても寿命の問題が出てしまうから、こればかりは仕方のないことだ」
確かに、リアの言う通りだ。人間と亜人では寿命が違う。百年も生きれない人間とは違い、亜人は平均的に千年以上は生きる。人間と結ばれた亜人は、確実に愛した人間に置いていかれてしまう。
ショウはたった一人を同じ純血種の亜人に決めてしまったが、人間に決めた亜人には避けて通れない道だ。万能と思われるような魔法であっても、人間の寿命を伸ばすことはできないと聞いている。




