信頼と裏切りの戦場6-6
「……リア様がそうおっしゃるのであれば、そういたします。それならば、御身の安全を第一にお考えください。ショウ、リア様をくれぐれもよろしく頼んだぞ」
最後の言葉はショウに向けられたものだった。将軍の強い視線を受け、ショウはこくりと頷き、「わかりました」と答える。
あの魔法を見たことにより、リアの存在はショウの中でかなり重要なものとなった。戦争の最前線から生き残って恋人の元に戻るために、リアの存在は必要不可欠だと気付いてしまったからだ。
「リア様はショウ=アステールから離れることがなきようお願いいたします」
「了承した」
リアの返事を聞いて、将軍は少しホッとした様子を見せた。ショウが護衛役に決まるまでは、本当にリアの扱いに困っていたのだろう。リアは基本的に物事を自分で対処できるタイプなのだが、それでも万が一のことを考えて護衛をつけることになったのだろう。
魔法使いは魔法には耐性があったりして強いのだが、物理攻撃には弱い傾向にある。魔法耐性がある分、自分に対して身体強化などの魔法を使うことができないからだ。なので、剣士などからの物理的な攻撃には反応が遅くなったりして対処し切れないことが多い。
戦場に立つ魔法使いのほとんどは、敵軍から送り込まれたスパイに暗殺されて命を落としている。将軍はそれを知っているがゆえに、リアにも万が一のことがあってはならないと考えているらしい。
じっとショウを睨みつけるかのような強い視線で見ていた将軍だが、ふっと目元を緩ませた。それだけで雰囲気がぐっと柔らかくなる。硬い表情で見つめられると圧迫感を覚えて緊張するのだが、目元を緩ませた視線だと気安い雰囲気で緊張感が一気に霧散する。
「ショウ=アステール。間近で見た魔法をどう思った?」
予想していなかった将軍の問いかけに、ショウは一瞬だけきょとんとする。
ショウが問いかけの意味をしっかりと理解していないとわかったのだろう。将軍は言葉を重ねてきた。
「魔法をあまり見たことがないと言っていただろう。どうだったか、魔法という力は」
脳裏に、数時間前に見たリアが放った魔法が思い浮かぶ。敵軍の魔法使いが放った渾身の一撃と思われる魔法を、いとも簡単に消し去ったリアの魔法。リアが本気を出したら、もしかしたら大地が割れたりするのだろうか。
サウス=リアクターがずっと大事に守っていた魔法使いを戦場に出さなければならないほど、この戦争には必ず勝たなければならないと国の上層部は考えているのだ。
ショウは今までの魔法とは縁遠い人生を送ってきたのだが、間近で見た魔法に対する印象は一つだけだった。
「……扱う人間によっては、善にも悪にもなる力だと思いました」
ヴェスラ草原での戦争でも、魔法は見たことは見た。だが、後方に待機している時に魔法使い通しが魔法のぶつけ合いをしているのを遠目から見ただけだ。その時に遠くから見た魔法とリアが見せた魔法は、比べ物にならないくらいに威力に差があった。リアが放った魔法と比べると、ヴェスラ草原での魔法のぶつかり合いは子供の喧嘩のようなものだ。
「そう思うのであれば、お前は大丈夫そうだな」
リアが安心したかのような声音でそう言い、「お前が魔法を便利な力だと思うような奴であれば、私はお前を護衛役から外しただろう」と言われたのを聞いて、ショウは思わずびくりと肩を振るわせてリアを見る。
今の将軍の問いかけは、ショウを試すものだったようだ。それに気づかず素直に答えた結果、向こうが満足する答えを出すことができたらしい。それがわかって、ほっと胸を撫で下ろした。
「だから言っただろう。ショウはそこらへんの人間とは違うと」
「……え?」
リアの呆れたような声音に、ショウは言葉を失った。
将軍はリアの満足げな表情に、同じく満足げな表情を浮かべて何度か頷いた。
「確かに、そこら辺の人間とは違うようですね」
将軍の言葉にどきりとする。まるで、ショウが亜人だとわかっているような口ぶりのように聞こえたからだ。一気に背筋に冷や汗が流れた。
リアが喋ったのだろうか。一気に警戒心が芽生えたショウの様子を見て、将軍が「心配するな。俺は最初からお前が亜人だとわかっていた」と言う。
予想外の言葉に、ショウは言葉を失って大きく目を見開いた。
「最初から……わかっていたんですか?」
わかっていた上で、突撃部隊の隊長に任命したのか。ずっと気づかないふりをして? なんでそんなことをしたのか。いろんな疑問が脳裏を駆け巡る。
「実は、お前が亜人だと最初に気づいたのは前突撃部隊隊長だ。あいつは、兵士に志願してきたお前をすぐに亜人だと見抜いた。お前の入隊を願い出てきたあいつは、俺に亜人かもしれないと言ったんだ。その上で入隊を許可してほしいと頼んできた」
ショウは驚きで言葉が出ない。前突撃部隊隊長からは、気づいている様子は微塵も感じなかった。だからこそ、ショウは安心していられたのに。まさか、バレていたとは。ということは、ヴェスラ草原での戦争で亡くなった突撃部隊隊員たちの中には、同じく気付いていた者がいたのだろうか。気付いていた上で、色々を気を遣ってくれたのかもしれないと思うと、胸にちくりとした痛みを感じた。




