信頼と裏切りの戦場6−5
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しばらく様子を見るために突撃部隊に滞在していたリアだが、向こうから続け様に攻めてくる様子はなく、遠目の魔法で敵軍を監視した後に「もう大丈夫だろう」と言ったのを聞いて、ショウはホッと胸を撫で下ろした。あの魔法の炎が戦争の火蓋になるかと思ったが、本当にリアの姿を見つけてその腕前を調べるためのものだったようだ。
そして、リアがその炎を圧倒的な一撃で消し去ったのを見て、続けて攻めるのは得策ではないと判断したのだろう。今、向こうでは慌てて作戦会議が開かれているはずだと言う。
それでも万が一を考えて突撃部隊に居続けるリアに対して、隊員たちはどうすればいいのかわからずに、ショウに対して助けを求めるような視線を向けてくる。ショウも本営に戻った方がいいのはわかっているのだが、あまり居心地がよくない本営に戻りたくなくて、リアが戻ると言わないのをいいことにうだうだと突撃部隊に居座り続けた。
最終的に、なかなか戻ってこないリアとショウに痺れを切らした将軍が副官に命令して、彼が迎えに来るまでは居座った。リアも副官が迎えに来たのでは抵抗は無駄だろうと判断したらしく、大人しく「戻るか……」と呟いたのを聞いて、今度は隊員たちがホッとした様子を見せる。
世界最高峰と名高いリアの魔法を目の当たりにして、その強い力に恐れを覚えてしまったのだろう。最初は歓迎ムードだった彼らだったが、次第に扱いに困ってしまったらしい。
それでも別れを惜しんでくれた隊員たちを残して本営に戻った二人は、そのまま将軍に呼び出される。
「なにか起こったのであれば、すぐさま報告してください」
副官の責めるような声音に、「攻めてくる可能性がある限り、すぐに対処できるように留まることを選択しただけだ」とリアが答えたが、「本当はまだ戻りたくなかったんですよね?」と言われて沈黙する。
その沈黙は肯定しているのと同じことだった。先導する副官は「はぁ……」とこれみよがしなため息をつく。
「リア様がなかなか戻ってこられなくて、将軍は心配で落ち着かなかったみたいですよ。無事なのはわかっていましたが、なにが起こったのかの報告を早く聞きたくて、ずっとおかえりを待っていたんですから」
陣営の中を落ち着かずにうろうろと歩き回る将軍の姿を脳裏に思い浮かべ、ショウは引き攣った笑いを浮かべる。あんな大男がじっとしていられない程のことが起こったのに、リアはそれをわかっていてのんびりとしていたのか。だが、本営に戻りたくなくてなにも言わなかったショウも同罪だろう。
副官が天幕に向かって「失礼します」と言うと、中からガタガタガタッと音がした。それに構わず副官が中に入ると、座っていた椅子から慌てた様子で立ち上がってリアを出迎えた将軍は、入ってきたリアが「座って構わない」と言ったのを聞いて椅子に座り直した。リアとショウも椅子に座り、将軍と向かい合う形になる。
「リア様。先ほどの大きな音はなんだったのですか?」
将軍の問いかけに、彼らはなにが起こったのかを知らないのだと理解した。この本営からは見えなかったはずだ。だから、先ほどの大きな音の原因がわからないのだろう。しかし、リアが関与しているのはわかっていたので、報告を待っていたのになかなか帰ってこないので痺れを切らして副官を迎えによこした、というところらしい。
リアがなにが起こったのかを簡潔に説明した後、「向こうが喧嘩を売ってきたんだ。私の推測だが、遠目の魔法を使ってこちらの様子を窺っていたところ、私の姿が見えたのだろう。あわよくば、と魔法を放ってきたと考えている」
リアの説明に将軍が大きく目を見開く。テーブルに手をついてこちらに身を乗り出してくる。
「それは向こうからの宣戦布告ということでしょうか? ならば、こちらも応戦の準備を始めなくてなりません」
「ーーいや、その必要はない」
立ち上がりかけた将軍はリアの言葉に動きを止めた。「落ち着いてください」と背後に控える副官に言われて、椅子に座り直した。
「どういう意味でしょうか?」
「戦争では参戦している魔法使いの力量が勝敗を左右すると言っても過言ではないからな。あちらは、私の力量を計りたかったのだと思う。対処できないならできないで、あわよくば死んでくれれば、とでも思ったのだろう」
しかし、軽い考えで魔法を行使した向こうにとっては予想外のことが起こった。
リアが向こうが放った渾身の一撃と思われる魔法を、一瞬で撃ち落としたのだ。その光景を見た敵軍は、サウス=リアクター軍にかなり力の強い魔法使いがいるとわかって、今頃、慌てふためいていることだろう。
「自軍よりも強い力を持つ魔法使いがこちらにいると知った向こうは、しばらくは攻めて来ないと私は考えている。向こうは必ず私を亡き者にしようと考えるはずだが、それはかなり難しい手段だと悟るだろう。だから、向こうが動き出すまで、こちらは静観の姿勢でいいはずだ」




