信頼と裏切りの戦場6-4
ショウは隊員たちがリアの邪魔とならないように自分の後ろに急いで移動させる。
頼もしいほどに堂々としているリアは、迫り来る炎に向かって杖を向けた。
こちらが対処を考えている間に、炎はかなり近くまで迫ってきていた。このままでは軍に被害が出てしまうかもしれない。しかし、いくらショウであっても魔法に太刀打ちするのは難しく、この状況をどうすることもできなかった。
世界最高峰の魔法使いと名高いリアは、迫り来る魔法に対して恐怖を感じている様子はなかった。ショウの後ろにいる隊員たちは、初めて目の当たりにする魔法に恐怖を覚えているのか、信仰している勇者様に祈りを捧げている者さえいた。
「この私に魔法で戦いを挑むなど、愚か者にもほどがある。このレベルの魔法を相手にできないとなれば、ヴェアール家の名折れだ」
リアの呟きが聞こえる。その声音は、自分の魔法に絶対的な自信があるのがよく伝わってくるものだった。
肉眼でも簡単に確認できるほどの距離まで迫ってきた炎を見つめていると、周辺の魔力の流れが変化したのを感じた。周辺の魔力が一ヶ所に吸い寄せられるように移動している気がしてそこへ視線を向けると、小さな少女の背中があった。
腰まである赤い髪がふわりと左右に広がり、その毛先からぽつぽつと火の粉が現れて舞い上がっていく。その火の粉は意志を持っているかのようにリアの周囲を漂い、ショウはそれが魔力で生まれたものなのだと悟った。
リアは全属性の魔法を使うことができるが、特に炎属性の魔法を得意としているとは教えてもらった。
魔法使いは基本的に一属性または二属性の魔法しか使えない者がほとんどらしいが、リアのように全属性の魔法を扱える者は珍しいようだ。ヴェスラ草原で名高い魔法使いのほとんどは戦死した、という話は聞いたことがある。そして、このフレストでの戦争に絶対に勝ちたいサウス=リアクターが、まだ十三歳であるリアに召集命令を出したことも。
ーーこの子は、この戦争に絶対に勝つために必要な存在……
そう言われている理由を、これからショウと隊員たちは目の当たりにするのだろう。
周辺の魔力がリアの周囲で渦を巻き始めたのがわかった。亜人は魔力を一切持たないが、魔力の動きは感じ取ることができる。通常、リアはそこに存在しているだけで周辺の魔力の流れに乱れが起こるのだが、魔法を使う時は魔力の流れは乱れることなく、意志を持っているかのようにリアの周辺を流れるようだ。
リアが持っていた杖の先端に付けられている魔鉱石が大きく発光し始めた。周辺の魔力が魔鉱石に吸い込まれるように流れていく。
それと同時に、リアの身体から強い魔力の気配が立ち昇る。その魔力からは恐ろしいほどの気配を感じた。しかし、その気配を感じているのはショウだけのようで、隊員たちの様子を伺ってもその視線は迫り来る炎の塊にしか向けられておらず、リアに注目している者は少なかった。
「撃ち落とせ」
凛とした澄んだ声が響く。その声は不思議な響きに聞こえ、魔力が込められた声なのだとわかった。
リアの声と同時に、上空に現れた雷を纏う炎の矢が目にも止まらぬ速さで迫り来る炎を地面に撃ち落とした。炎の矢が地面に突き刺さると同時に大きな衝撃音がし、バチバチと音が響き渡った。しばらくして空気に霧散するように消える。
予想以上の一瞬の出来事に唖然としたショウが、立ったまま夢でも見たのだろうかと思ったのだが、炎の矢が突き刺さった場所には大きな穴が空いており、辺り一帯には焦げたような臭いも立ち込めている。そのことによって、今は現実に起こったのことなのだと実感した。
ショウと同じく、隊員たちも唖然としている様子だった。誰もが口を開けたまま、唖然としていて一言も発さない。目の前で起きた出来事を、信じられないことが起きたかのような表情で見つめていた。
ーーこれが魔法……
あまり魔法に馴染みがないショウでも、敵軍の魔法使いとリアでは圧倒的な力の差があるのが理解できた。
向こうの魔法使いもそれに気付いたのだろう。続けざまに魔法を放ってくることはなかった。
しばらく様子を見ていたリアだが、「大丈夫そうだな」と言って振り返ってくる。いつの間にか、周囲に漂っていた火の粉は消えていた。
「向こうの魔法使いは大したことないようだ。あのレベルの魔法使いであれば恐るるに足らん」
ショウは、この少女がこの戦争の勝敗を左右するなんて本当だろうか、なんて一瞬でも疑った自分を殴り飛ばしたい気分になった。
たった一度の魔法を見ただけでわかる。将軍の言う通り、この子はこの戦争の勝敗を左右する存在だ。絶対になにがあってもどんな手段を使っても守らなければならない。
歓喜の声を上げる隊員たちを視界の端に入れながら、ショウは決意を新たにした。




