信頼と裏切りの戦場6−3
「ヴェアール家はサウス=リアクターを支えるために存在している。その国に住む国民を守るのは、ヴェアール家に生まれた者として当然のことだ」
わずか十三歳でこの軍にいる者たちの命を背負っている。この少女がこの戦場での勝敗を左右すると言っていた将軍の言葉が、やっと理解できた。それだけ重要な人物であれば、将軍としては絶対に失うわけにはいかないだろう。それもヴェアール家の次期当主となる予定である少女を。
「サウス=リアクターの敵は、ヴェアール家の敵でもあるということ。私がヴェアール家の人間である以上、国を脅かす存在を放っておくことはできない」
突撃部隊は比較的若い男性が所属している。その男性でも一番若い子で二十歳前後だったはず。なのに、この子は十三歳で戦場に立ち、たくさんの命を背負っている。それでも両足でしっかりと立っているのが不思議でならなかった。
ーーこれが、名門貴族であるヴェアール家の最高峰と名高い魔法使い……
リアの護衛をなる際に、将軍からリアのことについて少し教えてもらったことを思い出す。
ヴェアール家は、サウス=リアクター内に存在している貴族の中で一番古い家柄であること。歴史に名を残すような魔法使いを複数輩出している、世界に名を知られた魔法使いの名門貴族であること。始祖は、世界を救ったとされる『空の勇者』とされていること、などなど教えられた。
過去に里でヴェアールの名前を耳にしたことが、そんなにすごい家柄であるとは思わなかった。
そして、将軍は最後にこう言った。
『リア=ヴェアールの魔力量は世界最高峰だとされている。そして、その魔力を扱う才能も素晴らしく飛び抜けている。人々の間では、先祖返りや「空の勇者」の再来とも言われているくらいにな。そのリア=ヴェアールを戦場で死なせたとしたら、俺の首が飛ぶだけでは済まない。その際は、国王すらも責任を問われ無事ではいられないだろう。ヴェアール家はそれくらいの力がある貴族だ。だから、絶対にリア=ヴェアールを死なせるな。あの子を手にかけようとした者に対しては、敵だろうが味方だろうが躊躇いもなく斬れ。これは俺からの命令だ。なにがなんでも、どんな手段を使ってでも守りきれ』
そう言われて、自分が護衛として選ばれた理由を教えられた。
ショウの戦い方は生き残ることを前提とした戦い方で、生き残るためならどんな手段だって使うのを前当たり前としている。普通の人間ならば卑怯だと思うような戦法も平気で使うくらいに。そこが、誇り高い貴族である隊長たちから嫌われる要因の一つとなっているのだと教えられた。
それで、やっと腑に落ちた感じがした。素性がわからないだけであんなに嫌われるものなのかと思っていたが、ショウの戦い方が卑怯者の戦い方として見られているせいで嫌われているらしい。
安全な後方で命令だけして部隊を動かすだけの隊長たちは知らないのだ。綺麗な戦い方では最前線で生き残れないということを。誇り高い彼らは綺麗な戦い方しか知らず、後方でしか生き残れない者たちだ。誰もが最前線へ行けば、生き残るためには手段なんて選んでいられないと悟るだろう。
生き残るためにはどんな手段さえも躊躇いなく使うショウだからこそ、将軍はリアの護衛役に選んだと言った。ショウであれば、リアを守るためならどんな手段だって取るだろうと考えてのことらしい。
この戦争に勝つために必要な存在を、絶対に失うわけにはいかないのだから。
「ショウ!」
急に頭の中に自分の名前が入り込んできて、びくりと肩を振るわせる。どうやらずっと物思いに意識を飛ばしてしまっていたようだ。先ほどからなにかが聞こえていた気がしたのだが、自分の名前であったのだと今更気づいた。
「え、なに?」
名前を呼んだと思われる赤髪の少女はこちらを見て、「向こうから魔力が迫っている気配がするぞ」と言ってくる。
魔力とは? と思って、リアが指差す方向に視線を向けると、睨み合いをしている敵軍がいる場所から、赤いなにかが猛スピードでこちらに向かって飛んできているのが見えた。
「なんだ、あれ?」
訳がわからず、それを目を細めて見つめる。亜人の視力をもってしても、近づいてくるのがなんなのかがわからなかった。
しかし、すぐにわかった。あれは炎の塊だ。複数の炎が、かなりのスピードでこちらに迫ってきている。
「!」
目を見開いたショウに、「ーー魔法だな」とリアがなんでもないように告げた。
「おおかた、こちらの様子を見ていた魔法使いが私の存在に気付いたのだろう。私の力量を計るための攻撃だろう」
その言葉を聞いていた隊員たちがざわめいた。パニックを起こしかけた隊員たちだが、すぐにどうすればいいのかショウに対して指示を求めるような視線を向けてくる。非常事態でも隊長の指示を待つ姿勢は、ショウの訓練をしっかり受けた結果だった。
一介の兵士が魔法に対処するのは難しい。魔法には、一切の物理攻撃が通用しないからだ。魔法には魔法でしか対抗できない。それは昔からの常識だ。亜人であるショウでも知っている。だからこそ、どんなに力の弱い魔法使いであっても、百人の兵士に匹敵すると言われているのだ。
この場合は退避が妥当かもしれないと考えていると、「ここに魔法使いがいることを忘れているようだな」と声がした。
はっと、リアの存在を思い出す。想定外の事態に、リアの存在を一瞬で忘れてしまっていた。
視線を向けると、力強い二つの赤い瞳があった。
「……頼めるか?」
ショウの言葉に、リアは「当たり前だ。魔法ならば、魔法使いの私が受けて立つ。私の力量を計りたいのであれば、容赦はしない」と言って、ショウの前に出た。




