信頼と裏切りの戦場6−2
突撃部隊は本営を囲むように配置されている兵士たちの隊列の中で、一番外側の敵軍勢と一番違い位置に置かれている。敵が攻め込んできた際に、すぐに敵軍へ突撃できるようにということだろう。
「亜人が育てた隊員がどのようなものか気になるな」
楽しげなリアの言葉に、「普通の人間たちだよ」と答える。
ショウからしたらどこからどう見ても、どこにでもいるような人間たちにしか見えない。特別に変わったところがあるわけでもない、本当に普通の人間たちだ。
「話には聞いていたが、亜人と人間では戦いの際に重きを置く場所が違うようだ。亜人は生きのびるためだったらどんな手段だって使うのが基本的な戦い方らしいな。人間だったら思いつかないような卑怯な手段も戦略の一つだと教えられたと聞いている。その考え方は、最前線では役に立つだろう。敵兵を倒すことも大事だが、最前線では生き残ることが一番大事だと私も考えている。そのためになら、あの場所は手段なんて選んでいられないのが当たり前だ」
「……」
最前線を知らないはずなのに、最前線で一番大事なことを知っている。
この少女の赤い瞳に、この世界はどのように見えているのだろう。魔力を持っている人間と普通の人間では、見ている景色が違ったりするのだろうか。
突撃部隊の陣に近づいた時、隊員の一人がショウの存在に気付いたようで、大きく両手を振りながら「たいちょ〜!」と叫んだ。この声を聞いたほかの隊員たちもこっちを見て、口々に隊長と叫びながら手を振ってくる。
「お帰りなさい、隊長!」「なかなか帰ってこないので心配してました!」「もう戻ってこないのかと思いましたよ!」
口々に言いながら、部下たちに囲まれたショウは苦笑しながら「すまん」と謝罪の言葉を口にする。
ショウを取り囲んでいた隊員の一人が、「ん?」と少し離れた場所で様子を見ている赤い髪の少女の存在に気付いたようだ。
「ーーま、魔法使い様ッ⁉︎」
その言葉に全員が驚きに目を見開き、一斉にリアに視線を向ける。驚愕に固まってしまった隊員たちの間に沈黙が流れ、先に我に返った一人が「あ、頭を下げろ!」と叫んだので、全員がその場に低頭の姿勢を取った。
部下たちの乱れのない動きに、今度はショウが言葉を失って立ち尽くしてしまう。
そのうちの一人が顔を上げた。
「隊長、なぜ魔法使い様と一緒にいるんですか?」
「えっと……、将軍に呼び出されてリアの護衛を任されたんだよ」
「ま、魔法使い様の名前を呼び捨てに⁉︎」
隊員たちは何度目かの衝撃を受けた様子だ。
呼び捨てにしてはいけないのはわかっているのだが、名前で呼んで欲しいと言われたから名前で呼んでいることに対して、隊員たちの間で激震が走ったらしい。
「魔法使い様は戦争の勝敗を左右するほどの大事な御方。そんな方の護衛を任されるなんて、さすが隊長です!」
「尊敬します!」
なぜか、隊員たちの間でショウの株があがったらしい。
今までにない事態にどうすればいいのか困っていると、少し離れていた場所にいたリアが近づいてきて、「この者たちがお前の部下なのか?」と声をかけてきた。
前線に送られるような屈強な男たちが一堂に頭を下げている姿を前にしてもいつも通りのリアは、赤い髪を風に靡かせて「私は、リア=ヴェアールだ」と名乗る。
「申し訳ないが、お前たちの隊長は将軍命令で私の護衛役となった。しばらく借りるが構わないな?」
杖の先で地面をかんと叩き、仁王立ちする少女を見て、部下たちがざわつく。
「ヴェアール?」「今、ヴェアールって言ったか?」「あの魔法使いの名門の?」「リア=ヴェアールって次期当主と名高い魔法使いの名前じゃなかったか?」「あの世界最高峰と名高い?」「魔法使いが参戦するって聞いてたけど、まさかリア=ヴェアール様だったなんて……!」
いろんな囁き声が聞こえるが、リアは構わずに「私が参加するのだから、お前たちを無駄死にさせるつもりはない。一人でも多くの者たちを最前線から家に返すと約束しよう」と言う言葉に、最初は唖然としていた兵士たちだが、次の瞬間にはワアァァァと雄叫びを上げた。
誰もが「リア様、万歳!」と叫び、ありがとうございます、と泣く者さえいた。
リアはこのためについてきたのか、とショウは思った。本営で待っていてほしいとお願いしても、頑なについて行くと言い張ったリアを不思議に思っていたのだが、自分が守るべき者たちの顔を見るためにここに来たがったのだろう。
「ショウ、お前もだ」
そう言いながら、リアはショウを振り返った。
「お前も、私が来たからには生きて帰らせるからな」
意志の強い赤い瞳に射抜かれ、ショウは頷く以外の選択肢が浮かばなかった。本当に十三歳の女の子なのかと疑いたくなるほど、芯が強くてしっかりしている。ショウの里にもこれくらいの年齢の女の子はいたのだが、こんなに意志の強い子ではなかったはずだ。
リアの言葉に希望を見出した者は多かったらしく、ほかの部隊から厄介払いされて突撃部隊にやってきた者たちも、世界最高峰の魔法使いという心強い味方に目に涙を浮かべている。最前線から生きて帰れるかもしれないという希望が、彼らの中に確かに生まれた瞬間だった。




