信頼と裏切りの戦場5−2
戦場で行動を共にしていた時、ショウはこうやってリアの後を付いて回っていた。命の危険がある場所に関わらず、恐れ知らずにどんどん進んでいくリアの後ろを、常に周りを警戒しながら一生懸命に追いかけた。その光景をほかの隊長たちからは「リア=ヴェアールの腰巾着」と囁かれていたりもした。
作戦会議の時は、自分の倍以上の年齢の隊長たちに臆することなく発言もしていた。誰かが意見を言った際、それに対して不服がある時も平然と自分の意見を口にしていた。本当に13歳の子供なのかと疑いたくなるくらい筋の通ったことを言うこともあれば、時には大人では予想がつかないような目線からの作戦を提案もしたりして、毎度毎度驚かされていたのも懐かしい記憶だ。
最初は名門ヴェアール家の魔法使いといえど所詮は子供と侮っていた隊長たちも、時間が経つにつれてリアのことを見直したのか、素直に耳を傾けるようになっていった。
あの頃から、リアはヴェアール家を名乗るのに相応しい存在だった。人間社会の身分制度には疎いショウでも、リアは人の上に立つために生まれた人間だというのはよくわかる。いまだに成人していないにも関わらず、自然と相手に従わせたくなるような雰囲気を放っていた。
今、その後ろ姿からもそれを感じる。ついていけば間違いないと安心感を覚えるくらいに。
「リアはあの人の家の場所がわかるのか?」
渡された紙には住所が書かれているだけだった。地図などはない。だから、土地勘がないショウには住所だけでは家の場所はまったくわからなかった。ゆえに、どうやって行けばいいのだろうか、と悩んでいたりもしたのだが、リアは知っているかのように迷うことなく進んでいく。
リアは肩越しにショウを振り返る。
「昨日のうちに宿屋の主人から道順を教えてもらったのだ。昔からこの街で暮らしているらしく、住所を言えばすぐに場所をわかったみたいで教えてもらうことができた」
いつの間に。驚いたショウに対して、昨日の夜、宿屋の主人に訊ねたようだ。昨日の夜ということは、ショウの部屋を訪れた後、その足で向かったということなのだろう。
「あの人って昨日の人?」
リアとショウにとっては見慣れている顔だったが、パティにとっては知らない顔だ。彼とリアたちがどういう関係なのかがわからないらしい。
考えてみれば、ショウとリアだけが会話の内容を理解していて、パティを置き去りにしていることに気づく。
「そうだ。昨日会った人のところに行く」
「あの人と知り合いなの?」
「彼とは昨日が初対面だ。あの人の兄と私たちは知り合いなんだよ」
「昨日の人のお兄さん?」
「そうだ」
あの時のパティは食事に夢中になっていたため、こちらの出来事をあまり注目していなかったのだろう。ただ、会話した人物の顔は覚えているらしい。
「その人の家に行くの?」
「そういうことになる」
大通りを北に向かって歩き、そのうち一つの路地に入る。目的の家はそこからすぐだった。綺麗に手入れされているのがよくわかる煉瓦造りの建物で、二階建てのようだった。一階はなにかしらのお店で、二階は住居という造りになっている。
ドアに掲げられている看板には、小瓶のようなものと植物のようなものが描かれていた。サウス=リアクターは、昔よりも平民の間で教育が普及したために識字率が上がっているが、それでも文字の読み書きができない者が多い。
そのような者たちのために、お店の看板は一目でどういう店なのかがわかるようにイラストを掲げるようにと国が決めている。どんな店にはどんなイラストを掲げるのかは国が決めているため、文字が読めない者たちも一瞬でどういう店なのかがわかる仕組みになっている。
それは知っているのだが、ショウはそのイラストが意味していることを知らないので、このお店がなにを取り扱っている店なのかわからなかった。
ドアの看板を指差し、「……これは、どういう店なんだ?」と隣に立つリアへ訊ねる。
訊ねられたリアは、「薬屋だ」と簡潔に答えてくれた。
「薬屋……?」
「薬師が薬を売る店という意味だ。薬師の薬の売り方は2種類あって、薬を街から街へ売り歩く売り方と店を構えてその土地に根ざして薬を売る売り方がある。ここの店主は店を構えて薬を売るタイプの薬師のようだ」
だからこそ、住所を告げるだけで宿屋の主人はすぐにこの場所がわかったのだろう、とリアは言う。
どういう意味なんだろうとショウは少しだけ首を傾げると、リアはショウが自分の言葉を理解していないのがわかったらしい。
ショウが人間社会の常識について疎いことを充分に理解しているリアは、丁寧に教えてくれた。
「薬師の資格は国が管理している。資格持ちは国から認められた正式な薬師だ。資格を持たずして薬の生成も調合も認められていない。資格を持たずにしてしまえば、それは犯罪となる。人の命を左右する場合もあるからな。劇物を扱う場合もあるので、薬師は魔法使いと同様に国に厳しく管理される立場だ」
ショウの里では薬師はいたが、もちろん資格なんてものはなかった。なので、人間は薬師となるのに国から認められる必要があるのだと初めて知って驚く。
「国に認められなければならないから、当然、資格持ちの薬師の数はかなりすくない。薬師が一人もおらず、薬がなかなか手に入らない地方もあるくらいだ。だから、その土地に根ざして薬を売る薬師は、その街の人間からはかなり重宝される存在だ」
そんな薬師が構える店。この街の人からしたらありがたい存在だろう。
昨日の彼が言っていた仕事とは、この店での仕事だったのだろうか。
「行くぞ」
リアが前に出たので、ショウは足元にある立て看板を避けて後に続いた。ドアを開けると、からんからんとベルの音がする。そのことで来客があったと気づいたのか、店の奥の方から幼さの残る少女が顔を出した。
「こんにちわ。ご予約の方ですか?」




