信頼と裏切りの戦場5−1
5.
朝食の食べ歩きが終わり、日も少し高くなってきた。通りには人の往来が増え、三人で横並びに歩くのが難しくなったほどだ。何度か人にぶつかりそうになり、ショウは何度も謝りの言葉を口にしなければならなかった。
宿屋を出た時よりも位置が高くなった太陽を見上げながら、リアは「お前たち、今回もよく食べたな……」と呆れた様子で口を開く。軽くなった財布をポケットに入れて、大きくため息をついた。
「まぁ、こんな風に食べたいものが食べられるのは街にいる間だけだからな。街を出ればまた乾パンだけの食事になるから、街にいる間だけでも好きなものを食べさせるか」
財布は軽くなるものの、自分なりの答えを見つけて納得したようで、何度か頷いていた。
その間に空腹が満たされたパティは、朝食の味の余韻に浸っているのか満足げにお腹をさすっている。驚くべきは、ショウと同じだけの量を食べていたことだ。本当に、この小さな身体のどこにそんなに入るのか不思議でならない。リアにとっては昔から見てきた当たり前の光景のようだが、まだ見慣れないショウはいまだに驚きが勝る。
双子の太陽を見つめていたリアは、辺りを眺めてから「人が増えてきたな。私たちは彼の家に向かうつもりでいるが、パティはどうする?」と義妹の方へ視線を向ける。
今回のことは、ショウとリアには深く関係していが、パティは関わっていないことだ。ついてくるもついてこないもパティの自由なので、リアは本人に選ばせることにしたようだ。
名前を呼ばれたパティはきょとんとした目でリアを見上げて、少し考えるような仕草を見せる。ややあって「ボクが知ってもいいことなの?」と訊ねてきた。二人に流れる空気で、気軽についていける雰囲気ではないことを察しているようだ。
パティは基本的にあまり口を開かずに我関せずのような態度を取るが、空気や雰囲気はよく読んでいるような印象を受ける。
パティの言葉に、リアは「私は構わないと考えている」と告げた。
「パティが知りたいと思うのであれば知ってもいいし、知りたくないと思うなら知らなくていい。私たちも無理にパティに教えたいとも知ってほしいとも思っていない。知りたくないのであれば、私たちはこのことについてパティの前では一切口を開かないと約束しよう。だから、知りたいか知りたくないかはパティが自分で決めて構わない。私はパティがどちらを選んでも文句を言うつもりはない」
リアにそう言われ、パティは再び考える素振りを見せる。そしてしばらく考えた後、答えが出たらしく「ついてく」と言った。
「お姉ちゃんは戦争のことをあまり言わないから、ずっとなにが起こっていたのかずっと知りたいと思ってた。それを知るチャンスがあるのなら、ボクは知りたいと思う」
珍しく長い言葉を一気に語ったパティに、リアはそういえばそうだったな、と思い出す。
戦争から帰ってきてから、リアはいつも通りのように振る舞いながらも、戦争に参加した時の話は避けるようにしていた。思い出したくもないことがたくさんありすぎて、戦場での話題が出るたびにさりげなく話題を変えることも多かった。
パティはなにも言わなかったものの、そのことには気づいていたようだ。だから、パティはなるべく戦場での話題を出さないように気を付けてくれていたのだろうと思い当たる。
しかし、なにがあったのかはずっと知りたかったものの、訊ねることができなかったようだ。今回は、ずっと知りたくても知ることができなかったことを知ることができるチャンスと考えたのだろう。そのため、ついていくという結論を出したようだ。
パティはまっすぐにリアの赤い瞳を見上げる。
「ボクは戦争があったことは知ってるけど、戦場がどんな場所だったのかは知らない。お姉ちゃんがどういう状況を生き抜いて戻ってきたのかずっと知りたいと思ってたから、ボクはついてくことにする」
「……わかった」
パティの思いを聞いて、リアはその頭を撫でてショウへと視線を向ける。
「構わないな?」
「ああ」
パティの気持ちを聞いて、拒否するような考えは思い浮かばなかった。昨日の彼が兄の死の真相を知りたいと思うのと同じで、パティだって大事な家族であるリアが生き抜いた場所を知りたいと思っても当然なのだ。
それに、パティは目的を同じくした旅の仲間。その仲間に対して隠し事をするつもりはなかった。
「では、行くか」
リアが歩き出したのを見て、ショウとパティが続く。
先導する少女の赤い髪が風に靡くの見ていると、懐かしい光景を思い出す。




