信頼と裏切りの戦場4−4
驚きで自然と将軍の傍に控える副官へ視線を向けると、彼も「私もそう考えています」と言った。
「あなたがこの国に貢献してくださっているのは事実です。我々はあなたの身元よりも、あなたの働きを評価しています」
「こいつの言う通りだ。俺もそう思っている。お前の働きを充分に評価しているつもりだ。お前の働きが不十分であれば、いくら前隊長の遺言でもお前を突撃部隊の隊長に任命はしなかった。そして、今回必要なのは、この戦場に来た重要人物をあらゆる危機から守れるほどの腕前を持っているかどうかだ。そう考えた時、俺はお前が適任だと考えた。これには副官も同意している」
「でも、オレは部隊を率いて前線に行かなければならない立場です」
なので、その任務は難しいと言うと、将軍は「それはわかっている」と答えた。
「自分だけ本営にいて、部下だけを最前線へ送り込むということはしたくありません。部下を前線に送るのならば、オレも前線へ行きたいと思います」
それを聞いて、将軍はため息をついた。
「本当に、そんなところもあいつにそっくりだな」
「あいつ……?」
「前の突撃部隊の隊長だ。あいつも部下だけを前線へ送り出すことをよしとしなかった。自分自身も前線で戦い、その結果戦死したがな」
「……」
脳裏に、よく笑っていた前隊長の顔がよぎった。よく笑う人だな、と思っていたのを思い出す。
「お前はあいつが認めたから、あいつと一緒で前線へ行くと言っても不思議ではないと思っている。隊長なのに前線に行きたがるやつなんて、あいつとお前以外にはいないだろうな」
将軍は小さく笑ってから、ショウの肩に手を置いた。
「衝突が始まれば部隊を率いて前線に行っても構わない。だが、ここに待機している間はその重要人物と常に行動を共にして警護してほしい。ヴェスラ草原での最前線で生き残ったお前の腕を見込んでの頼みだ。俺は正当な評価をしているつもりだ。だから、前向きに考えてほしい」
「……」
「まだ猶予はあるから、すぐに答えを出さなくてもいい。だが、あちらも本営内をうろついているだろうから、答えを出す前にお前に会う可能性が高いがな」
それで話は終わったらしく、「戻ってもいいぞ」と言われた。
本営は居心地が悪いため、あまり長居したくないショウは将軍に頭を下げて、早々に部下たちが待っている場所に戻ることにした。
出口に向かってとぼとぼ歩きながら、「はぁ……」と小さくため息をつく。
あいかわらず、ほかの隊長たちからの視線が痛い。将軍とどんな話をしていたのかが気になるのだろう。
これで、自分たちを差し置いて重要人物の護衛を任せたいとショウが頼まれたと知ったら、どんなやっかみを受けるかわからない。さっさと部下たちのもとに戻ろうか、と考えながら歩いていると、本営から出る直前に誰かに服を引っ張られた。
「うおっ……!」
右の服の袖を掴まれ、ぐいぐいと引っ張られる。ほぼ後ろ向き状態で引っ張られているため、ショウはバランスを取るのに必死で相手の確認ができない。
しばらくして、食料や武器などの荷駄が置かれている場所に向かっているのがわかった。あまり人が出入りする場所ではないので、もちろんのこと周りには人の気配がない。
ーーな、なんだ……?
ショウの頭は半分混乱していた。将軍の目が光っている本営内で、ショウに対して直接仕掛けてくる者はいなかった。なので油断していたのも事実だ。
相手が立ち止まったことによって、ほっと息を吐いたショウは急いで振り返る。しかし、振り返ってもそこには誰もいなかった。
「……?」
きょとんとしていると、「どこを見ているんだ、お前は」と声がした。幼い女の子のような声だ。戦場であるこんな場所には似つかわしくないくらいの。
ーーあれ……?
どこから聞こえているのかわらかずに、きょとんとしていると、「下だ、下」と聞こえた。今度ははっきりと、下の方から聞こえた気がする。
視線を下ろすと、そこには驚くほど真っ赤な女の子が立っていた。髪の毛一本一本が真っ赤に染まり、大きな瞳も燃えるような赤色だ。身につけている服も赤に近い色を基調としており、一瞬でこの子が誰なのかがわかった。
「魔法使い……?」
人間を毛嫌いし、人間と関わりを持ってこなかった亜人ですら知っている存在だ。
赤色を持って生まれるということは、魔力を持っている証。持っている魔力が多ければ多いほど、その姿は魔力に影響されて赤く染まる。
目の前にいる少女は、目が覚めるほどの赤色の持ち主だった。今まで、こんなに赤を持つ人間は見たことがない。人間はこれほどまでに赤を持つことができるのかと驚きを隠せないほどだ。
ショウが驚きのあまりなにも言えずにいると、女の子は強そうな意志を窺わせるような瞳をこちらに向けてきて、「なぜ、お前がここにいるのだ?」と言った。声音にも自信が溢れていて、見た目よりも大人びた雰囲気を感じる。
「え……っと……」
どこかで会ったことが会っただろうか。記憶の中で必死に目の前にいる女の子の姿を必死に探すが、まったく覚えがなかった。しかし、なぜここにいるのかと訊いてくるということは、どこかで会ったことがある可能性が高いかもしれない。だが、こんなに真っ赤な少女に会った記憶はなかった。
「オレ、君とどこかで会ったことがあるかな?」
とりあえず相手は子供なので笑顔を浮かべて話しかけると、女の子は耳を貸せというような仕草をしてくる。
殺意は感じられないし、なにか仕掛けられても対処できるだろうと判断し、素直に少女の口元へ耳を近づける。
「ーーお前、亜人だろ?」




