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Wind Illusion Story ー世界は混沌に選ばれし勇者の再来を待ち望むー  作者: 雪杜 凛


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信頼と裏切りの戦場4−2

 前隊長が亡くなってからショウが任命されるまでの時間がかなり短かったのは、そのことがあったからなのかと納得した。

 雰囲気から察するに、ショウを隊長に任命することに対して反対意見があったのだろう。だが、この将軍はそれを押し切ったらしい。

 将軍は軍に関する全権を国王から与えられているため、ほかの隊長たちも将軍の決定に反対するのは難しいのだろう。将軍に逆らうということは、将軍に全権を与えた国王に逆らうということになるのだから。

「ヴェスラ草原で生き残った突撃部隊初期メンバーはお前だけた。あとはみんな戦場で散った。戦争に勝つためにたくさんの若者を突撃部隊に配属させたが、みんなことごとく散っていく。戦場とはそういう場所だが、彼らにも帰りを待っていた家族がいたのだと思うと配属させた本人としてもやるせない気持ちになる」

「……はい」

「だから、お前は訓練を始めたんだろ? 前線で少しでも生き残れる確率が上がるように」

「はい」

「突撃部隊は使い捨ての部隊だと言う奴らがいる。少なくなれば補充すればいいと。代わりはいくらでもいると。それはあまりにも人間の命を軽視している発言だと俺は思っている。だったら、補充が必要ないくらいに少なくならなければいい。お前が行なっている訓練とはそういうものだったと報告を受けている」

 どうやら、気づかないうちにショウが行なっている訓練を調べるために部下を忍び込ませていたらしい。脳裏に訓練を受けた者の中で部下ではなかった顔がいくつか浮かぶが、多すぎて誰なのかはわからなかった。

「兵士は使い捨てにすべき存在じゃない。すべての部隊の隊長の中で、部下をそう思っているのはお前だけだ。ほかの隊長たちは部下の命を軽く見ている傾向がある。だからこそ、そんなお前を見込んでこの話を持ってきたんだ。文句を言う隊長たちは俺が黙らせよう。戦場で散る若者を一人でも減らすために、最前線を誰よりも知っているお前が行なっている訓練はかなり有益だと判断した。だから、俺からも頼む」

 そう言って頭を下げた将軍を見て、ショウは慌てる。この人は素性の知れない人間に対して、簡単に頭を下げてはいけない人のはずだ。そんなことをしていい立場の人じゃないのは、人間社会に疎いショウでもわかる。

 慌てたショウが両手を左右に軽く振って、「わかりましたから頭を上げてください!」と言うと、将軍は頭を上げた。

「これから訓練希望者の希望を募り、演習場の使用許可は手続きの関係上明後日からになる。訓練自体は希望者が集まり次第、順次開始するものとする。期限は次の戦場が決まるまでの間だ。それは1ヶ月かもしれないし、一年以上先かもしれない。だが、次の戦場があることは確実だ。それまでに戦場で死ぬ若者を一人でも減らせるようにしてほしい。あの悪夢のような最前線を生き残ったお前にならできると俺は確信している」

「期待に添えることができるかはわかりませんが、精一杯がんばります」

 すぐにショウの訓練の希望者を募っている話は軍内部を駆け巡り、希望者が殺到した。かなり多くの兵士が参加希望したため、大演習場でも収まりきらないことが判明したので、将軍と相談した結果、いくつかの班に分けて訓練を行うこととした。

 ショウとしては、自分の訓練を希望する人間がこんなに多かったことに驚きを隠せずにいた。父親から教わった生き残ることを前提とした戦い方と考え方が、人間にも必要とされているのだと実感した。

 将軍を中心とした軍の上層部で訓練希望者を腕前ごとに班分けを行い、すぐにショウへと通達された。ショウはその班分けの内容を見て、自分なりにどのレベルにどのような訓練が必要になるかを考え、数日後には大演習場で訓練を行った。

 訓練生は自分から希望した者たちばかりなので、ショウの訓練に対する心構えが違った。真剣にショウの言葉に耳を傾けてくれる。

 なので、ショウは徹底的に戦場でーーそれも前線で生き残るための技術と考え方を彼らに叩き込んだ。人間の世界で習う綺麗に型にはまった訓練ではなく、戦場で生き残ることを前提とした型にはまらない訓練を兵士たちに教え込んだ。見栄や矜持などは、戦場では一切役に立たないこと。汚い手を使ってでもいいから生き残るために最善を尽くすこと。

 かつて、ショウの師匠であった父親に教えられたことだった。ショウが暮らしていた亜人の里では、生き残ることを前提とした訓練を日頃から行ってきた。人間に見つかってしまえば大勢で押し寄せて皆殺しにされてしまう可能性がある生活だったので、その時に向けての生き残るためのーー殺されないための方法を、ショウの里では代々受け継がれていた。

 意外にもショウには教える才能があったらしく、訓練を受けた兵士たちの顔つきが日々変わっていった。最初は不安がっていた表情をしていた者たちが、訓練を受けている間に頼もしい表情へと変わっていくのだ。それを見ていると、自分がしていることは間違っていないのだと思えた。

 一人でも多く生き残るように。

 それがヴェスラ草原でたくさんの仲間を見送ったショウの願いだった。

 そして、いつしか「みんなで生きて帰ろう!」と約束を交わして、固い絆で結ばれた訓練生たちはそれから一年後に全員が戦場へ送られた。

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