信頼と裏切りの戦場4-1
4.
ヴェスラ草原の戦争だけに参加し、その後は軍を抜けて里に戻ろうと思っていたショウにとって、戦争での戦いが功績として認められて役職を与えられたのは予想外の出来事だった。おかげで軍を抜けるタイミングが掴めずに、それでも抱えてしまった部下たちはショウと同じく最前線に送られてしまう。
たくさんの仲間を見送った立場としては、不本意だとはしても抱えてしまった部下には一人でも多く生き残ってほしいと思い、訓練を行うことにした。
ショウが師匠である父親から受けていた修行を突撃部隊に配属された部下に対して行なっている間、ほかの部隊の隊長などはショウに対して堂々と「最前線の使い捨ての部隊に訓練など無意味では?」と笑う者さえいた。
貴族である彼らにとって、平民の部下はいくら死んでも心が傷まない存在なのだろう。ショウは、自分が抱えた部下をそのように思うことはできなかった。彼らにも故郷で帰りを待っている家族がいるのだと思うと、どうしても死んでも構わないような存在だとは思えなかった。
最初は突撃部隊に配属されたことにより、自分の死は確定しているのだと絶望していた彼らだったが、ショウと共に訓練を行うようになってからは顔つきが変わっていくのがよくわかった。
最前線でも生き残るための術を余すことなく教えるショウの話をよく聞き、真面目に訓練を受け、それで考えが変わっていったのだろう。もしかしたら最前線でも生き残れるのでは? という希望を持つことができたようだ。
ヴェスラ草原でたくさんの仲間を見送ったショウとしては、部下を使い捨ての道具としては扱いたくない一心だった。ほとんどの部下が、故郷で家族や恋人が帰りを待っていると言っていた。その人たち気持ちを考えると、一人でも多くの部下を前線で生き残れるようにできるかぎりのことをしたい、との思いで訓練を続けていた。
しかし、中にはほかの部隊で無能の厄介者扱いされて突撃部隊に放り込まれた者たちもいた。その者たちは武器を扱うセンスが壊滅的で、そこが役立たずと思われた原因だったのだろう。なので、突撃部隊に配属させて前線で死んでもらおうと考えたのかもしれない。
人間の汚い部分を不愉快に思いながらも、ほかに行く場所がないからここにいるしかない、と笑う彼らに、ショウは徹底的に武器の扱い方について教えた。前線で死ぬことを覚悟している彼らに、死ぬつもりであれば簡単に死ぬことは許さないと言って、懇切丁寧に武器の扱い方を教え、戦場で生き残るための考え方を念入りに教えた。
最初は素性の知れないショウのことを毛嫌いしていたほかの隊員も、訓練を受けた者たちの話を聞いて次第に訓練に混ざるようになった。
真剣な姿で訓練を行う突撃部隊の隊員たちを見て、最初は無意味だと笑っていたほかの部隊の隊員も自主的にショウの訓練に参加するようになってきた。基本的になにも教えようとしない貴族の隊長たちとは違い、戦場で生き残るための実践的なことを教えるショウの訓練の話は軍の中で瞬く間に広がり、それが将軍の耳へと入ったようだ。
ある日、突然将軍から呼び出されたショウは「君の訓練を受けたいと希望している者が多い。軍の大演習場を使用することを許可するから、そこで兵士たちに訓練を行ってほしい」と言われて驚いた。
最近、部下以外の人間が訓練に混ざっていることには気づいていたのだが、真面目に訓練を受けてくれるのが嬉しくてなにも言わずに部下と同じように教えていた。そのことで、噂が広がったようだ。
ショウが返事に困っていると、将軍は立ち上がって窓から外を眺める。かなり大きな男だ。ショウは里では平均的な身長だったが、人間に混ざると頭一個分飛び出すくらいには背は高い。だが、将軍はそんなショウよりも身長が高く、人間の中では珍しいぐらいの背丈だろう。
そんな将軍の身体の見える部分にはあちこちにたくさんの古傷があり、たくさんの戦場を潜り抜けてきた猛者であることがよくわかる。伝わってくる空気もピンと張り詰めていて、妙な緊張感を覚える。
「実は、前の突撃部隊隊長は私と一緒に軍に入隊した同期だったんだ」
そう言われ、脳裏に前任者の顔が浮かんだ。素性の知れないショウを、周りの反対を押し切って突撃部隊に入隊させてくれた人。彼はヴェスラ草原での最後の衝突で戦死したと聞いた。
「あいつはヴェスラ草原での最初の衝突が起こる前の会議で、面白い男が入隊してきた、と笑って言っていた。素性はわからないが、見た感じかなりの使い手だとな。そして実際、君はあの戦いで大きな功績をあげた。あいつの人を見る目が狂っていなかった証拠だな」
「……」
「最後の衝突の前夜、あいつは『俺にもしものことがあった場合、ショウ=アステールを次の突撃部隊隊長に任命してくれ』と言った。そして、あいつは死んじまった。故郷には置いてきた嫁がいて、その腹には新しい命が宿っていて、あいつはその子が生まれてくるのを心待ちにしていた。戦争が終わって故郷に戻ったら、嫁と子供と一緒に暮らしたいと言っていたのを今でも覚えてる。だが、あいつは死んでしまって、あいつの予想通りにお前は生き残った。だから、俺はあいつの遺言通り、お前を突撃部隊隊長に任命した」




