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Wind Illusion Story ー世界は混沌に選ばれし勇者の再来を待ち望むー  作者: 雪杜 凛


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信頼と裏切りの戦場3-5

「パティはヴェアール家の門の前で倒れていたのを、私が見つけたのだ。その時に三日三晩高熱にうなされて、医者には覚悟しておいた方がいいとも言われた。だが、パティはなんとか耐えきって目を覚ましたんだが、その時にはすべての記憶を失っていたのだ。どこでなにをしていたのか、両親のこと、自分の名前すらも忘れてしまっていてな。父も私も困り果てたんだが、家に出入りしていた拳闘士の指南役がパティの才能をすぐに見抜いて、稽古をつけたいと申し出てきたのだ」

 それで、とリアは言葉を続ける。

「パティをヴェアール家で引き取ろうと私は父に申し出たんだが、素性の知れぬ子供をヴェアール家に迎えることは容易なことではない。周囲が納得するほどのなにかがなければ難しいと言った父はパティに条件を出した。成人するまでに拳闘士の指南役に認められて免許皆伝すればヴェアール家に養子として受け入れる。できなければ、領内での仕事を斡旋するから家から出て行かなければならない。パティはその条件を呑んで稽古をつけてもらうことになった。その結果、たった四年で免許皆伝したんだから、父の驚きぶりはすごかったな。約束通り、最年少での免許皆伝ということでパティをヴェアール家に迎え入れることに文句を言う者などいなくてな。免許皆伝から1ヶ月後にパティは正式にヴェアール家の養子となった。だが、ヴェアール家の血を引いているわけでもないし、魔力を持っているわけでもないからヴェアールの家名を名乗ることはできないから、魔力を持たぬヴェアール家の人間が名乗るクラージュの姓を与えたんだ」

「じゃあ、パティは記憶喪失で、その記憶は今でも戻ってきてないってこと?」

「そういうことだ。拾った時、医者の話では4、5歳くらいじゃないかって話だった。仮に5歳だったとして免許皆伝は9歳となる。この記録は今でも破られていないな。それから数年経っているから、今は13歳くらいではないかと私は思っている。領内にいる13歳の子供たちも、今のパティと同じくらいの背丈だからな」

 13歳といえば、ショウと出会った時のリアと同じだ。パティはその時のリアよりも身長は低い気がする。今のリアが人間の女性としては身長が高い方だと思われるから、13歳の女の子だったら今のパティくらいが普通なのかもしれない。

 亜人は基本的に身長が高いため、パティくらいの背丈は本当に小さく感じてしまう。13歳であればこれから先の成長も期待できるだろうが、今の身長から考えてもリアを越えることはなさそうな気がする。

「誕生日もわからんのだ。父と相談して、私がパティを見つけた日を誕生日にした」

 リアの話からして、拾われた子供の誕生日を拾った日にするのはよくあることのようだ。

「記憶が戻って生まれ故郷と両親がわかれば親の元に戻してやるつもりだったんだが、今でも記憶は戻らないみたいだ」

 こんなに年月が経過しているのになに一つ思い出せないということは、これから先も思い出せない可能性が高い。リアもそのことは念頭においている様子だ。

 当時のヴェアール家当主であるリアの父親もパティの記憶が戻る可能性を考えていたようで、すぐにヴェアール家には迎えずに、拳闘士としての修練を受けている間に記憶が戻ればそのまま親の元へ返すつもりであったらしい。

 だが、記憶は戻ることなく拳闘士として免許皆伝してしまった上に、パティ自身がヴェアール家に残ることを望んだために迎え入れたようだ。

「ショウは?」

 ずっと黙っていたパティが口を開いた。二人の視線が、小さな少女へと向く。

「ショウはいくつなの?」

 その言葉に、リアはきょとんとした。しかし、すぐになにやら納得したような表情を見せ、「そういえば、聞いたことなかったな」と呟く。

 ショウも記憶をたぐるが、聞かれた記憶も言った記憶もない。

 亜人は成人するまでは人間と同じスピードで成長するが、成人してからはかなりゆっくりと歳を取るのは有名な話だ。最終的には人間では考えられないほどの年月を生きることになる。

 なので、成人しているショウはかなりゆっくりと歳を取っている状態だ。成人している亜人の見た目と年齢が一致しないのは、この世界では知らない者はいないだろう。

 そこが、人間が亜人を忌み嫌う部分でもある。

 ショウはしばらく考え、「いや……、わかんないな……」と首を傾げる。

「わからないのか?」

 ショウの返答が意外だったらしく、リアは少し驚いたように目を見開く。

 人間は基本的に自分の年齢は当たり前のように把握している。拾われた子供であっても、見た目で大体の年齢がわかる。だから、わからないと言い切ったショウの返答に驚きを隠せないようだ。

 そんなリアに対して、「180までは数えてたんだけど、それからは面倒で数えてなくて……」と腕を組んでから顎に手を置いて首を傾げたまま言うと、リアの向こうにいたパティが「ひゃくはちじゅう……」と信じられないものを聞いたかのような声音で小さく呟いたのが聞こえた。

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