信頼と裏切りの戦場3-2
迷う要素など一つもないことに気付かされた。家族の死の真相を知るために国境を越えた彼にとって、リアたちと出会ったのは紛れもないチャンスなのだ。二人の反応を見て、自分の兄の死に様が普通ではないことはなんとなく予想がついただろう。それでも、それでも知りたいと願い、その上でこちらに猶予を与えてくれた。
彼はその場で問いただすことだってできたのだ。だが、それをせずにこちらに選択の余地を与えてくれた。
ショウが彼の立場であれば、その場で相手に訊ねているだろう。ずっと知りたいと思っていたことを知っている人物が目の前に現れたのだ。これを逃してはならないと思うはず。
「リア……、一緒に行ってくれるか?」
ショウの問いかけに、リアはこくりと頷く。彼女の様子を見る限り、ショウがそう訊ねるのが予想していた感じだ。
「最初からそのつもりだ。レンゼムのことに関しては、お前だけに背負わせるわけにはいかん」
レンゼムはショウとリアの二人に深く関わっている。ショウがレンゼムのことを弟の方へ話せば、自然とリアの名前も出るだろう。そのために、リアは今回のことで無関係ではいられない。
「ありがとう、リア」
ショウの感謝の言葉に、リアは少しだけ表情を緩めた。少しだけ張り詰めていた空気が軽くなったのがわかった。
「明日、また露店で朝食を食べてから、彼の待つ場所へ向かおう。迎えに来るまで部屋で待っていてくれ」
「わかった」
ショウの返事を聞いたリアは、そのまま部屋から出て行こうとし、ドアを開けてからこちらを振り返る。
「お前と私は同じ戦場で戦い、今は目的を同じくする仲間だ。一度は道を違えたが、私がお前を信頼している気持ちは変わっていない」
今よりも幼かったリアが自分に寄せてくれた信頼。戦場にて、常に命を狙われる魔法使いであるリアに気が休まる時なんて一瞬たりともなかったはずだ。そんなリアに信頼されていることに、ショウは嬉しさを感じていた。
亜人であることを誰にも知られてはならないという緊張感の中で、亜人と知っていながら信頼を寄せてくれるリアの存在は、死と隣り合わせの戦場にてショウの癒しとなっていた。そのリアを守ることに命を賭けていた。
魔物と交わった種族であるとされる亜人を無条件で信用してくれたリアは、ショウにとってなにものにも変え難い存在となっていた。
それはレンゼムにとって引き裂かれてしまったが、リアはショウを忘れずにいてくれた。まだ信頼してくれていた。それがなによりも嬉しかった。
遠ざかる赤い髪の少女を見送ったショウは、力なくベッドに座り込む。
ショウが悩みに悩んでいたことを、リアは一瞬で結論を見つけさせてくれた。彼女はショウが悩みに悩んで答えを出せないことを見越していたのだろう。だから、答えを見つけさせるためにここに来た。そして、すぐに答えを見つけさせた。
「……敵わないな」
背中からベッドに倒れ、ぼふんと仰向けになる。右腕を額に置き、苦笑いを浮かべる。
リアからしたら途方もないほどの長い時間を生きているはずなのに、自分はなんて情けないんだろうか、と思ってしまった。リアの方がよっぽど大人だ。
ショウはあんなに悩んだのに、リアの中ではすでに答えが決まっていたことに驚きを隠せない。確かにリアの言う通り、家族の身になにかあった場合、なにがあったのかを知りたいと思うのは当然の心理だ。少し考えればわかることじゃないか。
リアはショウがそのことに気づくのを待っていたのかもしれないが、答えをまだ見つけ切らない様子を感じたのだろう。
そして、ショウはリアの言葉であっさりと答えを見つけた。
「レンゼム……、明日、お前の弟にお前のことを話すよ」
そう呟いたショウは、横になったベッドの近くにある窓から見える双子月を眺める。その近くで、きらりと流れ星が走った。




