信頼と裏切りの戦場3-1
3.
こんこんこん、と規則的な音が部屋の中に響いた気がして、ショウは目を開けた。考えごとをしているうちに、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。なにか夢を見ていたような気がするが、目覚めた瞬間に忘れてしまった。
上半身を起こすと、辺りが暗くなっていることに気づく。窓から月明かりと魔鉱石による明かりがうっすらと入ってきていて、それらに照らされて部屋の中は仄暗い感じになっていた。どうやら夕方も過ぎて、夜になってしまっているらしい。
頭がまだはっきりせずにぼぅっとしていると、もう一度、こんこんこん、とドアの方から音がした。それで先ほどの音がノック音だと気づき、やっと誰かが部屋を訪ねてきているのだとわかって、ショウは慌ててドアに向かった。
「はい」
ドアを開けると、そこには燃えるような赤があった。その色が視界に映るだけで、誰が訪ねてきたのかがわかる。
「……リア」
よほどのことがない限り手放すことがない魔法使いの証である杖を持ってドアの前に立っていたリアは、ショウを見上げて「入ってもいいか?」と訊ねてきた。
「あ、うん」
身体をずらすと、リアが部屋の中に入ってくる。パティも一緒なのかと思ったが、その姿はなかった。どうやら一人でこの部屋を訪れたようだ。
ドアを閉めながら一瞬、未婚の女性が男性の部屋に入るのはありなのか? と考えたが、リアが気にしていないのであれば自分が気にするほどのことでもないだろうと思い、今の疑問は忘れることにした。
リアは部屋の中央まで歩き、後ろからついてくるショウを振り返った。赤い髪が月明かりを反射する。
「心は決まったか?」
なにを言われいてるのかわからず、ショウは小さく首を傾げた。リアはなにを言っているのだろう?
そんなショウの様子に、リアは呆れたような表情を見せる。
「忘れたのか? 昼間にレンゼムの弟に会っただろう? 明日は行くのか?」
その言葉で、昼間の記憶が一気に甦ってきた。ショウは大きく目を見開き、言葉を詰まらせた。結論は出ていないのだから、リアの問いかけに答えることはできない。
その反応だけで、答えは決まっていないことがすぐにわかったのだろう。リアはショウに背中を向け、窓から外を眺める。
「レンゼムだって、自分の弟と私たちが出会うとは思っていなかっただろうな」
ショウだって予想していなかったし、リアだってその可能性はないだろうと思っていたはずだ。レンゼムだって、出会うわけがないと思っていただろう。
「オレだって出会うなんて思ってなかったよ。双子であんなに似てなかったら、オレはたぶんすれ違っても気づかなかった」
双子でも似ていない者たちはいる。だが、レンゼムと弟は雰囲気は違うものの顔立ちはかなり似ていた。だからこそ、目が合った瞬間にすぐにわかった。レンゼムの血縁者なのだと。
リアが振り返ってこちらを見てくる。
「レンゼムのしたことは許されないことだし、サウス=リアクターの兵士だったオレとしては、あいつのしたことは止めなくちゃならなかったし、断罪しなきゃならなかった。だが、遺族からしたらオレは責めなければならない人物であるのは間違いない」
言葉を重ねたショウに「……そうだよな。サウス=リアクターの兵士として許せるわけないよな」とリアは小さく呟いた。
「レンゼムのことがきっかけて、私たちは道を違えたからな。レンゼムの目的はある意味達成された。あの時の私たちは、彼の思い通りなったんだろう」
しかし、それから数年が経ち、リアとショウは再び再会した。同じ目的を持った仲間として、再び行動を共にするようになった。それだけはレンゼムにとっては予想外だったはずだ。
「ショウは、レンゼムのしたことを彼の家族に話すことができるか?」
兄の死の真相を知りたがっている弟に話していいのかは迷いが生まれることろだ。自分の兄がしたことを知ってしまえば、知りたくなかったと後悔する可能性だってある。
「……リアは自分の家族が遠く離れた場所で死んだって聞かされた時、なぜ死んだのかを知りたいと思うか?」
ショウの問いかけに、リアは口を閉ざした。真正面から赤い瞳でショウを見つめ、そしてついと視線を外す。
「私は知りたいと思うかもしれないな。どんな理由があったとしても、私は家族の死の真相を知りたいと思うだろう。それは家族として当然の感情のはずだ。お前は違うか? 知らないままで、家族の死を納得することができるのか?」
赤髪の少女に問いかけ返され、ショウは少しだけ目を瞠る。その言葉の意味を少し考えて、思わず苦笑いを浮かべてしまう。リアの言葉を自分に当てはめて考えてみれば、答えは至極簡単だった。その瞬間、自分の中で答えが決まったのがわかった。
「……オレだって同じだよ。家族が死ねば、死の真相を知りたいと思う。どんな理由があるにしろ、オレは知りたいと思うはずだ」
「だったら、答えは決まっているな?」
リアの不敵な笑みに、妙な安心感を覚えてしまった。




