信頼と裏切りの戦場2-3
突撃部隊の人たちに馴染めないショウによく声をかけてくれて、一緒によく話をしたり食事をしたりした兵士の姿があった。人間の食事の美味しさに驚いたショウを見て、「今までどんな生活をしてんだよ」って言って楽しそうに笑っていた男は驚きに目を見開いた状態で口から血を流して死んでいた。
ーー死んだのか……
その身体は同じく死んでいる敵兵の下にある。状況からして相打ちとなったようだ。
この衝突が終われば、また一緒に食事ができると思っていた。互いに笑い合いながら、生きて帰った未来の話をするものだと思っていた。
戦場に当たり前の日常というものはないのだと思い知らされた。自分が死んで彼が生き残る可能性だってあったのだ。今回はたまたまショウが生き残っただけの話。
ここは戦場の最前線なのだから、誰が死んでもおかしくはない。常に死と隣り合わせの場所なのだ。
二発目の赤い花火が上がったが、ショウはその場から動くことができなかった。
死んでいる男から目を離すことができない。彼のおかげで、ショウは人間に対する認識を改めることができたし、周りに馴染むことができた。このまま戻っても、あの場所にこの人はいないのだ。
「なにしてるんだ、ショウ! 戻れ!」
ばん、と同じ部隊の一人が突っ立っているショウの肩を叩いた。その視線の先になにがあるのかを確認した仲間は、「ここは戦場だ。諦めろ。俺たち突撃部隊の命なんて、そこら辺の石ころと同じだ。お前はそこに志願したんだよ」と言う。
そんなことわかっている。前線に送られた命は、後方を守るための犠牲となるためにあるものだ。隊長だってそう言っていたし、それで納得したつもりでいた。
だが、実際に目の当たりにすると、やるせない気持ちになる。本当に自分が選んだこの道は正しいのか不安になってしまう。
「ショウ、行くぞ。ずっとここにいれば、今度はお前がこいつと同じになるぞ。故郷に結婚の約束をしている恋人がいるんだろうが。その恋人の元へ帰るんだろ? ここで後方に戻らなければ、恋人には二度と会えないぞ」
脳裏に、最愛の恋人であるルトが浮かんだ。戦場に行く、と言ったショウに対して、周りは反対したがルトだけは「絶対に帰ってきてね」と悲しそうに笑って送り出してくれた。その彼女の元に絶対に変えるのだと誓ってこの軍に志願したのだ。
だから、ショウはルトのために絶対に生きて帰らなければならない。ここで死ぬわけにはいかないのだ。
ショウは長剣を持っていない手をぎゅっと握り締めて、奥歯を噛み締めた。ここを立ち去れば、亡くなった彼には二度と会うことはないだろう。
「行くぞ、ショウ。お前まで死ぬんじゃない」
そう言ってくれた相手にこくりと頷き、ショウは死んでいる男の顔に手を伸ばし、見開かれていた目を閉ざした。小さく手を合わせ、冥福を祈る。後ろで仲間も手を合わせているのがわかった。
「行くぞ!」
仲間が走り出したのを見て、ショウもその後に続く。
その直後、三発目の赤い花火が上がった。これが最後の合図になる。
生き残った者たちが集められ、新たな人員が追加され、また前線に送られる。隊長は、突撃部隊はその繰り返しだ、と言っていた。前線で死ぬことが前提となっている部隊だと。
今回は生き残ることができた。だが、次は自分がああなる番かもしれない。ショウはそう考えながら、本陣へと帰還した。
その後、ヴェスラ草原では何度も衝突があり、魔法使いも参入して激しい争いが続いた。
ショウはその衝突のすべてを最前線で戦い、しぶとく生き残った。たくさんの仲間を見送り、突撃部隊に所属している人間のほとんどが入れ替わった。初期から所属していた人間は、ショウを含めて数人だけになった。
魔法使いの大規模な魔法によって、ヴェスラ草原は最終的に草木が一本も生えない死の草原と化した。
戦争が終結してから二年が経つ今でも、戦場となったヴェスラ草原は死の草原のままだ。とある研究者は、動植物が戻ってくるまで何百年とかかるかもしれないと言った。
ショウは突撃部隊の一員として誰よりも前線を駆け抜け、誰よりも敵兵を殺した功績によって、《ヴェスラ会戦》がサウス=リアクターの勝利で終わった後、大将軍の地位にある人から直々に新たな『突撃部隊隊長』を任命された。
本陣への出入りも許可され、部下を抱える立場となった。
その立場を手にするために、どれだけの敵兵を殺して、どれだけの仲間を見送ったのかを考えると、ショウは複雑な気分になった。
それでも、自分の目的のためにはその役目を受け入れるしかない。
ショウは《ヴェスラ会戦》で戦死した前突撃部隊隊長の後を継ぎ、新しい突撃部隊隊長として新しい戦場に送られることとなった。
今度は、ショウは仲間ではなく部下を見送る立場となったのだ。




