信頼と裏切りの戦場2-2
突撃部隊に所属していたショウは先陣を切って戦場を駆け抜けた。
一人二人三人……。もう何人の人間を斬ったのかわからないくらいに、斬って斬って斬りまくった。着ていた服が血にまみれ、頬には誰のものかわからない血が付着し、黒銀の髪は血に染まった。それでもショウは守るべきもののために、止まるわけにはいかなかった。
血と脂がついた長剣を大きく振り、それらを吹き飛ばす。目の前には雄叫びをあげて迫り来る敵兵士。彼らに向かって、ショウは走り出す。
横をすり抜けて脇腹を斬り、目の前にいた相手の首を刎ねる。
足を止めた瞬間、なにかが近づいてくる気配を感じてその場から飛び退くと、先ほどまで立っていた場所に3本の矢が突き刺さった。どこからか狙ってきている、と判断したショウが周囲に視線を巡らせると、先方の少し離れたところにある高台から、こちらに向かって弓矢を向けている兵士の姿があった。
ーーあそこか……!
そこまで走るかどうかの判断は一瞬だった。前線では、一瞬の迷いが命取りになる。それはショウを突撃部隊に入隊させてくれた隊長が教えてくれた。
『帰りたい場所があるなら、一瞬たりとも迷うな。死ぬぞ。自分が思うがままに動いて敵を切れ。突撃部隊に課された使命は、前線を駆け抜けることだけだ。俺たちが前線で敵を一人でも斬れば、後方にいる奴らが生き残る可能性が上がる』
だから、ショウは前線を駆けている間、迷うことなく敵を斬り続けた。
今回の弓兵も斬ったほうがいいと一瞬で判断する。こちらの得物は剣のみ。遠距離攻撃ができる弓矢とは相性が悪い。ほかの隊員が狙われる前に、弓兵は斬っておいたほうがいいだろう。
そこに向かって一気に駆け始めると、それを見ていた高台にいた弓兵たちが慌てて次の矢をつがえた。そして、狙いを定めて射てくる。
自分に向かってきた一本は斬り落とし、残りの二本は大きく跳んで避ける。避けられた矢は近くにいた敵兵の背中に命中し、彼はその場に倒れた。
ショウはそれに視線を向けることなく、高台へと走り続ける。それを邪魔しようとして進行方向に現れた数人の敵兵を斬り倒し、顔目掛けて飛んできた矢を軽く首を傾けることで避ける。
完全に見切られていると察した弓兵たちは、これ以上の攻撃は無駄だと判断したらしく、高台から降りて逃げようとするがショウはそれを許さなかった。高台から降りてこちらに背を向けて走り出した三人の弓兵を追いかけ、一人の背中を縦に両断する。そのままの流れで右側にいた者を横薙ぎに斬りつけ、最後の一人の足を斬る。
逃げられなくなった男はその場に膝をついて倒れる。激痛に悲鳴を上げながら、それでも這ってでも逃げようとするその背中に長剣を突き立てた。力を失くし動かなくなった身体から長剣を引き抜いて、血を払いながら次の相手を探す。
ショウが弓兵を襲うまでの一部始終を見ていた敵兵たちは、遠巻きにこちらを見つめていた。その瞳にはありありと恐れの感情が滲んでおり、自分たちは絶対に敵わない、次に目をつけられたら確実に殺される、と思っているのがよくわかる表情を浮かべていた。
ショウがその場から一歩先へ踏み出せば、前方にいた敵兵が何倍もの距離を後ろへ下がる。
突撃部隊の一員であるショウに対して、隊長が与えた命令はただ一つ。
『最前線を自由に駆け抜けろ』
それだけだった。
たったそれだけの命令を、突撃部隊の隊員たちは受け入れた。
その命令から1時間後、サウス=リアクターの軍から鬨の声が上がり、ショウは一気に敵軍に向かって駆け抜けたのだ。同じ場所に立っていた仲間たちを置き去りにして、単身で敵軍に突っ込んだ。それを見た仲間たちも、負けてはならないとショウの後に続く。
あれから、どれくらいの時間が経ったのかわからない。時間の感覚はすでになくなっていた。空は曇っているため、太陽の位置で大体の時間を察することもできない。
何人の人間を斬っただろうか。覚えていられないくらいに斬った気がする。里一番の鍛治師が作ってくれた長剣の切れ味はまだ衰えてはいない。だから、まだまだ大丈夫だ。まだ戦場を駆けられる。
自分を取り囲んでいる敵兵士の一人に狙いをつけて走った。ショウの視線を受けた相手は怯えた表情を見せ、その場から走って逃げようとするが、ほかの兵士たちが邪魔で思うように逃げることができない。
ショウはその背中に思いっきり長剣を突き立てた。くぐもった声をあげてその身体は力を失い、長剣を引き抜くと地面にばたりと倒れた。
それを見ていた周囲の兵士たちが、恐ろしいものを見たかのような叫びをあげて散り散りに走り出す。その光景を見ていたショウは、背後で赤い花火が打ち上げられたことに気づいた。
振り返ると、サウス=リアクターの本陣がある方向から赤い煙を放つ花火が打ち上がっていて、パンっと大きな音が鳴った。
それに気づいたサウス=リアクターの兵士たちが本陣へと帰っていく。赤い花火は戻れという命令であることを聞いていたショウは、長剣についた血を払って逃げ惑う敵兵に背中を向ける。
本陣へ戻る途中、命を落とした兵士たちの横を通ることになるのだが、倒れている人間の顔を見て小さく目を見開いた。
「……っ」




