信頼と裏切りの戦場2-1
2.
ーー同族同士で争うなんて、人間とは愚かな生き物だな……
戦場に立つ黒銀の髪の青年はそう思っていた。彼が住む里では争いが起きたことなんてまったくない。みんな手を取り合って仲良く暮らしていた。ケンカみたいなことはたまにあったが、それでも殺し合うほどの事態まで発展したことはない。みんな気のいい人たちで、青年はその里で生まれたことを誇りに思っていた。
だから、そんなみんなが暮らす里の近くで勝手に争って、その戦火に巻き込もうとしてくる人間をどうしても許すことができなかった。
このままでは、この里も人間の争いに呑まれてしまうのではないか。
戦争が始まってから、そんな危機感が心のどこかであった。里のみんなはそのことについては楽観的で、いつかは終わるだろう、自分たちの里は巻き込まれることはないだろう、と思っているようだった。だが、青年だけは心の中でジリジリと危機感を覚えていた。
思っていたよりも近くの草原で二つの軍の睨み合いが続き、我慢できずに人間の戦争に参加したいと言った時、里のみんなが猛烈に反対した。みんなは会ったこともない見たこともない人間が大嫌いで、人間同士の争いに亜人である青年が参加することを快く思わなかったようだ。人間は人間同士、醜く争っていればいいと。そこに自分たちは関係ないと、誰もがそう口にした。
しかし、このままでは戦火が里まで及んでしまう可能性が捨てきれない以上、青年の意志は固かった。この里が巻き込まれることだけは避けなければならない。ここを追われてしまえば、自分たちはまた居場所を求めて大陸を彷徨うことになる。
数代前の祖先が見つけ出したこの土地を人間のせいで追われることを、どうしても許すことができなかった。今までこの場所で平和に暮らしていた。これからもこの場所で平和に暮らしたい。
それが青年の願いだった。
ショウ=アステールは周囲の反対を押し切って里を飛び出し、ヴェスラ草原にいるサウス=リアクターの軍に志願すると、思っていた以上にあっさりと入隊することを許された。
素性の知れない者など門前払いされるかと思いきや、志願してきた青年を見た立派な体躯をした男が頭の先から足の先までじっくりと見た後、すぐに「いいだろう」と言ってショウの志願が認められたのだ。
渋られるかと思ったショウだが、あまりのあっけなさに一瞬びっくりして言葉を失った。
あとで、その時の男性が突撃部隊の隊長であることを知った。周囲の人間は「素性の知れない者をいれるのは……」と苦言を呈するが、男は「俺がいいと言ったんだからいいんだ。将軍には俺から説明する」と言って奥の方へと歩いて行った。
しばらくして、将軍に話を通してきた男はショウに「俺の部隊に配属が決まった」と言ってきた。戦場で先陣を切る突撃部隊の一人として、ショウは最前線へ配属を許されたのだ。そのことに不満はなかった。むしろ、望むところだった。里に戦火が及ばないように、この場所での戦争を早く終わらせなければならないのだから。
ショウが突撃部隊に入隊してから、ヴェスラ草原の北と南に置かれたそれぞれの軍が睨み合う状態が数日続く。誰もがいつ衝突が始まるかわからない緊張感の中で過ごしていた。
ショウは人間という生き物にあまりいい印象がないため、配属された突撃部隊の中では一人で過ごすことが多かった。周りの者たちも、突然現れたショウに対してどう接すればいいのか迷っている様子が窺えた。
その中にも何人かの物好きがいて、素性がわらかない上に誰とも関わろうとしないショウに対して話しかけてくる者がいた。その人たちと会話をしていく中で、ショウの中で人間に対する嫌悪感は少しずつ薄らいでいった。
里の人たちと変わらない気のいい人たちで、お酒が好き。そんなところは里のみんなと変わらない。そして、故郷に家族を残して戦場に来た。そこは自分とまったく変わらない。
ーーなんだ……、人間もオレたちと変わらないのか……
そう思ったらほかの人間たちと打ち解けるのも早かった。数日間は、色んな話をしながら同じ時間を過ごした。
その中で、サウス=リアクターは好きで戦争をしているわけではないと知った。隣国であるノース=カイマートからの侵略から国土を国民を守るために戦争をしているらしい。
自分と同じだ、とショウは思った。ショウも里を守りたくて戦争に参加している。この人たちも守りたいものがあるから戦争に参加している。なにも違わないのだ。
人間の常識に疎いショウに対して、彼らは深いところを探ろうとはしなかった。なにかしらの事情を抱えてここにきている奴はたくさんいる、と笑う。だから詮索しないという宣言に、心の底からほっとした。
初めて食べた人間の食事も美味しくてかなりびっくりした。人間はこんなに美味しいものを食べて生きているのかと衝撃を受ける出来事だった。夢中になってがつがつと食べるショウに、みんなが笑いながら「まだ食べるか?」とおかわりをよそいでくれた。
種族は違うけれど、ショウは彼らと仲間になれたような気がしていた。彼らもそう思ってくれていたらいいと心の底から思った。
それから数日後、ヴェスラ草原で二つの国による衝突が始まった。




