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Wind Illusion Story ー世界は混沌に選ばれし勇者の再来を待ち望むー  作者: 雪杜 凛


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信頼と裏切りの戦場1-6

 リアの小さな呟きに、ショウは首を傾げる。初めて聞く言葉だ。理解はできるのだが、想像ができない。

「チーズがいい匂い」

 鼻をくんくんとさせながら、パティが言う。そう言われ、リアも確かにチーズのいい匂いが周囲に漂っていることに気づいた。それで合点がいったような表情になる。

「パティは昔からチーズが好きだからな」

 店にある大きな鉄板の上には、焼いたパンで挟まれた肉と野菜のほかに溢れんばかりのチーズも挟まれていた。鉄板で温められたチーズが雪崩のようになっている。確かに、チーズが好きだったら歓喜の悲鳴をあげるほどの量だ。

「ショウも食べるか?」

 訊ねながらリアが振り返ってきたので、ショウはこくりと頷いた。

「ホットサンドって食べたことないんだよね。食べてみたい」

 食べたことがないからこそ、興味がそそられる。いい匂いがするし、その匂いにかなり食欲がそそられる。本能が、これは美味しい、と告げていた。

「わかった。店主、三つ頼む」

「あ、はい」

リアに声をかけられ、呆然としていた店主が我に返った。どこか現実感がなさそうな表情を浮かべたまま、三角形の包み紙にホットサンドが入れられる。リアはそれが手渡される前にお金を鉄板の横にあるカウンターのようなスペースに置き、商品を受け取った。

 店主からホットサンドを手渡しされたショウは、やっぱりかなり食欲がそそられるいい匂いがする、と思った。

「私はこれを最後にする。お前たちはまだ食べたいなら買ってやるから」

 店主に礼を言ったリアがホットサンドを片手に人混みの中を歩き始めたので、ショウもパティもその後に続いてリアを挟んで横一列になる。

 ショウはホットサンドという食べ物は初体験なのだが、口に入れた瞬間に肉の旨みとチーズのコクを感じて、齧り付いた状態のまま大きく目を見開く。びっくりするほど美味しい。サクサクとした焼いたパンとの相性もかなりいい。

 人間ってなんでこんなに美味しいものを作ることができるんだろう、と思った。ショウが暮らしていた亜人の里では基本的な食事は質素なものが多く、肉などは贅沢品とされていた滅多に食べることができなかった。だから、戦争に参加するために里を出て軍に所属した際、食事に普通に肉が出てきてかなりびっくりした記憶がある。人間は日常的に肉を食べるのか、と驚いた。

 それに加え、スイーツなども食べたことはなく、亜人のおやつといえば果物が多かった。なので、人間の世界でよく食べられていると言われて食べたクッキーも、飛び上がるほど美味しく感じたこともあった。戦場で出会ったリアはそんなショウの反応が面白かったのか、ことあるごとに色んなものを食べさせてくれた。あれはいい思い出だ。

 そのせいで、里に帰ってからは人間の世界の食事を恋しく思ったことも多々あった。それくらいに、ショウにとっては人間の食事は衝撃的だった。

 三人で横並びで大通りを歩いていると、すれ違う人は視界に入るのだが、あまり気にならずに風景の一部として感じていた。だが、ある人物だけが妙に目に留まる。

 少し前から歩いてくるその人は少し俯き気味に歩いていたのだが、ショウとすれ違う一瞬だけ顔を上げて、何気なくこちらを見てきた。妙にその人が気になっていたショウは自然と目が合い、その姿に大きく目を見開いて足を止める。

 その人から目を離すことができなかった。

 相手も自分を見つめて驚いているショウを見て、不思議に思って歩みを止めた。

 見つめ合う無言の時間が少し経ってから、ショウが隣にいないことに気づいたリアが声をかけてきた。

「ショウ、どうしたんだ?」

 近づいてくる気配がするが、ショウは目の前の人物から視線を外すことができない。

 そのことで、リアはなにかがあったのかと思ったのだろう。

「ショウ?」

 リアがもう一度ショウの名前を呼び、相手が一点を見つめていることに気づいて、その視線の先を追う。

 追って、その先にいる人物を見た瞬間に、視界の端でリアが大きく目を見開いたのがわかった。

「……っ」

 リアが息を呑む気配が伝わってくる。リアだって、この顔を見れば驚かずにはいられないだろう。記憶に刻まれていて、二度と忘れることができない顔のはずだ。

 相手は赤髪の少女がショウの背後から現れ、しかも自分の顔を見て驚いていることを疑問に思っている様子だ。

「……レンゼム」

 リアが小さくその名を呟く。かつて、リアとショウが共に戦場で出会った男の名前だ。忘れたくても忘れることができない名前。彼がきっかけで、リアとショウは戦場で別の道を歩むことになって関わり合いを持たなくなったのだから。

 彼さえいなければ、リアとショウは終戦の時まで行動を共にしていたことだろう。

 そんなリアの小さな呟きが聞こえたのだろう。相手は大きく目を瞠って、リアとの距離を一気に詰めた。

「兄を知っているんですか⁉︎」

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