信頼と裏切りの戦場1-5
この世界のほかにも別の世界があるかもしれない。そんな話を聞いても、ショウにはぴんとこなかった。実感が湧かないというのが正直な感想だ。
それはリアも同じようで、さして別の世界に興味があるような雰囲気はない。ただ、好きで調べたわけではなく、一つの知識として教えられただけなのだろう。
「過去の資料によると、渡り人の世界には魔法が存在していないらしいからな。魔法がないなんて、人々はさぞかし不便な生活をしているんだろう。まぁ、私が使う魔法もいくつかは渡り人の知識を元に開発されたと聞いている」
そう言って、リアがもう一つのゴマ団子を口の中へ放り込む。
「お姉ちゃん」
ずっと食べることに夢中でほとんど口を開いていないパティに呼ばれ、リアが視線を向ける。ショウと会話している間、ずっと無言だったために存在が完璧に頭の中から消えていた。
パティはなにかに夢中になると一言も喋らなくなる上に気配すら消してしまうため、意識していないとすぐにその存在を忘れてしまう。
「次はボクの番だよね?」
「そうだな。次はパティの番だ」
リアの返答に、パティの瞳がキラキラと輝く。普段は無口でそんなに表情が動く方でもないのだが、食べ物に関してはかなり表情が豊かになる。目だけで感情が読み取れるほどだ。
そのパティはリアとショウが話している間にゴマ団子を完食したらしい。二人が食べ終わるのをそわそわと待っていた。ベンチに座って地面に届かない足をぶらぶらとさせている。
リアが先ほど言っていた「パティは昔から自分の欲望には忠実なんだ」と言っていたのを思い出す。しかも、その忠実さは人間の三大欲求の中で食欲にかなり傾いているように見受けられた。人間の世界は食べ物が美味しいから、その気持ちはわからなくもない。そう思いながら、ショウは最後の一個を口の中に放り込む。
それを見ていたリアが「お前はまだまだ食べられるだろう?」と訊ねてきた。正直まだまだ食べられるので、素直にこくりと頷く。
その隣りでパティもこくこくと頷いているため、リアが呆れたようなため息をついた。
「本当に、お前とパティの胃袋はどうなっているんだか。特にパティなんて、その小さな身体のどこにそんなにたくさん入るんだって思うくらいに食べるからな」
それはショウも疑問に思う。パティはショウから見ればまだまだ小さい子供なのに、ショウと同じくらいの量を平気で食べる。最初にそれを見た時は言葉を失ったものだ。逆にリアは食べなさすぎな気がして心配になる。
ショウの表情からなにを考えているのかがわかったのか、リアがゴマ団子を口に入れてから赤い瞳を向けてきた。
「魔法使いは身体中に魔力が巡っている分、少量の食事を効率よくエネルギーに変換できる。そのため、普通の人間よりも食事が必要じゃない。だが、ショウやパティのように身体が資本の剣士や拳闘士はたくさんのエネルギーが必要になるんだろうな。私からすると信じられないくらいの量を食べるがな」
リアはそう言って最後のゴマ団子を口の中に入れた。
ベンチに座ってゴマ団子を食べている間、目の前の道を通って行く人々はリアに気づくと驚いた表情を見せていた。リアもパティもそのことをまったく気にしていないので、ショウも気にしたら負けだと思うことにした。
「さて、次の露店へ行くか」
リアのその言葉を待ってました、と言わんばかりにパティが素早く立ち上がる。リアとショウの手を引き、「こっち!」と走り出した。どうやらお目当ての露店をすでに見つけているようだ。
そんな姿をすれ違った中年の女性にくすくすと笑われていることに気づいたリアが、「パティ、待て。止まれ。そんなに急がなくてもいいだろう」と言うのだが、パティの足は止まらなかった。
少し走らされ、もともと体力のないリアが肩で息をし始めた頃、「ここ」と手を引いていたパティの足が止まった。
リアが杖を支えにして息を整えるために大きく呼吸を繰り返し、ショウに視線を向けた。
「……」
恨みがましいような視線に、ショウはリアが言わんとしていることがわかった。同じ距離を同じ速さで走って、ショウはまったく息が上がっていない。リアは自分だけが体力がないのだと思い知らされたのだろう。
しばらく呼吸を整えている間、パティはそわそわとリアの回復を待っていた。
店主は突然現れた真っ赤な髪の少女に驚きで言葉が出ないようだ。目が釘付けになっている。しかも、その相手が店の前で肩で息をしているのだから、どう声をかけていいのかわからないのだろう。
呼吸が整ったリアが肩にかかった頭を後ろへと流し、店に近づいた。どんなものを売っているのかと見てみると、そこは肉と野菜をこんがりと焼いたパンで挟んだものを売っている店だった。
「……ホットサンドか」




