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Wind Illusion Story ー世界は混沌に選ばれし勇者の再来を待ち望むー  作者: 雪杜 凛


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信頼と裏切りの戦場1−4

 リアがそう言ったので、あまり見かけることがない食べ物なのだろう。今までいろんなものを見てきたであろうリアが珍しいと言うのだから、自分が見たことなくて当然かもしれない、とショウは心の中で思った。

 リアは油鍋を軽く覗いて、浮かんでいる丸いものを指さした。

「店主、よくこれを手に入れられたな。これはノース=カイマートでしか栽培されていないゴマではないか?」

 話しかけられた店主は、商売人らしくすぐににっこりとした笑みを浮かべた。一つを油鍋から掬い上げる。

「魔法使い様、よくご存知ですね。これはノース=カイマートで採れる白ゴマです。知り合いの行商人から定期的に仕入れているんですよ」

「ノース=カイマートの行商人と知り合いなのか?」

 戦争が終わったとはいえ、サウス=リアクターとノース=カイマートの国交は完全には復活していない。日常的に取引ができるのは主に大きな商会だけで、個人の店が定期的に他国の行商人と取引しているのはかなり珍しいことだった。

 なので、リアは純粋に店主の言葉に驚く。店主の口ぶりで、大きな商会を通して取引しているのではなく、個人的に取引しているのだろうと推察できた。

「はい。戦争が始まる前からの知り合いである行商人の実家がゴマを育てている農家で、そのつながりで特別に仕入れさせていただいてます」

「なるほど」

 戦争が始まる前であれば、個人でも商会を通すことなく他国の行商人と自由に取引ができていた。そこからの付き合いであれば、特別にゴマを卸してもらっていても不思議ではない。

 リアは興味深そうに油に浮かんでいる丸い物体を見つめる。表面に惜しげもなくゴマがびっしりとくっついている。

 サウス=リアクターでは滅多にお目にかかれないこれでもかとふんだんに使っている食べ物に、ショウだけではなくリアも興味が湧いてくる。

 ヴェアールの屋敷でもゴマを何度か見たことはあるのだが、料理人がゴマを使った料理を知らないために食べたことはなかったのだ。初めて見るゴマを使った料理に、是非とも食べたい気持ちになる。

「私もゴマは数えるほどしか見たことがなくてな。実際に食べたことはないんだ。ショウもよく見つけたな? 私はまったく気づかなかった」

「知らない香りがすごく漂ってくるから……」

 確かに、かなりの香ばしい匂いが辺りに漂っている。ゴマを知らないショウには未知の匂いだったはずだ。

「あぁ、ゴマの香りはすごいからな。店主、十個を二袋、五個を一袋、取り分けてもらえるか?」

「毎度ありがとうございます」

 店主が手際よく油を切ったものを数えながら箱に詰めて行くのを視界の端に映しながら、リアはローブの内ポケットから財布を取り出し、料金をカウンターに置く。

「リア、これはなんて料理なんだ?」

 ゴマが使われていることはわかった。だが、それ以外の情報がわからない。ショウの問いかけも至極当然のものだった。

「これはノース=カイマートの東側の地方で食べられているゴマ団子という食べ物だ」

「ごまだんご……。これが……?」

 初めて聞いた。ゴマ、という食べ物も初めて知ったし、だんご、という食べ物も初めて知った。これが、と手渡された箱に入っている未知なる食べ物であるゴマ団子を見つめる。ルトが生きていたら食べさせてみたかったな、と思った。

 店主に礼を言ってから店を離れ、近くにベンチがあったので三人で仲良く座ってゴマ団子を食べることにした。

 一口大のゴマ団子を口に入れた瞬間に、鼻の方に抜けていく風味にびっくりした。そして噛むと旨みが染み出し、なにかが包まれていることに気づいた。

「これ、中になにが入ってんの?」

 ゴマの風味も初めての感覚だが、中に入っているものも初めての味がする。ほんのりと甘味がある。

 リアはゴマ団子を半分だけ齧り、中に入っているものを確認する。

「アズキと呼ばれる豆を甘く煮たやつだ。名前は、あんこ、と言うらしい。過去に渡り人と呼ばれる人間が、この世界に伝えてくれたと言われているものだな」

「……渡り人?」

 聞いたことない言葉だ。そんな言葉、ショウが勉強した本には載っていなかった。

「稀にこの世界にやってくる別の世界の住人のことだ。私たちは世界を渡る人ということで、渡り人と呼んでいる。渡り人はこの世界にはない知識を持っていて、それを私たちに教えてくれる存在だとして発見次第国で保護される決まりになっている。非常に珍しい存在だから私は会ったことはないし、ここ100年以上は渡り人の存在は確認されていないな」

「そんな人がこの食べ物をこの世界に教えてくれたの?」

「少なくとも、私はそう聞いている。ゴマやアズキという植物は、もともとこの世界には存在していなかったらしく、渡り人と共に世界を渡ってきたと言われている。野生で育っていたのを渡り人が発見したらしく、ノース=カイマートはその植物を今でも大事に栽培しているらしい。その時の渡り人が調理法などを伝えたとされている」

 リアは目の前を通る人々の流れを見つめながら、ゴマ団子を一口頬張った。

「この世界を作った神がほかにも世界を作っており、なにかの拍子に世界同士が重なり合った瞬間に渡り人や向こうの世界の動植物がこの世界に落ちてくるのではないか、と考えている研究者もいる。私も論文で発表されていることしか知らない。なんせ、渡り人自体が長い歴史の中で数えるほどしかいないから研究すら進んでいないのが現実だ」

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