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Wind Illusion Story ー世界は混沌に選ばれし勇者の再来を待ち望むー  作者: 雪杜 凛


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信頼と裏切りの戦場1−3

 階段に向かって歩き始めたリアは、自分の部屋の前で待っているショウに気づいた。その姿が手ぶらであることにも同時に気づく。

「長剣は置いて行くのか?」

 ショウが常に持っている長剣の姿がないことが不思議だったのだろう。剣士は普段から自分の武器を手放すことはないのが当たり前だと耳にしているからこその疑問だった。

 ショウは肩を竦める。

「この人混みじゃ、長剣はかえって不利になるから」

 その答えに、リアは納得したようだ。

「確かに、街中で長剣を振り回せば一般人に被害を出してしまうかもしれんしな。まぁ、お前は素手でも充分に強いし問題ないだろう」

 そう言って、ショウの部屋にも結界魔法をかけてくれた。ショウとしては大した荷物はないのだが、リアに「あの長剣は大事なものなのだろう? 万が一があってはならないからな」と言われ、素直に感謝の言葉を述べた。

 三人で連れ立って宿屋を出てから、先ほどここに来るまでに見た露店が立ち並ぶ通りまで戻ることにした。パティとショウの目が釘付けになった露店たちが並んでいた通りだ。この街で一番の大通りらしく、行き交う人の数も多い。

 身動きが取れないほどの人混みではないのだが、悪意を持って近づかれても誰なのか判別するのは難しいくらいには人がいる。だから、油断しないほうがいいだろうが、それでもショウは自分の武器はこの人混みでは不利になると判断して置いていくことにした。

 三人は横一列に並び、リアを挟んで歩いた。

「食堂で食べるのもいいが、たまには食べ歩きもいいだろう。気になる露店があれば声をかけてくれ」

 パティはすぐに近くにあった露店に飛んでいき、「お姉ちゃん!」と呼んでくる。その姿にリアとショウは顔を合わせ、苦笑いをする。

「パティは昔から自分の欲望には忠実なんだ」

 そう言ってパティの後を追う。ショウもその後に続き、パティがまず目をつけたのが串焼きの店だとわかった。辺りには肉の焼けるいい匂いが立ち込めている。かなり空腹を刺激する香りだ。

 今まで肉をそんなに食べた経験のないショウは、戦場で出された肉料理を見た時にこんなにいい匂いがするのかと驚いたことを思い出す。

「これ食べたい」

 パティは屈強な体格をした店主が持っている串焼きを指差す。今にも口からよだれを垂らしそうな表情をしている。キラキラと輝いている瞳が、如実にこれが食べたいと語っていた。

 その様子に苦笑したリアが「三本頼む」と言うと、店主が焼きたての串焼きをそれぞれに一本ずつ手渡してくれた。リアは自分の分をショウに持たせ、財布からお金を手渡しする。

 店主に礼を言ってから店から離れ、通りを歩きながらショウに預けていた串焼きを受け取って食べ始めた。

 熱々の肉の脂が口の中でじゅわっと広がって、かなり美味だった。自然と頬が緩む。

 隣りで歩きながら肉を食べているリアを不思議そうな目で見ていたショウに、「リアはこういうの平気なのか?」と訊ねられる。意味がわからなかったリアがきょとんとした表情で見上げると、ショウは手に持っている串焼きを少しだけ動かした。

「いや、貴族の人って食べ歩きを嫌うイメージがあったから……」

 それでやっとショウが言いたいことがわかったリアは、口の中にあった肉を飲み込んでから、「まぁ、貴族は普通露店で売っているような食べ物は好まないな。食べ歩きとかもしないはずだ」と答えた。

「私は別に露店で売っている食べ物に抵抗はないし、食べ歩きをすることに対しても忌避感はないからな。領地ではよくしていたぞ。父も、貴族の娘がそんなことを、とか言って止めることもしなかったし。それどころか、私に露店の食べ歩きを教えたのは父だ。周りの大人たちは嫌がってやめさせようとしたが、私がいくら注意してもやめないから最終的には諦めていた」

 そう言って、もう一枚の肉を口へ運ぶ。串から肉を引き抜く姿は貴族の娘だとは思えないくらいに豪快だ。食べ慣れているのがよくわかる。

 やっぱりリアは貴族の娘の中でも変わってるんだな、と認識を改めたショウは、自分の串焼きを食べ始める。

 二人が会話している間、パティは肉を食べるのに夢中でこちらの話を聞いているのか聞いていないのかはわからない。多分、後者だと思われる。

 串焼きの肉を全員が食べ終わったところで、リアが串を魔法で燃やして処分した。木で作られた串だったので、捨てるよりかは燃やしたほうが早いと判断したのだろう。

「さて、次はショウの番だな。なにか気になるのはあるか?」

 そう言われ、「ちょっと戻ってもいいか? 見たことない食べ物があって、それが気になる」と答えると、二人から了承がもらえたので来た道を戻る。

 先ほど目にして気になっていた店に並んでいたのは、丸い揚げ物だった。表面になにかしらがぶつぶつとくっついていて、初めて見る食べ物だった。

「ほぅ。これは珍しいな」

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