戦争が残した遺物5−1
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「私なりにできる償いをしたつもりだ。だが、私はきっかけを作ったに過ぎない。これから先の身の振り方を決めるのは彼らだ」
焚き火の炎を見つめながら、呟くようにリアが口を開いた。
それを聞いて、ショウは驚きの表情を浮かべる。
「いや、オレは充分だと思うよ。ヴェアール家の次期当主と名高いリアが、躊躇いもなく頭を下げたんだ。彼はそれを見ることができて、リアの誠意は充分に伝わったと思う」
「私が頭が下げたなんて知ったら、周りの大人たちはなんて言うだろうな。あいつらの嫌そうな顔を思い浮かべると、少しは溜飲が下がる。ヴェアール家の次期当主が平民相手に頭を下げるなんて、とか言うのが目に見える」
リアの言葉に、確かに、とショウは思った。ショウはリアの周りにいた大人たちの顔を知らないが、昔から彼女の話を聞く限りあまりいい大人たちではなかったのは伝わってくる。幼い頃から、こうあるべきと彼らの理想を押し付けられたリアだが、心の中では嫌っていたのだろう。
「私は遺族に出会うことを恐れていた。だがこれは、旅を続ける限り避けられぬことだとも理解している。これから先も、覚悟していかねばならん」
「でもね、リア。リアが罪人であると同時に、オレも罪人なんだよ。それを忘れないでくれ。リアが苦しむなら、オレだって一緒に苦しむよ。同じ戦場に立った仲間同士だからな」
「……わかっている。お前もあの戦場に立っていた。私と一緒だ。あそこでは誰もが同じ目的のために命を賭けた。向こうには向こうなりの正義があったし、こちらにはこちらなりの正義があった。あの戦争はその譲れない正義のぶつかり合いの結果だ」
鉄串に刺して炙った乾パンを食べているパティを見て、リアは目元を緩ませる。
「パティや領民の子供たちが笑って暮らしているのを見ていると、私のしたことは間違いではなかったんだろうな、とは思う」
リアが戦争に参加しなければ、サウス=リアクターは負けていた可能性がある。その場合、真っ先に被害を受けるのは平民の子供たちであるはずだ。親から引き離された可能性だってある。貴族の子供たちだって奴隷に落とされたかもしれないし、処刑だってありえただろう。
「だが、罪を犯してしまったのは間違いない。ただ、私の場合はそれが罪だと認められることはなかった」
「それが戦争だよ、リア。戦場で振るった刃は正義の証の象徴だ。リアには守る者があったからこそ命令に従って人を殺した。それをこの国で責める人はいないよ」
リアが夜空を見上げると、綺麗な星空が輝いていた。あの星々の中にリアが手にかけた人の魂があって、次に生まれ変わるのを待っている。流れ星が走れば、世界のどこかで命が誕生した証だ。だから、この世界の星空は頻繁に流れ星が見れる。
ショウもつられるように顔を上げた。
世界は重なり合っているとリアは教えてくれた。里のみんなやルトの魂は上の世界へと昇り、次の生まれ変わりをあの世界で待っているのだろう。
雰囲気がしんみりとしてきたところで、ショウは話題を変えることにした。戦争に関係ない話題にしようと思って考えに考えて、ずっと気になっていた話を聞いてみることにする。
「そういえば、リアってヴェアール家の次期当主なんだよな?」
「そうだが……?」
いきなり話題が変わったことについてなのか、なにを今更という気持ちからなのか、リアが眉を寄せた。
「で、ヴェアール家って名門貴族なんだよな?」
「ああ」
それを知らないのは生まれたての赤子だけだ。基本的に、物心つく前にはそのことを知る子供は多い。
「貴族って幼い時から婚約者が決められていることが多いって聞いたことがあるけど、リアにはいるのか? そんな話聞いたことないなって思ってーーーー」
「いるぞ?」
「……え?」
ショウの言葉を遮るような簡潔な言葉に、一瞬言葉を失う。
それを見たリアは小さく首を傾げた。肩からさらりと赤い髪が落ちる。
「聞こえなかったか? 私には生まれた時から婚約者がいるぞ。まぁ、今まで数えるほどしか会ったことないがな」
かなりあっさりとした様子で婚約者のことを語るリアを見て、相手に対して大した恋愛感情はないのだろうとショウは推察した。今まで数えるほどしか会っていないのであればそうかもしれないが。
「私が生まれた次の日から、私を息子の婚約者にと名乗り出る家がかなり多かったらしい。その中で父が家柄と条件で選んだ相手だ。確か、歳は私と同じだったはず。今の王家につながる血筋で、魔力が隔世遺伝する珍しい家系らしくてな。で、現当主はすばらしい魔力の持ち主なのだが、その息子には魔力が受け継がれなかった。それゆえにその息子の子供は魔力持ちで生まれてくる可能性が高いと言われててな。だからこそ、私との間に私を超えるような魔力量を持つ子供が生まれるのではないかと期待されて決まった婚約だ」
簡単に言えば政略結婚だな、とリアは言う。それは貴族の娘としては当たり前のことなので、リアは当たり前のように受け入れていて、相手に対して特別な感情を抱いていないのが伝わってくる。
自分が選んだ相手と一緒になろうとしたショウとは違い、リアは貴族の生まれであるがゆえに自分の感情が優先されないのをよくわかっている感じだ。
普段はあまり意識することがないが、このような会話をすると、リアって本当に貴族なんだな、と思い知らされる。
「ショウは恋人を亡くしたばかりだから、少し話すのを避けていたのだがお前の方から話題を振ってきたから話してもいいかと思った」
リアが相手に対して特別な感情があって頬を赤らめるようなことがあれば、殺された恋人を思い出して落ち込んだかもしれないが、あまりにも自分の結婚についてあっけらかんとしているのをみると、驚きでそんな感情は湧いてこなかった。
「兄にも弟にも婚約者がいる。兄は今年に結婚式を挙げる予定だったが、父のことがあったからな。しばらくは喪に服し、私が帰り次第結婚式を挙げる手筈になっている。兄の婚約者もそれで構わないと了承してもらっている。今は兄や弟と一緒にヴェアール家を守ってくれているはずだ」
ヴェアール家ほどの名門貴族であれば、婚約者に選ばれる相手もそれなりの家柄であるはずだ。
通常であれば、ショウのような人間社会に戸籍もないような亜人が言葉を交わせるような立場の相手ではない。だが、リアはそんな自分を信用してくれている。それがなによりも嬉しかった。
「だが、困ったことにこのまま進めば婚約者の領地を通らねばならん。見つかれば、絶対に屋敷に招待されるはずだ。正直会いたくない」
「なんで?」
「……苦手なのだ。昔から」
「へぇ……」
リアに苦手な人間がいるなんて驚きだ。驚きのあまり、そんな返事しかできなかった。
けれど、リアはそんな返事をさほど気にしてもいない様子で、憂鬱そうにため息をついてから炙って膨れ上がった乾パンを食べ始めた。
それを見て、ショウも乾パンにかぶりつく。
頭上では星が輝き、時折、流れ星が走る。
いつかルトの魂も流れ星として夜空を走り、この世界に落ちてくるといいな、とショウは願った。




