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Wind Illusion Story ー世界は混沌に選ばれし勇者の再来を待ち望むー  作者: 雪杜 凛


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戦争が残した遺物4−5

「ごめいと〜」

 少年が懐から、一つの鉱石を取り出した。それは内側から赤い光を放つそれは、リアの杖の先端に取り付けられているものとは大きさが違うが、魔鉱石に間違いなかった。

「そんな貴重なもの、どうやって手に入れたのだ?」

 リアの問いかけに、少年はその場で魔鉱石を軽く上へと投げてキャッチする。

「たまたま襲ったキャラバンが持ってたんだよ。ラッキーだったなぁ」

 ということは、このメンバーでキャラバンを襲ったのだろう。リアたちを襲ったのが初めてなのであれば見逃すことができたかもしれないが、すでに罪を犯しているのであれば見逃すことは難しい。

 リアは小さく長めに息を吐き、杖を構えて少年を見据えた。

「だが、そんなものを持ったとしても、私を殺すことなどできないぞ」

「……そんなのわかりきってるさ。あなたの魔力量は世界の頂点。僕みたいな魔法使いでは絶対に敵わない。でも、傷を一つつけるくらいなら――――」

 そう言って、少年は魔鉱石を掲げた。

 魔力が注がれたことによって、その魔鉱石が光を放った。それを見たリアは、目を細めた。

「燃えろ!」

 瞬間、リアが足元から現れた炎に包まれる。

「リア!」

 ショウが驚いて名前を呼ぶ。だが、リアは炎に包まれていても落ち着いていて、一言「消えろ」と唱えて杖を振り下ろした。

 ぱぁんと音がして、炎が消え去る。少年の炎の魔法はきらきらとガラスの破片のようにリアの周囲を舞い、空中で砂のようにさらさらと風に攫われて消えた。

 リアは髪の毛一本も燃えておらず、服が焼けている様子もない。ショウは自分の心配は杞憂だったと悟った。

「魔法に対する耐性は魔力に比例する。お前は、それを知らなかったのか?」

 リアの言葉に、少年は悔しそうに歯噛みした。

「魔力の高い私は、魔法に対する耐性も高い。お前ごときの炎では、私は傷ひとつつかない」

 魔法使いにとって、魔法耐性は魔力量に比例する。魔法を使う才能は人それぞれだが、耐性については誰でも平等だ。きちんと魔力量によってレベルが決まっている。

 魔力量が多く魔法耐性が高いリアを魔法で殺すのは困難ということになる。

「私は人間に対しては不殺(ころさず)を誓ってるから、お前たちの命は奪わない。だが、キャラバンを襲ったこともあるようだし、見逃すことはできない」

 そして、杖で地面を強く叩いた。かん、と甲高い音が響く。その瞬間、リアを中心に淡く輝く魔法陣が現れた。

 ショウは魔法陣に描かれている文字を読み解くことができなかった。昔、リアが戦場で「読めなくて当たり前だ。あれは、魔力を持つものだけが読むことができる特殊な文字だ。魔力を一切持たない者には、ただの意味のない文字の羅列にしか見えない」と言っていたのを思い出す。

「呪縛」

 リアがもう一度杖で地面を叩くと、昏倒している五人の少年と目の前で魔鉱石を握り締めている少年の足元に同じだと思われる魔法陣が現れる。

 それに気づいた少年がその場から飛び退こうとしたが、それよりも早く魔法陣から現れた光輝く鎖が身体を拘束した。倒れ込んだ少年の手から、ころん、と魔鉱石が地面に転がる。自分の足元まで転がってきたそれをリアは拾い上げ、ローブのポケットに入れる。

「ショウ」

 名前を呼ばれたショウが近づくと、リアは少年を気絶している仲間たちの元に運んで欲しいと頼まれた。 

 拘束されたまま倒れている仲間のところに座らされた少年は、悔しそうな顔でリアを見つめている。

 リアはそんな少年をまっすぐに見つめていた。目を逸らすことなく。

「僕の家族を返してよ」

「命を甦らせることは、魔法使いの禁忌だ。お前も魔法使いの端くれなら、これくらいのことは知っているはずだ。死者蘇生は神の怒りを買う」

「それでもだ。その罪深い命を差し出してまで、僕に家族を返してよ。ここにいるみんなの家族を返してよ」

「……」

 初めてリアが押し黙る。

 リアは戦争が終わってからも罪に苦しんできた。一瞬たりとも、自分が『人殺し』であることを忘れなかった。

 常に、自分は『人殺し』であると言い聞かせてきた。罪が裁かれることがない罪人であると。決してそれを忘れて幸せになることは許されないのだと。

「お前たちの家族を殺してしまったことは、済まないと思っている」

 そう言って、目を伏せる。

 覚悟は決めていた。旅を続けていれば、いずれ遺族に出会ってしまうだろうから、その覚悟は決めていた。だが、心の底では恐れていた。遺族と出会い、憎悪の目を向けられることを。罵詈雑言で罵られ、「家族を返して」と言われることを。

 リアは自分が取り返しのつかないことをしてしまったのは理解している。だが、幼いリアには戦争に参加する選択肢しかなかった。周囲からの圧力とプレッシャーは、幼いリアに耐えられるものではなかった。だからこそ、逃げるように戦場へ行き、言われるがままに魔法を使った。その結果、戦争には勝てたが、リアは裁かれない罪人となった。

 当時、十三歳のリアは理解していたつもりだった。

 戦争に勝つためには、敵国の兵士を殺さなくてはならないことを。負けてしまえば自国の民が蹂躙されてしまう。だからこそ、リアは必死にノース=カイマートの兵士を殺した。一回の魔法で何千、何万と殺した。

 その強大な力を恐れ、ノース=カイマートの兵士はリアを畏怖と蔑みの意味を込めて『赤い悪魔(マーディエス)』と呼び始めた。

 もちろん、その二つ名は捕虜を通してリアの耳に入る。そして、いつの間にかサウス=リアクターの兵士もそう呼ぶようになった。

 それでもリアは生まれ育った国とそこに住む民のことを思って戦った。そして終戦を迎え、リアは『人殺し』の罪を国王から称賛されて家に戻った。無事に娘が帰ってきたことを父親は喜んだが、周りの人間はリアのことを腫れ物のように扱った。

 戦場から遠く離れたヴェアールの領地にまで、リアの二つ名は轟いていたのだ。

 戦争が終わってからの二年間。

 リアは本当に苦しんだ。

「言いわけはしない。私が家族を殺したというのであれば、そうなのだろう」

 村人全員を逃がしてから火をつけたはずだった。だが、見落としがあったのだろう。そのせいで、この者らの家族は死んだ。

 リアに仇がいるように、リアだって誰かの仇なのは間違いない。

「本当に申し訳ないと思ってるなら、この場で死んでみせてよ」

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