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Wind Illusion Story ー世界は混沌に選ばれし勇者の再来を待ち望むー  作者: 雪杜 凛


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戦争が残した遺物4−4

「……!」

 目を見開く。

 それは、リアにつけられた二つ名だった。そう呼ばれることが心底嫌になるような、侮蔑と畏怖が込められた二つ名。

 なぜ、この少年はリアにつけられたその二つ名を知っているのか。

 そもそも、リアにつけられた二つ名は誰もが知っているものだ。リアの名が知れ渡っているように、その二つ名も人々の間で知られているもの。だが、リアの顔を知っている者は限られており、知られている二つ名とリア自身を結びつけられる者は少ない。

 そして、リアがその名を好んでいないことをショウは知っている。

『悪魔』はこの世界では最上級の畏怖と蔑みの言葉だ。その名をもらった者は、畏怖されるのと同時に蔑まされているのと同じ。

 リアは戦争に参加している時に、『赤い悪魔(マーディエス)』と呼ばれるようになった。

 一回の魔法で――それもすべても魔力のほんの一握りを使って、何千、何万という人を殺したリアは自然とそう呼ばれるようになってもおかしくはなかった。あの魔法が全力でならまだいい。だが、リアは全力ではなくほんの一握りの力で、たくさんの人を殺したのだ。リアの中にどれだけの力があるのか。それを想像した敵兵士たちは恐れ、それと同時に仲間であるはずの自国の兵士たちも恐れを込めて、誰かが呼び始めたのが広がった。

 リアはそのことに深く傷ついた。自国の民を助けるために戦争に参加したのに、味方から悪魔と呼ばれるとは思っていなかったのだろう。こう呼ぶのが敵国の人間だけであれば、リアの傷は浅くて済んだだろうと思う。

 リアは僅かに動揺しながらも、それを気取られないようにし、冷静に訊ねた。

「……私は、お前とどこかで会ったことがあるのか?」

 少なくとも、リアはこの少年と顔を合わせた記憶はなかった。リアは記憶力がいいほうであると自負しているので、人の顔ならたいていは覚えられるのだが、この少年の顔にはまったく見覚えがない。

「まぁ、僕はあなたを遠くから見ただけだから、僕のことについて記憶がないのも当然かもね」

「では、お前は私をどこで見たのだ?」

「ガルパスの村」

「……!」

 その言葉に、リアは今度は動揺を隠すことができなかった。明らかにリアが動揺した気配が、離れた場所から見ているショウにもわかった。

 リアは、その村の名に聞き覚えがあった。忘れるはずがない。

「ガルパスの……村だと……」

「そうだよ。あなたが焼き払った村の人間なんだ。僕たちは」

 僕たち、ということは、この者たちは同郷の仲間なのだろう。

 ――いつかは、出会うと思っていた……

 そう。

 いつかは出会うと思っていた。

 リアは戦争の時に、上層部からの命令で三つの村を焼き払った。その村の関係者に、いつかは会ってしまうだろうとは考えていた。

 そして、出会ってしまった。

 ――私は、彼らの故郷を奪った。

 命令だったから。

 そう言い訳すればいいのだが、リアはそれをしなかった。命令だからしたのだろ言う言い逃れはしたくなかった。

「あれは……済まないと思っている」

「済まないと思うんだったらさ、僕の家族返してよ」

 その言葉だけで、リアは状況を把握した。

「待て。あの時、村人全員が逃げたのを確認してから私は火をつけたのだ。なぜ、お前の家族が死ぬのだ?」

「僕の家族は逃げなかったんだ。だって、自分が生まれた場所を捨てられるわけないじゃないか。そして、僕たち家族が震えているなか、あなたは村に火をつけた。そして燃えていく家を見ながら、僕はその時初めて魔法の力に目覚めた。その魔法は、僕の家族を守ってはくれなかったけど」

 そして、少年は柔和に細めていた目を一変させ、リアを鋭い眼光で睨みつけた。

「僕は今でも忘れない。村を燃やすあんたの姿を」

 リアは真っ直ぐに少年の敵意を受け止める。自分のしたことから逃げるつもりはなかった。

「それは、済まないと思っている」

「謝罪の言葉なんて聞きたくない。僕の家族を返してよ! みんなの家族を返して!」

 少年の身の内の魔力が放出され、無数の風の矢が迫ってくる。リアはそれを感じ、杖を構える。

「回れ」

 リアの身の内から高濃度の魔力が放出され、リアの前で渦を巻く。硬い盾となった魔力に、風の矢はぶつかって消えた。

 少年は攻撃を塞がれても焦った様子を見せない。リアはそれを不思議に思った。

 そして、冷静に口を開く。

「その程度の赤髪の人間が、一番魔力を使う風を扱えるとは聞いたことがない」

 リアほどの紅蓮の髪であれば、どの属性の魔法も問題なく使うことができる。だが、少年のは少し赤みのある茶色に近い髪色だ。身の内の魔力量もそんなに多くないだろうと推測する。

 先ほど、炎の魔法を使い、一番魔力を使用する風の魔法も使用した。それだけで、魔力はほぼ残っていないはずだ。なのに、少年は平然と立っている。魔力の枯渇か近づけば魔法使いは体調を崩すのだが、少年にその様子はない。

 考え、リアは一つの考えに行き着く。

「お前……まさか、魔鉱石を持っているのか?」

 魔鉱石は多くがノース=カイマートで採掘され、サウス=リアクターでは高価な品物として有名だ。魔法使いだったら誰もが手にすることを望むが、その値段に手を出すことができずに諦める人も多い。

 そのようなものを、盗賊まがいのことをしている少年が持っていることが不思議でならなかった。

 リアの驚きに、少年は気をよくしたのかにやりと笑った。

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