戦争が残した遺物4−3
軌道を読み切って目を細めたショウは、予備動作なしで長剣を一気に振り上げた。
きぃん
甲高い音が響き、少年の手から蛮刀は消えた。ハッとした表情で少年が空を見上げると、蛮刀がくるくると舞っているところだった。そのまま誰もいない背後の地面に突き刺さる。距離は五メートルほど。
取りに行こうと思えば、取りに行ける距離だ。
だが、そうするとこの男の脇を通って行かなければならない。
迷いは一瞬だった。
敵に背中を向けてはいけないのは重々承知だが、丸腰で勝てる相手ではないのはわかる。なので、少年はショウに背を向け、地面に突き刺さる蛮刀へと手を伸ばす。
しかし、それを読んでいたショウはその背中を追いかけ、右足で強く地面を蹴る。少し跳び上がって左足で少年の背中を踏みつけた。そのことによって、少年はその場に倒れ、動きを封じられる。
「くそっ……!」
一生懸命、手を伸ばすが目指すものへは届かない。その隙に、ショウは長剣を使って蛮刀を二つに叩き折った。鈍い音がして二つに折れた自分の武器に、少年は手を伸ばした状態で大きく目を見開く。
すぐに地面を強く殴りつけ起きあがろうとするが、ショウがそれを許さない。背中を強く押さえつけられているため、起き上がることができずにその場でじたばたするしかない。
それを見たもう一人の仲間がショウに向かって蛮刀を向けて襲い掛かったが、ショウは彼に対して冷ややかな視線を向ける。
しっかりと訓練を受けていない者の軌道は読みやすい。自分に振り下ろされる直前で長剣を逆手に持ち替え、持ち手の先端で相手の蛮刀の持ち手を強く突くと、すぽんと青年の手から武器が飛んでいった。
一瞬の出来事に驚いて固まっている青年の腹部を右手で殴って失神させる。力をなくした身体はその場に倒れた。
その光景を見ていた少年がなにかを叫ぶが、ショウにはうまく聞き取れなかった。ショウが理解できる人間の言葉は『フーゲン大陸共通語』だけだ。地方独自の方言などはまったく理解できない。聞き取れなかったということは、少年が口にしたのはどこかの地方の方言の可能性が高い。
ショウを足元から睨みつけ、なにかを言っているがわからない。
仕方ないので足を退けると少年がすぐに起き上がったが、体勢を立て直す直前で首筋に手刀を落とす。少年は小さな声をあげて、前のめりに倒れ込んで動かなくなった。
小さく息を吐いたショウは、とりあえず二人の襲撃者を拘束するために手足を縛り始める。
おかしい。
リアはそう思った。
パティは隠れている人数は六人だと言った。しかし、何度数えても五人しか姿が見えない。
もう一人、どこかにいるはずだ。姿を隠しているのは間違いない。
リアはパティのように気配に敏感ではない。魔法を使って五感を研ぎ澄まして、やっと気配を感じられる。武道は嗜む程度だ。
「……」
戦っているショウとパティから視線を外し、きょろきょろと辺りを見回す。見守らなくても、ショウとパティが負けないことはわかりきっている。
その時、右手側にあった茂みががさりと動いた。
それに気づいたリアがそちらに視線を向ける。
炎が。
大きな炎の塊がショウに向かって飛んでいく。襲撃者を拘束するためにこちらに背中を向けているショウは、自分に近づいてくる存在に気づいていない。
「――ショウ!」
リアが鋭く名前を呼ぶと、ショウがこちらを振り向いた。迫りくる炎の塊に気づいたらしく、目を見開く。
「回れ、回れ、回れ、回れ」
リアが呪文を唱えると、身体から放出された魔力がショウと炎との間で渦を巻き、強固な魔力の盾を作り上げる。
それもショウは不可視の魔力が自分の前で渦を巻いているのを感じ取っていた。
自然と長剣に伸ばしていた手が止まる。これくらいの魔法ならリアを頼らなくても大丈夫なのだが、リアが庇ってくれるのであれば頼ろうと思った。
渦を巻いたリアの魔力に炎がぶつかり、欠片も残すことなく消え去る。
それを見届けたリアは、「出て来い! いるのはわかっている!」とさっきがさりと動いた茂みに向かって叫んだ。
「……」
再びがさりと茂みが動き、一人の少年が現れた。
その少年がリアの作り出した光の下に現れた時、リアは冷静に目を細めた。様子を見ていたショウとパティは目を見開いて驚いている。
赤い。
現れた少年の髪は、赤かったのだ。赤というよりかは、茶色に近い赤と言ったほうがいいかもしれない。それでもまぎれなく魔力を持っている証だ。
なぜ、魔力を持つ人間が盗賊まがいのことをしているのか。
戦争によって魔法使いが数を減らした今の世の中では、どんな微量な魔力持ちであろうが国で保護される方針になっている。こんな地方で盗賊まがいのことをしているのは、かなりおかしい状況だった。
ーー国がこの少年のことを見落としているのか……?
貴族の家に生まれた魔力持ちであれば国が見落とすことはまずあり得ない。庶民の家に生まれた魔力持ちであれば、国がその存在に気づかずに見落とされることもあるだろう。
リアはこの少年は後者のほうであると考えた。
対峙している魔法使いがそんなことを考えている間に、赤に近い髪を持つ少年はにこりと満面の笑みを浮かべた。
「やぁ。初めまして」
この場にそぐわないほどの明るい表情と声音。リアはそれに気味悪さを感じた。
そして、次の言葉に戦慄する。
「いや、久しぶりだね。『赤い悪魔』のリア=ヴェアール」




