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Wind Illusion Story ー世界は混沌に選ばれし勇者の再来を待ち望むー  作者: 雪杜 凛


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戦争が残した遺物4-2

 白刃がリアの首を狙う。それに素早く反応したのはパティだ。素早く腰のトンファーを引き抜き、ぎぃんと白刃を叩く。へし折るつもりの一撃だったのだが、刃は折れることなく、しかも衝撃を受けたはずなのに取り落としもしなかった。

 軌道が逸れた切っ先は、リアの頬を浅く斬っただけだった。赤い筋が走り、一筋の血が流れる。それは地面に到達する前に炎に包まれて消えた。

 その光景を見たショウは、リアが戦場で言っていた『魔法使いは髪の毛一本すらこの世界に残すことが許されていない』と言っていたのを思い出す。そのことによって、リアは自分自身に魔法をかけていると言っていた。この身から離れていった身体の一部は、その場で燃えて消えるようになっているらしい。

 パティがリアを庇うように立ち、慌てたような声をあげる。

「お、お姉ちゃん……! 大丈夫⁉︎」

「大丈夫だ。これくらいの傷、なんともない」

 そう言ったリアの頬から傷が消える。小さな傷なので、治癒魔法を使っても問題ないと判断したからだ。

 杖を構え、周囲を明るくするための呪文を唱える。

「照らせ」

 リアが掲げた杖の先から小さな太陽のような明るい球体が姿を現し、闇に隠れていた襲撃者の姿が照らし出される。全員男。それもみんな年若い。リアと変わらないくらいの年齢に思えた。それぞれに蛮刀を手にしており、薄汚れた服を着ている。

 リアが魔法を使ったことによって、襲撃者たちが一瞬だけ戸惑った様子を見せた。明るく照らされたリアの髪が燃えるような赤色だと気付いたからだろう。暗闇ではわからなかったはずだ。

「魔法使いだぞ……」「間違いない」「これはやばいんじゃないか?」

 戸惑う彼らを制する声がかかった。

「迷うな。俺たちはやるんだ!」

 その声を聞いた瞬間、彼らの瞳に迷いはなくなり、蛮刀を構えた。

「そうだよな」「ここまで来たら、やるしかないよな」「そうだ。俺たちはやるんだ」

 リアは茂みから飛び出してきた男たちを数え、冷静に口を開く。

「五人しかいないぞ」

 それを聞いたショウが、「隠れてるんじゃないのか?」と答える。

「その可能性は高そうだ。ここは二人に任せてもいいか?」

「あいよ」

「は~い」

 ショウが長剣を構え、パティがトンファーをくるくると回して構える。

「いっくよ~」

 まずは、パティが駆け出す。その速さは目を瞠るものがあった。

 一瞬で近くの少年の懐に入り込み、トンファーを振り上げる。それは見事少年の顎に命中し、大きな音を立てた。その一撃で昏倒した少年は、そのまま後ろへ倒れる。

「くそっ!」

 近くにいた青年が舌打ちをし、パティに襲いかかった。勢いよく振り上げた蛮刀を思いっきり振り下ろす。だが、そこにパティの姿はなくなっていた。

 目を瞠った青年に影が落ち、それに気づいた青年が反射的に上を仰ぐ。その視界に映ったのは、照明を背に一人の少女が楽しそうな笑みを浮かべて舞い降りてくるところだった。

 青年は振り下ろした状態だった蛮刀を構え直そうとした瞬間、パティが空中でくるりと体勢を変え、鋭い蹴りを放った。落下の重みと相まって、かなりの勢いとなった蹴りを顔面に受けた男は後ろに倒れて動かなくなる。

 それを見てショウは、さすがだな、と心の中で呟いた。ヴェアールは魔法使いの名門だが、当然、魔力を持たずに生まれてくる子供もいる。その子たちは剣や体術を学ぶらしいが、小さな身体で男たちを圧倒するパティを見る限り、魔法だけではなく体術などの技術も代々受け継がれているのだろうと察することができる。

 拳闘士は剣士と違って、身体が武器だ。剣が主流となった今では拳闘士の数は減り続けているが、それでも世界に名を轟かす拳闘士はたくさんいる。

 パティも拳闘士としての素晴らしい才能を持っていたのだろう。それをヴェアールが見抜き、開花させた。

 だから、成人には程遠い年齢でありながら、これほどまで強くなることができた。亜人並みの身体能力を有しているように見えるのは、リアからなにかしらの魔法をかけられているのかもしれない。

 ショウはパティから視線を目の前の少年に移動させた。見据える。

 リアの前で殺しをしてしまうと後でなにを言われるかわからないから、峰打ちにしとこう。そう思って、ショウは長剣をくるっと反対側に持ち替えた。

 それを見ていた少年は、「俺を馬鹿にしてるのか!」と叫んで襲いかかって来た。

 振り下ろされた蛮刀の軌道を見極める。動体視力が優れている亜人であるショウには、訓練すら受けていない者の軌道を読み取ることなどとても簡単なことだ。右に小さく動いてスレスレで躱し、薙いだ蛮刀すらも後ろに跳んで躱す。

「ちょこまかと……!」

 何度攻撃を重ねても、ギリギリのラインを見極められて躱されることに、少年がイライラとし始める。ぎりっと奥歯を噛み締めたのがわかった。

「死ねェ!」

 ショウの心臓めがけて蛮刀が突き出される。確実に命を奪うための一撃に、ショウは目を細めて短く息を吐いた。

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