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Wind Illusion Story ー世界は混沌に選ばれし勇者の再来を待ち望むー  作者: 雪杜 凛


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戦争が残した遺物4-1

  4


――おい、起きろ。

 声が聞こえる。

 すごく凛としていて、意志の強そうな声音だ。

 ――ショウ。起きろ。

 聞き慣れた声。

 あれ、誰の声だっけ?

 どこかで聞いたような気がするんだけど。

 ――仕方ない。パティ、叩き起こせ。遠慮はするな。亜人は頑丈だからな。ちょっとやそっとじゃ死なん。

 ――わかった。

 不穏な言葉が聞こえた気がして、少しだけ意識が覚醒する。それでも泥沼につかっているかのように身体が重い。なんとかして重たい瞼を少しだけ開けると、眩しい光が射し込んできた。

 その光に再び目を閉じそうになったが、すぐに目が慣れて目の前の光景が飛び込んできた。

「……!」

 ショウの目の前で、パティが拳を振り上げている。

 一瞬で覚えた危機感に、ショウの意識は一瞬で覚醒する。

 遠慮も躊躇いもなく思いっきり力強く振り下ろされた拳を、「おわぁっ!」と飛び起きて躱すと、さっきまで顔があったところにパティの小さな拳がめり込んだ。

「……」

 その光景を見つめていると、パティは残念そうなため息をついて、大地にめり込んだ拳を引き抜いた。

 ショウは背筋に冷たいものが走る。あのパンチは当たっていたら絶対に顔面が凹んでいたはずだ。

「やっと起きたか」

 呆れたような声が聞こえたので、そっちを見るとリアが赤い髪を風に靡かせて肩を竦めているところだった。

「あと少し起きるのが遅かったら、面白いものが見れたのにな」

「……なにも面白くない! オレは命の危険を感じたぞ」

「まぁ、起きたなら早く動いてくれ。早く枯れ枝をパティと一緒に拾って来い。今日はここで野宿する。私はテントを張っているから」

 ショウの精一杯の抗議は、リアに軽く流されてしまった。

 どうやら三人で思いっきり昼寝をしてしまったらしく、空を見上げると太陽がかなり傾いてしまっている。この状況で先に進むのは厳しいとリアは判断したのだろう。

「あ、わかりました」

 思わず敬語で返事をしてしまう。

 拳の汚れを払っているパティを連れて、ショウは森の中へ入り枯れ枝を拾い始める。

 枝を拾い始めてから少しして、先ほどのリアの様子を見て安堵した。

 ――リア、痛みを感じているふうじゃなかったな。よかった……

 疲れ切って寝ている間に痛みの峠を通り越したのだろう。リアが痛みに苦しんでいる姿は見たくないからよかった。

 ほっと胸を撫で下ろし、ショウは枯れ枝を拾うのに集中した。




 ショウとパティが枯れ枝を拾いに森に入ったのを見送り、リアは「はぁ」とため息を吐いた。

 少し身体が重い。

 パティから引き継いだ痛みもわずかに残っているが、活動に支障が出るほどではない。放っておけば、いずれ消えてなくなるだろう。

「さて、テントを張るか」

 独り言のように呟き、ショウが背負うリュックから丸めてあるテントを外し、手慣れた様子で広げる。木の枝に天井部分を結びつけ、地面に大きな釘を打ちつけ固定する。

 テントが張り終わって、焚き火の準備をしている頃、小脇いっぱいに枯れ枝を抱えたショウとパティが戻って来た。

「まぁ、それくらいあれば充分だろ」

 適当に枯れ枝を積み上げ、ほんの少しだけ魔力を放出し、その魔力が積み上げた枯れ枝に集結したのを確認してから、「燃えろ」と短く呪文を唱える。

 ボッと炎が上がり、枯れ枝を燃やし始める。

「いつ見ても便利だよなぁ。いちいち火を熾さなくて済むから」

 それは旅を始めたばかりの頃に、パティにも言われた。リア自身は火打石などで火を熾した経験がないのだが、確かにこういう時の魔法は便利なのは間違いない。夜も魔法を使って昼間のような明るさにすることだってできるのだから。

「火打石とかで火を熾すのって、地味に大変だからさ」

 ショウの里ではそうやって火を熾していたようだ。亜人は魔力を持たない種族なので、魔法と無縁の生活をしているだろうから、それもそうだろうな、とリアは思った。

 ヴェアール家ではリアたちが魔鉱石に魔力を込めて、魔力を持たない使用人でも火を熾したりできるようにしていた。投手である父親とリアたち三兄弟が、持ち回りでその作業を行っていたのを思い出す。

 父親もリアもいなくなってしまった今、魔鉱石に魔力をこめる作業ができるのが二人だけになってしまった。しかし、父親とリアの魔力が特出して多いだけで、兄も弟も王宮魔法使いとして迎えられてもおかしくないほどの魔力を持っているので、問題はないだろう。

「パティ、乾パンは何個だ?」

「3つ」

「ショウは?」

「食べてもいいなら4つ」

「わかった」

 鞄から使う分だけの乾パンを取り出して、パティに3つ、ショウに4つ手渡す。

 そして、それぞれが一個ずつ鉄串に刺して火で炙り始めた。

 その間は少し暇になる。

 焚き火を見つめていたリアは、前々から少し疑問に思っていたことを聞いてみようと思い立った。

「ショウ。お前、私と再会した時はお金を持っていなかったが、その前は少しの間お金を持っていたと言っていたな? そのお金、どこで手に入れたのだ?」

「ん? お金? あぁ、もらったんだよ」

 その言葉に、リアは眉をひそめる。

「もらった? このご時世に、身元が知れないお前にお金を渡す酔狂な者がいるのか?」

「オレもよくわからないけど……『しょうきんくび』? そんな奴を捕まえたらくれたんだ」

 リアが興味深そうに「ほう」と言った。

「お前、私と再会する前は賞金稼ぎをしていたのか?」

「いや、ただの偶然。たまたま立ち寄った街で悪事を働いてる奴らを偶然叩きのめしたら、駆けつけてきた警邏の人にすっげぇ感謝されて、こいつらには多額の懸賞金がかかっている、とか言われてさ、それで賞金をどっさりともらって、それでしばらく生活してた。まぁ、その金も底をついたんだけど……」

「どれくらいもらったのだ?」

「え~っと……どれくらいだったかな? 人間のお金の単位も数え方も知らないからわからないけど、麻袋いっぱいにもらった」

 これくらい、とお金が入った状態の麻袋の大きさを両手で表現する。

「そんなに大きかったのか? それではかなりの額だな。それを短い期間で使い切るとは。豪遊でもしたのか?」

「いや……ただ、腹が減ったら食ってただけ」

「……その巨体を動かすには、相当な食料が必要なようだな」

 リアに憐れみの目を向けられたが、ショウは気にしないことにした。ショウは自分がよく食べる方だとは自覚している。

「そろそろ食べられるだろう」

 それを聞いたパティが、温かくなって柔らかくなった乾パンに齧り付く。ショウも鉄串から乾パンを引き抜き、そのまま食べる。リアも乾パンを手でちぎってからパクリと食べた。

 ほのかな甘い味が口の中に広がる。乾パンの作り方は同じだが、味が店によって違うのでそこが面白いところだ。今回購入したお店は、少し甘めの味付けをしているようだ。

「今日は三人揃ってよく寝てしまったが、夜もしっかりと寝るんだぞ。明日は今日よりも歩くからな」

「ああ」

「わかった」

 リアの言葉に返事した瞬間、パティがぴくりとなにかに反応したかのように体の動きを止めた。

 それに最初に気づいたのはリアだ。それだけでなにかを察したらしく、「――何人だ?」と短く訊ねた。

 その声に気づいたショウは、「どうしたんだ?」と不思議そうに訊ねる。

 だが、隣りに置いてあった杖を素早く掴んだリアを見て、すぐに状況を察したようだ。隣りに置いていた長剣を手に取る。

「背後の森の茂みの中……数は六」

 パティがそう言った瞬間、後ろからがさりと音がし、茂みから影が躍り出た。

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