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Wind Illusion Story ー世界は混沌に選ばれし勇者の再来を待ち望むー  作者: 雪杜 凛


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戦争が残した遺物3-2

更新は19時台を目指しているのですが、本日は所用により遅れました。

すみません。

明日からは、19時台を目指して頑張ります。

 しばらく、道なき道を進んでいるとリアがふと足を止め、地図を広げて方位磁石(コンパス)で方向を確認し始めた。それに気づいたショウは、草木を薙ぎ払うのをやめてその場に立ち止まる。

 リアンの視線が、地図と方位磁石(コンパス)を何度も往復する。

「こっちだな」

 リアが進んでいた方向より少しズレた場所を指さす。夢中で草木を薙ぎ払っていたら、いつの間にか方向がズレてしまったらしい。

 少しだけ方向を修正し、再び歩き始める。

 三時間ほど歩き続けると、開けた場所に出た。大きな湖が広がっている。

「……」

 リアは少し厳しい顔をして地図を睨んでいる。その様子をショウとパティが見つめていると、ややあってぽつりと口を開く。

「おかしい。こんなところにこんな大きな湖があるとは描かれていないのだが……」

「間違ってたんじゃないのか?」

「まさか。これはヴェアール家が作った最新の地図だぞ? 間違っているとは思えないんだが……」

「でも、人間が作ってるんだから見落とすことくらいあるだろ。ましてや、こんな森の中の湖だしな」

「……」

 リアはショウの言葉に納得がいっていない様子だ。

 しかし、ここでこんなことを考えても仕方ないと思ったのか、方位磁石(コンパス)をローブのポケットに入れ、地図を折りたたむ。

「仕方ない。少し休憩するか」

 その言葉を聞いたパティはキラキラと目を輝かせ、さっと一瞬でリュックを地面に下ろすと湖に向かって走り出した。

「えっ、パティ!」

 リアは走りゆくパティに一瞥もくれることなく、自分のリュックを地面に下ろしていた。そのリュックから羽ペンと便箋を取り出して、なにやら書き始める。

「なにしてんの?」

「ヴェアール家に手紙を書いている。地図を作っている者に、ここに湖があるということを知らせておいてほしいと」

 書き終わった手紙を封筒に入れて、決められた者しか開けられない封印の魔法を施す。その封筒にリアがふっと息を吹きかけると、その姿は忽然と消えてなくなった。

 それにショウが驚いていると、「転送魔法だ」とリアが羽ペンと便箋をリュックに片付けながら言った。

「ヴェアール家の屋敷に私の魔力を込めた魔鉱石を置いている。それを目印に、物を転送することができるのだ。手紙程度であればさほど魔力を必要としないが、転送するものが大きければ大きいほど魔力を消費するができないわけじゃない。だから、『始まりの島』ですべてが終わればヴェアール家に帰るのは一瞬で済む。私の魔力であれば、三人くらいは無理なく転送可能だ」

 そう言って、その場に座り込んだ。

「……パティはいいの?」

「構わん。考えナシではないからな」

 冷たいように感じるが、パティを信頼しているからこその放置であるとショウは理解した。

 だが、それでもパティが気になるショウは自分の荷物を下ろして、湖の淵に座り込んで中を覗き込んでいる背中に近づく。

「パティ? なにか見えるか?」

 後ろから名前を呼ぶと、パティはショウを振り返り、ちょいちょいと手招きをした。なんだろう、と近づくと、むんずと腕を掴まれる。

「?」

 不思議に思っていると、パティは意地悪そうににやりと笑い、そのままショウの腕を引っ張った。

「パ、パティっ――――!」


 どぼん。


 抵抗する隙もなく、ショウの身体は湖に落下した。全身で冷たい水を感じた。

 混乱しながらも、ぷはっ、と湖面に顔を出すと、陸でけらけらと笑っているパティが目に入った。

「パティ!」

 いたずらされたのだと瞬時に理解して怒ったような声を上げても、パティは楽しそうに笑い続けている。もしかして、リアはこうなることを予想していたからこそ、離れた場所から見ているだけだったのだろうか。

 ーー注意しろとか一言だけでも言ってくれればいいのに……

 そう思っても後の祭りだ。ショウは全身ずぶ濡れになってしまっている。

 陸から一メートルほどしか離れていないにもかかわらず、ショウは底に足がつかなかった。切り立った崖のように急に深くなっているらしい。

「ショウ……早く上がってきなよ」

 ニコニコと笑っているパティに言われ、誰のせいでこんなことになったんだと思いながらも、陸に上がろうと両手を水面から出した時、パティの視線が違うところを見ていることに気づいた。

 きょとんとした表情で、ショウの背後を見ている。

 それに気づいたショウは、ふっと自分に影が下りたことにも気づく。

 太陽に雲でもかかったのかと思ったのだが、少ししか離れていないパティのところには陽が照っている。

 おかしいな、と思ってパティの視線も気になり、ショウは後ろを振り返った。

「!」

 びくっと両肩が跳ねる。

 大きな牙をはやした口が、今にもショウを食べようと近づいていたからだ。

 パティは素早く腰のトンファーを抜き、高く跳び上がった。

 その間にショウは陸に登る。

 がんっ、と大きな音がした。それはパティの一撃が相手の眉間にぶち当たった音だった。

 大きな口が閉じられたことによって相手の顔が見え、ショウはやっと魔物と遭遇したのだとわかった。かなりの大きさの蛇の姿をした魔物だ。体長二〇メートルはあるかもしれない。黒インクで塗ったかのように真っ黒な姿をしている。

 硬い鱗に守られているらしく、パティの一撃は跳ね返された。衝撃はあったものの、ダメージはないようだ。

 ショウは背中の長剣を抜き放ち、パティと同じく魔物へ迫る。ショウの鋭い一撃は、簡単に跳ね返された。

「……硬すぎだろ」

 呟き、すぐに二撃目を繰り出す。だが、それも跳ね返る。

 魔物に向かって飛びかかったパティに、魔物が攻撃を繰り出した。拳闘士らしい、身軽なフットワークで魔物を翻弄する。パティがあまりにも素早く動くため、魔物は攻撃の狙いがつけられないようだ。

 もう一度飛び上がったパティは、空中でトンファーを器用にくるくると回し、狙いを定めて全体重を乗せて振り下ろす。ドガァッと大きな音がしたのだが、魔物は無傷。はじき返されたパティが苦々しい顔をして、魔物から離れようとした。

 だが、相手はそれを許さなかった。

 水の中から大きな尾を出し、大きく振った。

「――――ッッッ!」

 尾はパティ目がけて振られ、それは直撃した。空中で身動きの取れないパティは、真正面から攻撃を受けたものの、せめてもの抵抗にトンファーを盾にしたため直撃は免れた。だが、その小さな身体は衝撃で飛んでいく。

 森の中まで吹っ飛ばされ、バキバキと枝の折れる音が聞こえてきた。

「パティ!」

 ショウが名前を呼んでも、返事はない。

 心配になったショウだが、パティに駆け寄ることは許されなかった。

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