戦争が残した遺物3-1
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――世界の醜さを知らなかった頃、世界のすべてが輝いて見えた。
また懐かしい夢を見たような気がしたが、内容はすぐに忘れてしまった。なぜ、夢はすぐに忘れてしまうのだろうか。不思議でならない。
リアは起き上がり、テントの隙間から光が差し込んでいることで朝であることを確認して隣のパティの身体を揺すった。
「パティ。朝だ。起きろ」
義妹はすこぶる寝起きが悪い。なにかしらの不穏な気配を感じた時の寝起きはかなり早いのだが、なにもなかった平和な時間が流れた時の寝起きの悪さは、ヴェアール家では知らぬ者がいないほど有名だった。
「う~ん……」
眠そうな顔で起き上がり、目をこする。寝ぐせのついた頭が少し可愛い。そのまま再び横になって寝てしまわないように、しっかりと見張っておかなければならない。
応急処置として手櫛でパティの寝癖を直しながら、今日はどれくらい移動するかを計算する。次の街まで食料は充分あるし、もしも足りなくなってしまったらショウとパティに狩りをさせればいい。だから、今までみたいに食料の残りを計算して移動しなくてもいい。
ショウとパティの体力は尋常ではないので移動時間を心配しなくてもいいのだが、問題はリアの体力だ。自慢ではないが、小さい頃から剣や体術などを習ってきたショウやパティとは違って、魔法使いであるリアの体力は普通の人間並でしかない。長い距離を一気に移動するのは難しいのだが、のんびりと旅をするわけにもいかない。
「よし。完璧だ」
寝ぼけ眼のパティの寝癖を完璧に直し、着替えを促す。そして、リアは自分の作業に取り掛かった。
腰まである長い髪を櫛で梳き、着替える。上から羽織るローブはいつものと変わらない。赤を基調としたローブで、これは魔法使いとしての第二の証でもある。赤色の服を身に纏うのは、魔法使いだけに許された特権だ。魔法使いではない者が赤色を身に纏えば、すぐに警邏に捕まって牢屋行きとなる。
テントから出ると、ちょうどショウも着替えをしていた。上半身裸で、上着を脱いだ姿のまま突然現れたリアを驚きの表情で見つめ固まっている。
「気にするな。続けろ」
すたすたと歩き、いつもショウが背負う鞄を漁って乾パンを取り出し、鉄串に刺して炙り始める。
着替えを再開したショウが、「女の子なんだから、少しは恥じらったほうが……」と言ってきたのだが、「お前は私がそれくらいで恥じらうような人間に見えるのか?」と訊ねたら、「まぁ、見えないかな」と返事があった。
「だろう? だから、さっさと着替えろ」
そもそもほとんど男しかいない戦場にいたのだ。男性の着替えなど見慣れていて、今さら恥じらう要素など皆無に等しい。それに、リアは男性の着替えを見たくらいで悲鳴を上げるようなタイプではない。ショウもそれをわかっているはずだ。
ショウはリアが本当に気にしていないのを確信してから、いそいそと新しい服を着た。リアが買い与えた、水色を基調とした上着に、白いズボン。
脱いだ服は綺麗に折りたたんで、鞄に詰め込む。水辺を見つけたら洗濯するつもりだ。
その頃には、乾パンもほどよく炙られていて、食べ頃だった。
「いただきます!」
この頃には完璧に目が覚めたパティが元気よく声を上げ、乾パンを食べ始める。ショウも「いただきま~す」と言って、一つとって食べ始める。ちなみに、この二人の前にはあと二つの炙られた乾パンが鉄串に刺さった状態で待機している。
リアはその間に一人でテントをたたみ、ショウの背負うリュックに取り付けてから、パティの隣りに座る。
「いただきます」
リアが一口目を食べた後に、ショウは訊ねた。
「今日はどれくらい進むんだ?」
「街道沿いに進んでいたら遠回りになる。だから、森の中を突っ切ろうと思うんだが、前回のこともあるから迷っているところだ。だが、今回はお前がいることだし、先頭を任せようかと考えている」
森の中を歩けば、魔物や危険な野生の動物に出会う可能性が高くなる。その危険性を考慮してまでも、リアは森を突っ切る判断をしたようだ。
つまり、ショウやパティ、自分の腕を信じているということ。
なんか、信頼されているような感じがして、少し嬉しい。
乾パンを食べ終わり、焚き火に砂をかけて消す。そして、それぞれ荷物を背負って歩き始めた。リアの指示で先頭はショウが務め、地図と方位磁石を持ったリアが真ん中。その後ろにパティの順だ。
「このフーゲン大陸はどうしようもなく大きいから、先はまだまだ長い。ショウも里がヴェスラ草原の近くにあったのなら、逆方向に進んでしまったようだしな」
そう言われると、そうだな、とショウは思った。ここよりも、ショウの里があった場所の方が『はじまりの島』には近い。逆方向に進んでしまったようで、確かに惜しいことをしたようだ。
リアの予想通り、森の中の道は鬱蒼とした草木で塞がれていた。それをショウが長剣で薙ぎ払っていく。
道なき道を進んでいると、次第に会話もなくなり、ショウが草木を薙ぎ払う音と三人がそれぞれ枯れ葉を踏み締める音だけが響く。




