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Wind Illusion Story ー世界は混沌に選ばれし勇者の再来を待ち望むー  作者: 雪杜 凛


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戦争が残した遺物2-6

「リア……、もし仇が討てたその時は、オレの故郷で共に戦った仲間としてみんなに紹介してもいいだろうか?」

 その言葉に、リアは少しだけ目を瞠る。あまり見ることがない、純粋な驚きの表情だった。

 だが、すぐに優しい瞳になって微笑む。こちらも滅多に見れない表情だ。

「ああ。お前の家族や友や恋人に、仇を討ったことを共に報告しよう。だったら、私も父に共に戦った仲間だとお前のことを紹介したい」

「そうだね。正直、リアのお父さんに会ってみたかったな。リアの話を聞いている分、すごく子供想いのいいお父さんみたいだし」

「そういえば、貴族の家では子供と親の関係が希薄なことが多々あるが、ウチは違ったな。母は弟を妊娠している時に病が見つかって、治療を受けるにはお腹の子を諦めなければならないと言われたらしい。でも、母は子供を産むと決断して、弟を産んだ後はそのまま亡くなってしまった。だが、父はその決断をした母を一切責めることなく、生まれた弟に責任を感じさせるようなこともしなかった。そして、私と兄と弟には平等に教育を受けさせてくれた。兄と弟が後継者から外れても、蔑ろにするようなことは一切なく、私を特別扱いすることもなく、平等に愛してくれた」

「ますます、いいお父さんだったな、って思うよ」

「だからこそ、私はどうしても父を殺した奴を許せなかった。私だけではなく、兄や弟からも父親を奪った奴を私は絶対に許したくないと思った」

「その気持ちはよくわかるよ。オレだって、あいつはなにがあっても絶対に許せない」

「私はどうして父は殺されなければならなかったのか。それを奴へ訊ねたい気持ちもある」

「オレだってそうだよ。オレだって里が滅ぼされて、オレだけが生かされた理由が知りたいと思う」

 焚き火を見つめたまま淡々と語っていたリアが、不意に立ち上がった。

「……私の話を聞いてくれて感謝する。少しスッキリした。朝までまだまだ時間があるようだし、私はまた寝ることにしよう」

「おやすみ」

 リアから感謝するなんて言葉、久しぶりに聞いたなぁと思いながら言葉を返す。色々と普段は見せない本音を見ることができたし、珍しい表情も見れた。

 テントの中に入っていくリアの後ろ姿を見送り、ショウは焚き火へと視線を戻した。

『亜人は魔物と交わった忌まわしき種族である』

 この世界に広く伝わっているフーゲン教の聖書に書かれている一文をふと思い出した。

 人間の世界の言葉を勉強するために使った本にそんなことが書いてあった。

 その一文があるからこそ、人間は亜人を受け入れない。迫害されて土地を奪われた亜人は隠れ里を作って細々と暮らしていくしかなかった。いつか人間が里を見つけて襲ってくるかもしれないと考え、抵抗するために常に剣の修行をしていたほどだ。

 ショウは自分が住んでいた亜人の里しか知らない。世界中に亜人の里はあるとは聞いているが、故郷に住んでいた亜人以外とは会ったことがなかった。戦争がなければ、里の外へ出ようなんて考えもしなかったと思う。

 亜人は人間と見た目はほとんど変わらないが、人間と比べるとかなり長命だ。人間からするとそれが気味悪く見えるのだろう。だからこそ、亜人は魔物と交わった、なんて言葉が信じられてしまう。

「オレ……亜人なんだよなぁ」

 リアはショウが亜人であることを気にしている様子が見られない。だからこそ、自分が亜人であることを忘れてしまう時がある。そのくらい、リアだけではなくパティもまったく気にしていない。

 それがなんだが不思議に思える。里では散々、人間は亜人だとわかると悲鳴をあげて逃げる、とか、亜人だとバレたら捕まって処刑される、とか子供の頃から言い聞かされていて、だからこそ小さい頃は人間に対して恐怖心があった。それが人間という種族であり、絶対にわかり合えるはずがない。そう思っていたのに、リアはショウが幼い頃から抱いていた人間への印象をことごとく破壊してくる。こんな人間もいるんだな、と思って、少しだけ人間という生き物に対しての印象が変わった。

『人間と亜人はなにも変わらん。同じ赤い血が流れている生き物だ。寿命の長さの違いなんて、種族の個性でしかないと私は思っている。動物でも種族の違いで寿命の長さが違うではないか。私は人間と亜人の種族の違いとはそれくらいにしか思っていない』

 そう言われた時は、正直びっくりした。そんな風に考えている人間がいるのかと。

 戦場では亜人としてバレないようにと必死に気を張っていたが、リアのその言葉を聞いて少し肩の力が抜けた。

 個性。

 寿命の違いなんて、種族の個性でしかない。

 過去に里から出ていった仲間が目指した、ヴェアールの地を治める貴族の子供の言葉に救われる日が来るなんて思いもしなかった。なんとなく、里を出た仲間たちがこの地を目指す理由がわかってしまった気がした。

 ショウはパチパチと爆ぜ続ける焚き火を見つめる。

 夜は長い。

 いろんなことを考える時間はたくさんある。

 虫たちの合唱を聞きながら、ショウはゆっくりと瞼を下ろして、思考の海へと潜った。

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