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Wind Illusion Story ー世界は混沌に選ばれし勇者の再来を待ち望むー  作者: 雪杜 凛


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23/24

戦争が残した遺物1−1

再会編が終わりましたので、今回から新しい話が始まります。

よろしくお願いします。

――戦争はなにも残さない。怨みと叫びと傷跡だけだ。


            『風幻神話』第7章4節「聖人ゲディウスの言葉」より


  1


 世界が二つの国に分かれてから初めて起こった戦争は、人々から《レーベル大戦》と呼ばれている。

 五年もの間、大陸や人々の心を傷つけた戦争は、戦争を仕掛けたノース=カイマートの国王の改心により、再び同盟条約を結ぶことで終わりを迎えた。

 二つの大きな衝突である《ヴェスラ会戦》と《フレスト対戦》。この二つの衝突によってたくさんの人が命を落とした。

《ヴェスラ会戦》は、サウス=リアクターの国土に存在するヴェスラ草原で起こった戦争だ。国境に程近いヴェスラ草原を占拠したノース=カイマートの軍隊を追い出すためにサウス=リアクター側が軍を派遣し、開戦から初めて大きな衝突が起こった。

 今思えば、この戦争が始まりだった。小さな小競り合い程度の争いは起きていたが、大規模な争いが起きたのはこれが初めてで、たくさんの魔法使いや兵士が戦ったゆえにヴェスラ草原はそれ以来、草木一本生えない死の草原と化した。

 建国以来、一切の戦争を行ってこなかった両国にとって、《ヴェスラ会戦》ほどの争いは建国史上初のことだった。

 ノース=カイマートの国王は軍に「ヴェスラ草原を占拠し続けよ」と命じ、サウス=リアクターの国王は「ヴェスラ草原を占拠する敵軍を一掃せよ」と命じた。

 両国の軍は何度となく衝突を繰り返し、そのたびに人が死んだ。

 屍を乗り越え、戦い、血にまみれ、その先に何があるのか。誰にもなにもわからなかった。とりあえず、戦って戦って戦った。

《ヴェスラ会戦》はノース=カイマート軍を追い出すことに成功したサウス=リアクターの勝利で幕を閉じた。

 それから、何度も小さな小競り合いは起きたが、《ヴェスラ会戦》ほどの大きな衝突は起きずに数年が経った。

《ヴェスラ会戦》から数年後、再び大きな争いが起きることとなる。

《フレスト対戦》と呼ばれる二度目の大きな衝突は、【聖域】を囲う聖なる湖『フレスト』のほとりで、サウス=リアクターの国土に大規模なノース=カイマート軍が侵攻して来たことによって起こった。

 この戦争も規模が大きく、かなり多くの人間が死んだとされている。

 この頃になると、国も人々も疲弊していた。それでも両国は戦争をやめず、争い続けた。

 だが、数で仕掛けるノース=カイマートを魔法使いで迎え撃つサウス=リアクターが押しているように見えた。誰の目から見ても、サウス=リアクターの優勢だった。

 それに業を煮やしたノース=カイマートの国王は、《フレスト対戦》にさらに兵士を送り込むことを決めた。魔法の攻撃力に対して、数での勝負に出たのだ。

 両者はフレストで何度も衝突し、大地を血で濡らした。

 そして、ノース=カイマートの国王からの宣戦布告から戦争が始まって五年後、正気を失っていたと噂されていた北の国の国王が正気を取り戻し、終戦条約の締結を申し入れた。

 戦争終結を望んでいたサウス=リアクターもその話に同意し、二人の国王は会談を行って終戦条約にサインした。

 新しく『フーゲン大陸南北不可侵絶対条約』が結ばれた。なにがあろうと侵略しないと、両国の国王はそれぞれの国民の前でそれを公言し、戦争は終結した。

 だが、戦争が終結しても、大陸と人の心に残った傷跡がそう簡単に消えるわけがない。

 戦争終結から二年が経ち、少しずつ復興していくこの大陸には、まだ悪夢があった。

『世界滅亡の前兆』と言われる魔物の脅威が残っていることだ。

 二つの国が戦争をしている間に、農民では歯が立たないところまで勢力を伸ばしつつあった。人を襲い、里を滅ぼし、2つの国でどれだけの村や街が消えたかわからない。

 今さら魔物に対抗しようにも、普通の人間では手も足も出なくなってしまっていた。志願者に訓練を受けさせて魔物を討伐しようにも、それよりも早く魔物の方が力を増してまう。

 手遅れだ、と誰かが言った。戦争なんて起こらなければ、魔物の脅威に対処できたかもしれないのに、と。

 魔物には魔法による攻撃がかなり有効なのだが、戦争により多くの魔法使いが戦死した。魔物の数に対して、魔法使いの数が圧倒的に足りていない。

 なので、戦争を生き残った魔法使いは国として重要な主要都市に配備されることが多くなり、地方の小規模な街や村は見捨てられた形となった。

 魔物の脅威に怯える人々は、魔法使いが配備されている大きな都市に移り住んだ者も多い。その者たちは難民扱いされ、入り切れなかった多くの者たちは都市の外にスラムを形成することになった。

 どこの都市でも難民は厄介者扱いされ、その存在は領主の頭を悩ませる。

 戦争が終わっても、魔物の脅威がなくならなければ世界に平和が訪れたとは言えない。

 語り部(ジェンクス)は世界各地で人々に希望を語る。

「世界は勇者を待ち望んでいる。混沌を迎えた世界で一筋の光となる勇者の存在を、我々人類は世界と共に心から待ち望もう。混沌に選ばれし勇者の誕生は、もはや時間の問題である」

 彼らの言葉を信じた人々は、絶望に溢れる世界で希望を夢見る。

 まだ見ぬ勇者の存在を、今か今かと待ち望む。

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