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Wind Illusion Story ー世界は混沌に選ばれし勇者の再来を待ち望むー  作者: 雪杜 凛


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再会5−4

 姉が優しいことをパティは知っている。

 普段は強い口調だし、他人には自分の弱みを見せることをよしとしないリアだが、それでも他人に対して優しいことをパティは充分に理解している。

 いつか、その優しさが身を滅ぼしてしまうのでは? と危機感を覚えたこともあった。

 魔法使いとして生まれたことをーーヴェアールの名を持って生まれたことを誇りに思っている。誰もがヴェアール家の当主となるのはリアなのだと褒め称え、彼女自身はその期待に応えようと血の滲むような努力を、決して他人には見せなかった。だからこそ、それを知らない者たちはリアを天才だと、『大地の勇者』の再来だと盛り上がった。

 ヴェアール家の本宅に住む者たちは、幼い頃からのリアの努力を知っている。魔力が枯渇し、何度も倒れたリアを知っている。

 いくら魔力量が多くても、魔法のセンスがあったとしても、最初からすべてをうまくできるわけではない。

 しかし、それを知らない者たちはリアがすべてを器用にこなしたと思っている。だからこその賛辞を、リアは常に全身で受け止めていた。

 ヴェアール家の次期当主として、周りの期待を裏切ってはならないのだと。そのせいで、優しかった姉は自分へ厳しくなり、他人にどうやって優しくするのかがわからなくなってしまった。

 パティはいつもいつも、そんな姉を見てきた。

 戦争が始まった時、周囲はリアは戦争に参加するように要請した。それを蹴ったのは、リアの父親だ。成人もしていない女の子を戦場に立たせるわけにはいかないと。

 けれど、周りがそれをよしとはしなかった。リアに対して執拗に言葉をかけ、思い悩んだ当時のリアはとうとう「戦争に行く」と結論を出した。父親は「すまん」とリアを抱き締めたのを、パティは見ていた。

 周囲からの重圧に悩む娘を、優しく見守っていた父親。その父が殺され、リアは初めて周囲の反対を押し切って自分の我を通した。

 周りが望む人間になろうとした姉が、周りが望まない道を歩むことを決めた。パティはその手助けがしたかった。リアは一人で行くと言い張ったが、パティは絶対に譲らなかった。

 常に姉の言うことに従っていた義妹の反抗に、最初は誰もが驚いた。最終的に、一人で行かせるよりかはと周囲が判断し、リアを説得した。そしてリアが了承して今に至る。

「これも、何かの因果かもしれん」

 リアの言葉に、パティはハッと我に返る。リアは気づいていない様子だった。視線がパティから外れている。

 ヴェアールの始祖は『大地の勇者』と言われている。莫大なる魔力と明晰な頭脳を駆使し、クオシス=アレイを封印したと語り部(ジェンクス)たちは語る。

 その勇者の血を継ぐヴェアール家のリアの前に奴が現れたのは、絶対になにかしらの意味があるはずなのだ。リアはそう思っている。

 そして、ショウと出会ったのも。

 ショウの腕のよさはリアが一番よくわかっている。ずっと戦場で見てきたのだから。リアには亜人の知り合いが何人かいて、その者たちの剣の腕を何回か見たが、ショウはずば抜けて強い。人間がどれだけ束になって襲っても、傷一つつけることはできないだろう。

 そのショウがクオシス=アレイには手も足も出なかったと言うのだから、奴の強さがどれほどのものかがわかる。

 リアは大きく息を吐く。

「私は今回、目的のためならば手段は選ばぬつもりだ」

「うん」

「私はショウを利用しようとしている。大事な友人を……自分の目的のために利用しようとしている。パティ。お前はそんな私を見て、どう思う?」

「……ボクは難しいことはよくわからない」

「そうか……」

 もう一度、息を大きく吐く。

 ヴェアールの名の重圧をまだ知らなかった頃、リアの世界は希望に満ち溢れていた。物心がつき、ヴェアールの名がどんどん重荷になった頃から、リアの世界から希望が一つ一つとなくなっていった。

 世界は全然綺麗じゃない。

 人の心は醜く、それでいてどす黒い。

 戦争に参加して、それがよくわかった。同族であるにもかかわらず、価値観や国の違いで争う。同じ世界、同じ大陸で暮らしているというのに、なぜ、こんなにも争う必要があったのか。当時のサウス=リアクターの国王だったヴェアール家の祖先が同盟を結んで、長年守られてきた平和だったのに。

「ショウはとっくに気づいているはずだ。あれはのんきそうに見えて、鈍くはない男だ」

 利用されるとわかった上で、あの男は一緒に旅をすると決断したはず。リアはショウを利用する。だったら、ショウもリアを利用するつもりでいるかもしれない。それでいい。

 リアとショウの関係は、戦場にて利害が一致して築かれたものだ。今回もあの時と変わらない。

「私は復讐を遂げるために、修羅の道を歩むのだ。冷徹でなければならない」

 自分の言い聞かせるように、リアは呟いた。

 その呟きを、パティは黙って聞いていた。

 パティだって決めたのだ。

 自分を救ってくれた姉の力になると。一緒に修羅の道を歩むのだと。

「パティ、それでも私についてきてくれるか?」

 何も言わずに力強く頷いた義妹の頭を、リアは優しく撫でた。

「生きて帰ろう。ヴェアールの屋敷に。……私たちが帰るべき場所に」

「……うん」

 脳裏にヴェアールの屋敷に住む人たちが過ぎる。

 帰ろう。

 すべてを終わらせて、あの場所へ帰るのだ。

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