再会5−2
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――思い起こせば、もう二年が経ったんだよな……
戦場で共に戦ったリアと別れて、二年が経った。あっけないほどの簡単な別れの言葉を口にして、二年が経ったのだ。
その歳月でどれだけリアは苦しんだことだろう。一時も自分が『人殺し』であることを忘れたりはしなかったはずだ。リアは責任感の強い子だから、苦しみ続けていたかもしれない。
だが、ショウは『人殺しの罪』を忘れようとしていた。忘れて、幸せになろうとしていた。
――それがいけなかったんだろうか……?
『人殺し』は地獄の深層界の業火で永遠に苦しなまいといけないほど重い罪だ。それを忘れようとしていたから、天罰が下ったんだろうか。
その天罰は家族を奪い、友達を奪い、故郷を奪い、そして――恋人を奪った。
なにもかもをショウから奪った。
忘れるな。お前は『人殺し』だ、と神様が言っているのだろうか。唯一の失敗をこの世界に産み落とした、万能であるはずの神様が。
ショウはベッドに横になり、天井に向かって手を伸ばした。脳裡に、あの時の光景が思い浮かぶ。
ルトはすべてを諦めたような顔をして、最後の触れ合いを求めるように手を伸ばしてきた。
だが、ショウはその手に触れることはできなかった。がくりと力なく垂れた彼女の手から滴り落ちる血。それを、ショウは呆然と見つめていた。
――オレは……なにも守れなかった……
里のみんなを守るために戦争に参加して生き残って帰ったのに、たった二年ですべてを失うことになるなんて。
なんのために、剣の修業をしていたのか。
みんなを守るためのはずだった。
だが実際、ショウはとても無力だった。クオシス=アレイと名乗る男から、誰一人として守ることはできなかった。彼女すら……守ることができなかったのだから。
たった二年だ。
幸せな時間はたった二年間。亜人の寿命から見ると、あまりにも短すぎる。たったそれだけの時間で、ショウは自分の罪を忘れようとし、幸せになろうとした。共に戦場を駆けた少女が苦しんでいたにもかかわらず、ショウはリアのことすらも忘れていた。
戦争に参加していた頃のことを夢だったのだと思えるくらい、忘れようとしていた。
――全部……オレが悪い……
二年経てば人は変わる、とリアは言った。
きっと、亜人も変わるのだろう。見た目は全然変わらないかもしれないが、心は変わっていく。
――みんな……
両手で目を隠す。
思い浮かんでくるのは、里のみんなの笑顔だ。みんな家族のように仲が良く、温厚で温和な人たちだった。ショウはそんなみんなが大好きだった。自分だけを残してみんなが死んでいくとは、考えたこともなかった。
取り残され、何もできなかったショウはのうのうと生きている。
リアと出会う前、何度も死のうとした。そのたびに、あの男の顔がちらついては復讐心が湧いてくる。あの男を殺すまで死ねないと、何度も自分を奮い立たせた。
みんなを無残に殺したあの男をこの手で殺す。
その時まで、絶対に死ねない。
――あの時誓ったはずだ……
胸の星型のペンダントを握り締める。
あの男を殺すのだと。復讐するのだと。
死ぬのは……それからだ。
みんなの墓前に仇を討ったことを報告するまでは、なんとしてでも生き残らなくては。
いつか自分の人生が終わりを迎えた時に、みんなによく頑張ったと言ってもらいたい。そしたら、ショウはこの修羅の道を歩むことを決めた自分の人生に胸を張れるような気がした。
里のみんなは復讐なんて望まないかもしれないけど、それでも仇を討たないでのうのうと生きることは自分の気持ちが許さなかった。
すべてを失って生きる目的すらない今、仇を討つことでしか生きる意味を見出せない。リアのように、自分の家で待ってくれている家族もいない。帰る場所もない。その中で生き続けるには、目的がないとすぐに死へと逃げ出してしまいそうになる。
だから、ショウは仇を討つことを決めた。それが今のショウを突き動かす生きる意味。
しかしリアと再会してからは、それが少しずつ変わり始めた。
この世界に自分を知っている存在がある。それに心底ほっとした。自分は独りぼっちではないのだとわかったから。
もしいつか仇を討ててリアが許してくれたなら、彼女を故郷に連れってってみんなの墓前で一緒に報告できたらいいなと思う。リアに相談したら、彼女のことだから断らないだろう。一緒に故郷についてきてくれるはずだ。
そのあとは、リアが継いだヴェアール家の私兵団にでも入れてもらおう。リアが大切にしているヴェアール家を、オレも守る手伝いがしたい。
そんな未来のことまで考えるようになったのは、リアと再会したから。リアのおかげで、仇を討った後の未来を考えられるようになった。
だからこそ、あの男を討って生き残る。
リアがその気持ちに変えてくれた。リアと再会していなければ、今も死への衝動を抱えたまま大陸中を彷徨っていたかもしれない。
あの時、森の暗闇の中で見つけた炎。
あれが希望の光だったのかもしれない。




