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Wind Illusion Story ー世界は混沌に選ばれし勇者の再来を待ち望むー  作者: 雪杜 凛


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再会5-1

 5.


 この世界には大陸が一つしか存在せず、その大陸を南北で半分に分かつように二つの国が存在する。

 この二つの国はほぼ同時期に建国されたと伝えられており、その際に同盟を結んで以来、長い間その同盟は守られ争いなどは起こらなかった。

 だが、今から七年前――戦争が勃発した。

 北の国ノース=カイマートの国王による一方的な同盟破棄による侵略の開始が始まり、領土を守ろうとしたサウス=リアクターとの全面戦争となった。

《ヴェスラ会戦》《フレスト対戦》という大きな二つの戦争を経て、この争いは再び同盟を結ぶ形で終わった。

 この二つの大きな戦争やその他の争いなどをすべてひっくるめて、誰かが《レーベル大戦》と呼んだ。今では戦争のことを話す際はこの名前が使われることが多い。

 再び同盟が結ばれ、《レーベル大戦》が終わったのは今から二年前。

 戦争終結から2年経った今でも、大陸にはまだ大きな傷跡が残り、人々の心にも傷跡は残っている。

 ショウは最初の大きな衝突である《ヴェスラ会戦》から戦争に参加していた。亜人であるにもかかわらず、人間の戦争に参加したのだ。亜人の身体能力を駆使して敵を屠り、自ら望んで配属された最前線を駆け抜けた。

 そして、戦争の勝敗を左右したと言われている、2度目の大きな衝突である《フレスト対戦》にも志願した。

 その戦場で、ショウはリアと出会った。

 あの頃のリアはまだ十三歳。見た目は戦場が似つかわしくないほど幼かった。だが、性格はまったく変わっていない。逆に、今のほうが磨きがかかっているかもしれないと思うほどだ。

 リアは魔法使いとして素晴らしい才能を持って生まれ、魔力の高さも世界でトップレベル。

 戦場でリアと魔法について聞いた時は、高い魔力を持っているからといってそれを自由自在に操れるかは別物らしい。魔力の高さは生まれ持った才能だが、それを操るセンスは人それぞれということだ。人によっては、魔力が低くてもそれを使いこなすセンスが素晴らしい人がおり、そういう人は少ない魔力で強い魔法が使える。逆に魔力が高くても使いこなすセンスが低ければ、少しの魔法で膨大な魔力を消費してしまう。

 その中で、リアは魔力も高さもそれを使いこなすセンスもトップレベルの才能の持ち主だった。だからこそ、長子である兄を差し置いて、ヴェアールの後継者として選ばれた。話から察するに兄もそれで納得しているようで、ヴェアール家では後継者問題は起きていないようだ。

 幼い頃から、ヴェアールを継ぐ者としての教育を受けていたリアは、出会った当初、幼いながらもしっかりと現実を見つめている印象を受けた。

 あの事件から自然と疎遠になってしまい、戦争が終結した時に、これからのことを少し話して、それぞれの道に進んだ。

 あれから二年。

 リアがどんな思いで暮らしていたのかはわかる。

『人殺し』の罪の意識に苛まれていたことだろう。

 時々見せる暗い表情。一時たりとも自分の犯した罪を忘れたことがないのだろうと思った。

 戦争だから仕方ない。

 リアはそんな言い訳はしない。

 ショウに守りたい者がいたように、リアにも守りたい者がいた。守るべくして戦い、『人殺し』はその結果。

 リアが『人殺し』であるように、ショウもまた『人殺し』だ。この手でたくさんの命を奪った。全身血で濡れ、屍を乗り越え、戦い、殺し、生き残った。

 だが、殺した数はリアの足元にも及ばない。

 リアは何回か大きな魔法を使っただけ。それだけで、何千、何万という人を殺した。

 だから、人々はリアのことを恐れを込めて『赤い悪魔(マーディエス)』と呼ぶ。

 この世界で『悪魔』は最上級の蔑みの言葉。

 その呼称を耳にした時のリアの傷ついた顔は、今でも忘れることができない。

 悲しみで泣きそうな、つらさで叫びそうな、そんな表情だった。

 国の人々のために戦い、その強大な力のせいで守りたかった国の人間からも恐れられる。こんなに悲しい話はない。

 だが、リアの強大な力を前にして、誰もが畏怖したのは事実だ。幼い少女が持つには、あまりにもその力は大きすぎた。ヴェアール家一の魔力を誇ると言われていた父親よりも、さらに強大な力を持って生まれてきたリア。

 そのせいで幼い身で戦場に立つことを周囲から求められた。一刻も早く戦争を終わらせる重責を背負い、リアは何千、何万という人間を戦場で殺した。

 リアのその力は人を殺しもしたし、逆に救いもした。それは間違いない事実。だが、『殺し』の行為はリアの心を深く傷つけた。

 ショウは魔法使いじゃない。だから、直接手を出さずに人の命を奪えるリアの苦しみを、完璧に理解することはできない。だがそれと一緒で、リアは剣士ではない。だからリアはショウの苦しみが理解できないことだろう。人の肉を断つ感触をリアは知らない。

 リアは自分の苦しみを一人で抱え込んでしまう。だから、たった一人で苦しむ。自分の苦しみを誰かに分け与えて、一緒に苦しんでもらおうとか、そんなことはしない。だから余計苦しむ。

 でも、リアが戦争に参加しなかったらもっと被害が大きかったかもしれない。死ぬ必要がなかった人が死んでいたかもしれない。代償がとても大きかっただけで、リアは確かに多くの人の命を救った。

 リアの存在は兵士たちの士気も上げた。幼かったものの紛れもない魔法使いで、すべての魔法を使いこなす世界でもトップレベルの実力を持つ少女。

 周囲の期待に応えなければならない重圧が、あの時のリアの両肩に乗っかっていた。

 ヴェアールの名を持つ者なのだから、みんなの期待通りにしなければならないと。

 その期待が、リアの心を蝕んでいったのだ。

 リアが戦場で大きな火柱を上げた時、兵士たちは喝采を上げた。リアの強大な力を見て、自分たちは戦争に勝てるのだと喝采を上げたのだ。リアが『人を殺した』という事実も見もしないで。

 戦争とはそういうものなのだ。

 リアはそう納得しようとしていた。命の最前線。生と死が交錯する場所。

 ここでは、自国の人間を守るために他国の人間を殺さなくてはならない。

 戦場というのはそういうものだ。

 頭ではわかっている。

 わかっているのだが、どうしても納得できない心がリアにはあったのも事実。

 もっと別の解決方法があったのではないかと。

 戦争に参加する以外に、もっと別の……なにかの解決方法があったはずなのだと。

 だが、すでに人を殺してしまったリアに後戻りは許されなかった。『人殺しの罪』に押し潰されそうになっていたリアを支えたのが、当時、最前線で戦う特攻部隊長の隊長をしていたショウだ。同じ『人殺しの罪』を背負ったショウが、崩れ落ちそうになっていたリアを支えた。

 だが、あることがきっかけで二人の道を違えることとなった。

 そして二年が経ち、やっと戦争の傷跡から立ち直り復興しようとしている大陸で、なんの因果か二人は出会った。

 ショウはリアの実力を認めているし、リアもショウの実力を認めている。

 自分の目的を果たすために、互いは強い味方になれると確信があった。

 戦争の傷跡が残る世界で、二人はまた修羅の道を歩もうと手を組んだ。

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