再会4-5
亜人。
人間よりも魔物に近いとされ、魔物よりも人間に近いとされる存在。その身体能力は非常に高く、人間を軽く凌駕する。そして、人間とのなによりの違いは長命であることだ。
故に、亜人は昔、人間からすみか住処を追われた。それまでは人間も亜人も共に暮らしていたと歴史書に残っているが、自分たちとは違うモノを恐れ始めた人間の手によって亜人は追放された。
追い出された亜人たちは広い大陸を彷徨い、肩を寄せ合って、人間が近づかない場所で集落を作り細々と暮らし始めた。ショウはそんな亜人の末裔だ。
今でも人間の中には亜人のことを毛嫌いする者がおり、『魔物と交わった忌まわしきモノ』と言う者さえいる。
リアは亜人の知り合いが何人かおり、貴族の中では珍しい亜人に対して友好的な人間だった。
「戦争の時に出会ったのだ」
そう言って、リアが目を伏せる。
「……」
パティは姉がいつも『戦争』という単語、あるいはそれに付随する言葉を言った時、いつも悲しそうな顔をするのを見てきた。さすがに戦争には付いていけなかったので、姉が戦争でどんなことをしたのか、どんな物を見てきたのか知らない。ただ、いい思い出はなかったのだろうと思う。
「あいつはやはり亜人だな。出会った頃と、まったく変わっていない。強いて言えば、髪の長さぐらいか」
亜人は成人するまでは人間と同じスピードで成長する。成人を迎えると、途端に成長スピードがゆっくりとなる。
リア自身もショウの正確な年齢は把握していない。亜人は長命である分、自分の年齢に無頓着らしいのでショウ自身も自分の年齢をはっきりとわかっていない可能性が高い。
「ショウは二年くらいじゃ、なにも変わらないか」
むしろ、変わったのは自分だろうか。リアはそんなことを思った。
変わっていないつもりなのだが、人間にとって二年は長い。自覚のないところで変わっているのかもしれない。
その時、ドアがノックされる。姿を見せたのは、先ほど部屋へ案内してくれた女性の店員だった。
「前菜をお持ちしました」
女性が両手にお皿を持ってやってきた。途端に、部屋中にいい匂いがたちこめる。
「魚料理コースの前菜です」
そう言いながら、女性はパティの前に皿を置いた。
「肉料理コースの前菜となります」
次に、リアの前に皿を置く。
「ごゆっくりどうぞ」
頭を下げ、女性は部屋を出て行った。
パティは女性の気配が完全に遠かったのを確認してから、再び口を開く。
「それにしても、お姉ちゃんが他の人の旅の同行をよく許したね」
フォークとナイフを手にし、パティは「いただきます」と言って食べ始めた。
リアも同じく食べ始める。前菜を一口食べ、飲み込んでからパティの問いに答える。
「利害が一致したからだ。それに、あいつの腕はよく知っている。普通の人間が束になっても、あいつには敵わん。パティ、さすがのお前でもショウには負けるだろう」
その言葉に、パティはきょとんとする。
昨日今日とリアとのやりとりを見ていたが、見た目は優男で普段の言動からはそんなに実力を秘めている気配も感じない。だが、自分よりも強いと言い切ったリアの言葉が本当なのであれば、普段からそういうことを相手に感じさせないようにしているのだろう。
もしそれが事実であれば、かなりの手練れだ。
「そんなに強いんだ」
視線を料理へと落とす。
リアがその実力を誉めると言うことは、本当にショウは強いのだろう。
「亜人は元々、身体能力が高いのだ。私の補助なんて必要ないくらいにな」
それで納得した。補助魔法が必要ないくらいに身体能力が高いのであれば、リアがその実力を認めるのも当然だ。
「ボクはお姉ちゃんの魔法で身体能力が高いもんね」
「そうだな」
パティは人間だが、リアの補助魔法が常に体内を巡っているため、人間以上の身体能力を発揮することができる。しかし、それに驕ることなく修行を続けてきたため、最終的には師匠からその実力を認められて一人前となった。
リアが前菜の最後の一口を食べようと口を開いた時、パティがなにかに反応してドアの方へ視線を向けた。それを不思議に思ったリアが声をかける前に、ドアがコンコンとノックされる。自然とリアの視線もドアへ向かった。
「すみません。お客様をお訪ねにきた方がいらっしゃったんですが……」
先ほどの店員の声がする。それを聞いてリアとパティは顔を見合わせた。
この街に知り合いはいないし、訪ねてくる人物に心当たりがなかった。もしかして、領主がリアがいることを知って訪ねてきたのだろうか。ヴェアール家の後継者であるリアは国中の貴族に顔が知られているため、今まで立ち寄った街でもたびたび噂を聞きつけて領主が訪ねてくることもあった。
面倒だな、と思ったリアは、その気持ちが表情に出ていたのだろう。パティがリアを見て、「ショウ」と短く言った。
あぁ、と訪ねてくる可能性がある人物に思い当たって、「通してください」と声をかける。
返事があり、ドアが開かれると、そこにはパティが言った通りショウがいた。
「無理言ってすみません」
店員へぺこぺこと頭を下げながら部屋に入ってきたショウは、リアの姿を見てホッと息を吐いて近づいてきた。
「置いて行かないでくれよ。ビックリしたじゃないか」
そう言いながら、ドアに近い椅子に座る。
「ぐっすりと寝ていたから起こすのも悪いかと思ってな」
「まぁ、久々にゆっくり眠れたけどさ」
その時、ぐぅと気の抜けた音がし、ショウが自分のお腹に手を当てる。
「悪い」
「謝る必要はない。好きなものを頼め」
そう言って、リアはショウへメニューを手渡す。
「ありがとう」
ショウはそれを受取って眺めた後、「やっぱり肉だよなぁ」と言ったので、リアはベルを鳴らして店員を呼び、自分と同じ肉料理のフルコースを量多めにして持ってくるように頼む。
「よく私たちの居場所がわかったな」
この街はそれなりに大きい。人通りも多いし、その中から目的の人を探すのは至難の業だ。それにリアたちが宿を出てからショウがやってくる時間を考えると、ほぼ迷いなくここまで辿り着いたのがわかる。
リアの問いに、ショウはあっけらかんと「ここから強い魔力を感じるから、ここにいるんじゃないかなぁって思って」と答える。
その言葉で、リアは納得が行った様子を見せた。
「亜人は魔力感知の能力があるからな。それにちょうど良かった。この後に食料の買い出しに行こうと思っていたのだ。お前に荷物持ちをさせることができる」
「まぁ、ご飯おごってもらうんだし、それくらいはするよ」
その後しばらくしてショウにも量が多めの前菜がやってくる。
店員に次の料理からは同じタイミングで持ってくるように頼んだリアは、ショウが食べるのを見ながら「誰も取ったりはしないから、ゆっくり食べろ」と言って、自分の分の最後の一口を食べた。




