再会4−4
街は活気に溢れ、リアが「これくらいの大きさなら、これだけの人間がいて当たり前だな」と言う。
王都から離れた辺境の街ではあるものの、国を横断する街道の中継地点に作られているので、行き交う人の数はかなり多い。
あまりヴェアール家の屋敷から出たことがなかったパティは、物珍しさにきょろきょろと辺りを見回す。
そんなパティを見て、リアはため息をついた。
「食事が終わった後に、食料の買い出しをしてショウに荷物持ちをさせたかったんだが、仕方ないな。パティ、持ってくれるか?」
姉から頼まれて、姉大好きなパティが断るわけもない。
「わかった」
素直に頷いたパティの頭を撫でる。
「すまないな。頼りにしてる」
大好きな姉から頼りにされている。それだけで、パティは天にも昇るような気持ちになった。
自分の頭からリアの手が離れたことを残念に思いながらも、歩き出した姉の後に続く。
しばらく歩いていると、リアの視界に料理屋の看板が入った。近づいて確認してみると、中に客の姿がある。どうやら昼から営業している食堂のようだ。
「ここで構わないか?」
リアはそう訊ねるものの、二人揃って空腹であるため、他の食堂を探しているほどの余裕はない。
パティが頷こうとした瞬間、近くから囁く声が聞こえた。
「すげぇ。本物の魔法使いだ。初めて見た……」
リアは宿を出てからずっと、道ゆく人たちからの注目を集めていた。
魔法使いは世界的に見れば珍しい存在であり、普通に生きていれば出会う可能性はほとんどない。それでも、魔法使いと普通の人間は一目で判別することができる。
魔法使いの外見はまったく同じになるからだ。
燃えるような赤。
それが魔法使いが持つ特徴だ。
髪の一本一本が赤く染まっている。魔力を持っている人間は、生まれた時から赤い髪をしているという特徴がある。身の内に秘める魔力が大きければ大きいほど、色鮮やかな赤を持つ。
瞳は一番魔力の影響を受けるらしく、少しでも魔力を持っていたら真っ赤に染まる。
世界でも一、二を争うほどの魔力量を持つとされているリアは、燃えるような赤い髪に鮮やかな赤い瞳。そんなリアを周りの人たちは一目で魔法使いであると認識できる。
注目されていることを知りながら、リアは平然としていた。そんな目は物心ついた頃から向けられていて、いちいち気にしていられない。ほとんどの者は恐れて遠巻きに見てくるだけで、実害を与えてくることがないからだ。
旅を始めたばかりの頃、パティは周りの目が気になったのだが、3ヶ月も経てば慣れてしまった。
パティが頷くのを見てから、リアが料理屋のドアを開き、「店主。席は空いているか?」と声をかけると、ちょうど客のテーブルに料理を置いていた店主は「へい、らっしゃい」とリアを見て、目を丸くした。
「……な、なんでこんなところに魔法使い様が?」
その言葉が周りの客にも聞こえたらしく、一斉に視線が集まり、違う意味でザワザワし始める。
「旅の途中だ。それよりも席は空いているのか?」
「は、はい。奥の席へどうぞ」
すぐに女性が現れ、リアとパティを奥の席へ案内する。その途中でも、客たちは食べる手を止めてリアの赤い髪に見入っていた。
ひそひそと「なんで、魔法使い様がこんなところにいるんだ? あの人たちって、自分たちの領地からほとんど出ないって聞いてるんだけど」「わかんねぇ。旅の途中って聞こえたぞ」と話しているのが聞こえる。
リアはそんな声が聞こえていないかのように無視する。二人が案内されたのは個室の部屋だった。身分の高い人が使う部屋のようだ。サウス=リアクターにいる魔法使いのほとんどは貴族の生まれであることが多い。なので、リアを貴族の人間だと判断したのだろう。
リアは近くの壁に杖を立てかけ、椅子に座って手渡されたメニューを開いた。メニューも平民とは違う内容になっているらしく、貴族向けの料理名が並んでいる。
リアの向かいに座ったパティもメニュー表を渡される。
「注文が決まりましたら、ベルを鳴らしてお呼びください」
そう言って一礼し、女性が部屋から出ていく。テーブルの上のベルが聞こえる距離に待機するのだろう。だが、部屋の中の話が聞こえないくらいの距離を取って。
「お姉ちゃん。ボクこれがいい」
そう言ってパティが指さしたのは、魚料理のコースだった。あまり好き嫌いがなくてなんでも食べるパティだが、肉よりも魚を好む傾向がある。
「私はこれにするか」
朝からなにも食べていないリアが選んだのは肉料理のコース。
注文が決まったところでテーブルの上にあるベルを鳴らすと、少ししてから先ほどの女性が現れる。注文を告げると、「しばらくお待ちください」と言って、厨房に向かって行ったのを見てパティが口を開く。
「お姉ちゃん。ひとつ聞いていい?」
「なんだ?」
「ショウって人間?」
リアが一瞬だけ、驚きに目を見開いた。それをパティは見逃さなかった。
「……なぜ、そう思う?」
否定はしなかった。それは肯定しているも同然だ。
「気配が……人間ぽくない」
パティは多くの魔法使いを輩出する名門貴族であるヴェアールの家で、魔力を持たないがために拳闘士の道を選び修行を積んだ。そのため、とても気配に敏感になった。目を瞑って雑踏を歩いても、人にぶつかることがなくなるくらいに。
パティの言葉にリアは眉を寄せ、ゆっくりと口を開いた。
「確かに、ショウは人間ではない」
聞き耳を立てている者はいないはずだが、無意識に少しだけ声を潜める。そんな者がいたらパティがとっくに気が付いているだろう。
「ショウは……『亜人』と呼ばれる一族の出身だ」
亜人。
その言葉に、今度はパティが息を呑む。




