再会4−3
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ぐぅ、と気の抜けるような音が部屋に響き、それを聞いたパティがぼそりと呟く。
「だから、ボクのを半分あげようかって言ったのに……」
パティの非難がましい声を聞きながら、リアはベッドに座って足を組んだ。いくら義妹とはいえ、腹の虫を聞かれたのが恥ずかしいのか、リアはほんのりと顔を赤くして相手を睨んだ。
「うるさい。乾パンが半分だけじゃ、パティの体がもたないだろう」
確かに、パティは小さい身体ながらもたくさん食べる方だ。その点、リアはパティと比べると食べる量は少ないかもしれない。だが、それでも食べなければお腹は空く。
「でも、それじゃお姉ちゃんのお腹がすいちゃうよ」
パティの指摘に、リアは腕を組んでそっぽを向く。
「人間は一食抜いただけでは死なん。街に入ったことだし、今からなにか食べればいい」
再び、ぐぅ、と音がした。腹を押さえ、リアは諦めたようにため息をついた。
その様子を見て、パティは背負っていたリュックをドサッとベッドに置く。
「じゃあ、早く何か食べに行こうよ」
正直、パティもお腹が空いている。街に入った時、あちこちからいいにおいが漂ってきて空腹が刺激されていた。
「……そうだな。部屋は確保したし、一階の食堂が開くのは夜からだ。屋台で買ってきて部屋で食べるか、昼からやっている食堂に入って食べるかしないとな」
ベッドから立ち上がり、壁に立てかけていた杖を手にする。
この杖は魔法使いと呼ばれる者たちにとっては、命と同じくらいに大切なものだ。魔力を持つと言われる貴重な万年樹木を削って造られるもので、多くの魔法使いが喉から手が出るほど欲しがる一品でもある。世界的にも万年樹木の加工を扱える職人は少なく、サウス=リアクターでは国を挙げて職人の育成を行なっているのだが、加工技術の継承がかなり難しくなかなか職人が育たない。
魔法使いは魔法を使う際に、この杖に魔力を通してから具現化させる。そのほうが魔力の効率が良くなり、杖を使わない場合よりも少ない魔力で魔法を構築することができる。少量の魔力で強い魔法を使えるようになるので、魔法使いは万年樹木で造られた杖を持つことが多い。
だが、それでも貴重なものであることには変わりがないので、盗難の被害に遭う者やそもそも経済的な理由で杖を持つことができない魔法使いたちも一定数いる。
「パティ。なにか食べたいものがあるか?」
振り返りながら訊ねたリアに、パティは「なんでもいいよ」と答える。
パティは特に好き嫌いがないからなんでも食べるので、こういう時はリアにすべて任せている。リアもそれがわかっているため、不満を口にすることはなく少し考えるような素振りを見せてから、提案してくる。
「そうか。なら、ショウが食べたいものでも食べるか?」
その言葉にパティは頷き、リアと一緒に部屋を出た。
「一応、結界をかけておこう」
鍵を閉めたものの、それでも賊が侵入した時のことを考え、リアが念のために結界魔法を展開する。これによって、誰も部屋に入ることはできなくなった。
「よし、行くぞ」
結界魔法の展開をしっかりと確認してから、リアが歩き出す。パティは姉の背中を追った。
リアたちが借りた部屋の三つ隣りに移動し、リアが声をかける。
「ショウ。私だ」
こんこん、とドアをノックしてしばらく待っても、返事がない。
「……ショウ?」
もう一度名前を呼び、こんこん、とドアをノックする。やはり返事はない。
「寝ているのか?」
そう言いながら試しにドアノブを回してみたところ、ガチャリと開いた。
「なんだ。鍵を閉めていないのか。不用心な奴だな」
呆れたように呟きながらドアを開けて中を見てみると、ショウはこちらに背を向けてベッドで横になっていた。
「……寝ているようだな。疲れているのだろう。無理もない」
何ヶ月も一人で仇を探して彷徨い、極限状態まで追い込まれていたのだ。その疲れが一晩休んだだけで取れるはずもない。
静かにドアを閉め、リアは後ろにいるパティを振り返った。
「ショウはそっとしておこう。とりあえず、私たち二人だけで食事して、ショウにはなにか買って帰るか」
「うん」
パティは頷き、リアはパティを連れて宿を出た。




