再会4−2
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その日のお昼過ぎ、無事に街へと到着した。
道なき道を進んでいくリアに対して、なぜ街道を通らないのか、と訊いたショウに「こっちが近道だと思ったんだ」と答えが返ってくる。意味がわからないまま付いてくと、近道だと思って街道ではなく山道を選んだが、思った以上に草木が生い茂っていて街道を進んだ方が早かっただろうと後悔している、と聞かされる。
「だが、山道を進んだことによってショウと再会できたのだから、それでよしとする」
リアはそう言い切り、目の前の枝をナイフで切り落とした。
目の前の道が道なき道すぎて、ショウはどんどん不安になってくる。まさか迷子になっているんじゃないだろうな、と思ったりもしたのだが、リアがそんな失態を犯すわけもないし、そんなことを口にしてしまったら杖で脳天を叩かれるだけじゃすまないだろうから口を閉ざす。
鬱蒼とした森を抜け、赤煉瓦で作られた街並みが丘の下に見えた瞬間に、ショウはホッと安心した。そこでやっと、目的の街に向かって進んでいたのだと実感した。
胸を撫で下ろしているショウに気づき、隣に立っていたリアがジト目で「なんだ? お前は私が迷子になっているとでも思っていたのか?」と言った。
「……」
肯定も否定もしなかったことで、リアの中で確信を深めてしまったようだ。ずっと睨んでくるため、ゆっくりと目を逸らす。
そんなリアの感情に反応したのか、彼女の頭に乗っかっていた枯葉がボッと燃えてなくなった。それを見て、今度は自分がそうなってしまうのではないかと思い、「いや、全然そんなコト思ってないヨ」と片言で言いながら、ごまかすように両手を左右に振る。
それを見て、リアは「ふん」と言って、歩いて行ってしまった。納得はいっていないようだが、見逃してはもらえたようだ。
とりあえずことなきを得たことに安心して、リアの後を追うパティに続く。
街はそれなりに大きく、たくさんの人間が行き交っていた。赤煉瓦の建物に石畳の道が続いている。祭りでもなさそうなのに、どこかから楽器による生演奏が風に乗って聞こえてくるし、人々の話し声などもあちこちから聞こえてくる。
だが、その人たちがリアをぎょっとした目で見てくるのは気になった。そんな注目の的であるリアは躊躇いもなく道ゆく人に何度か宿の場所を訊ね、場所がわかると一目散にそこへ向かった。
木製のドアを開けると、取り付けてあるベルが鳴る。そのことで客が来たと認識した女主人は視線を向け、リアを見るなり目を見開いた。
「おりゃま。魔法使い様が、なんでこんなところに?」
まぁ、驚くのも無理はない。
魔法使いは本来なら、王都か領地にある屋敷にいることが多い。こうやって辺境の街を訪れることはあまりなく、人によっては一度も魔法使いの姿を見ることなく一生を終えたりもする。サウス=リアクターにはそれなりの数の魔法使いが存在しているが、その姿を見かけることができる場所は限られている。少なくとも、この街に住んでいる人たちは話には聞いたことはあっても実際に見たことはないのだろう。
だからこそ、女店主の驚きは当然だ。この宿に来るまでの間リアはかなり人目を引いていたが、本人は慣れているのかまったく気にしていない様子で、逆にその光景を見ていたショウの方が人目が気になってしかたなかった。
「三人だ。部屋を二つ借りたい」
女店主の問いかけを無視し、リアは用件だけを告げる。それを聞いて相手はそれ以上余計なことは何も言わず、すぐにカウンターの上に鍵を置いた。
「はい。こっちがツイン。こっちがシングルです」
「ありがとう。明日の昼には出るから」
「わかりました」
鍵を受け取り、リアはショウにシングルの方を手渡した。
「こっちがお前が使う部屋だ」
「わかった」
鍵に付けられているタグに『二〇九号室』と書いてある。宿にはあまり泊まったことはないが基本的知識くらいはあるので、それがわかっているらしいリアは詳しく説明してこない。
彼女が一階の食堂を抜け、二階へ続く階段を登った。それに続く。階段を登り終えると目の前には長い廊下があり、その両側に規則的な間隔でドアが並んでいた。
その廊下を迷いなく進んでいくリアの後ろで、ショウは田舎者丸出しの様子でキョロキョロとしてしまう。ドアには番号が書かれているプレートが下がっており、これが部屋番号なのだろうと思った。
リアが二〇六号室の前で立ち止まったのを見て、ショウはさらに奥へと進んだ。
二〇九のプレートが下がっている部屋を見つけた。どうやらショウが使う部屋はリアたちの三つ隣のようだ。
「ここか……」
鍵を開けて中に入ると正面には窓があり、左奥に置かれているベッドが目に入った。その近くには丸テーブルが置かれており、シンプルな造りの部屋だった。まぁ屋根があるだけでもありがたいので、ショウは丸テーブルに備え付けられている椅子に背負っていたリュックを置いた。
「……ほんとに、旅の装備としては軽いよな」
重さは一応あるのだが、旅の荷物としては予想していたよりは軽かった。上にあるテントをどかし、中を見てみると乾パンを炙る時に使っているのをよく見ていた鉄串や簡単な調理を行う際に使うであろう調理器具に、一般的に出回っているスパイスセットのボックス、あとは食器が数枚あるだけだ。それ以外は何もなかった。
これでは軽いはずだ、と思いながら、ふと気づく。
「食料がない……?」
そう言えば、目が覚める瞬間にパティが『これが最後だよ』って言っていたような気がする。もしかして、リアが差し出してきたあの乾パンが最後の食料だったのでは?
起きたばかりの時の光景を思い出す。あの時、パティは手に炙った乾パンを持っていた。だが、リアの手には何も握られてはいなかった。
「……リアは食べなかった?」
その答えに行き着いた。
最後の一個をショウに譲ってくれたということなのだろう。
「……」
昔からリアが不器用に優しいことは知っていたけど。
ショウはため息をついた。
――また、気を遣わせちゃったなぁ……
そう思いながら、もう痛くない頭をさすった。




